アーミー・ネイビーゲームとは?アメリカを象徴する大学フットボールの伝統

アメリカには数多くの大学フットボールの試合がありますが、その中でも特別な存在として語られるのが「アーミー・ネイビーゲーム(Army–Navy Game)」です。
この試合は、アメリカ陸軍士官学校(ウェストポイント)と、アメリカ海軍兵学校(アナポリス)のアメフト部がシーズン最後に対戦する一戦で、単なるスポーツの枠を超えた「国民的行事」として位置づけられています。

毎年12月に行われるこの試合は、しばしば「もうひとつの南北戦争(A Civil War)」とも呼ばれ、同じ国に属しながら任務も誇りも異なる2つの軍種が、名誉と誇りを懸けて激突する伝統のライバル対決です。
観客席には制服姿の士官候補生がずらりと並び、軍楽隊の演奏や行進、国旗掲揚、国歌斉唱など、軍事儀礼と大学スポーツが一体となった独特の雰囲気が広がります。

歴史と伝統:「もうひとつの南北戦争」と呼ばれる理由

アーミー・ネイビーゲームの歴史は19世紀末までさかのぼります。
アメリカ南北戦争からそれほど時を経ていない時代に始まったこの対戦は、陸軍と海軍という2つの軍種のプライドをぶつけ合う場として徐々に注目を集めるようになりました。

・出場するのは、将来の軍の指導者となる士官候補生たち。
・勝敗は単なる「勝ち負け」ではなく、部隊としての団結、士気、誇りの象徴になります。
・両校にとって、この試合は一年で最も重要なイベントのひとつであり、卒業後も生涯語り継がれる思い出となります。

こうした背景から、アーミー・ネイビーゲームは、しばしば「アメリカの精神と軍の伝統を映し出す鏡」とも言われます。スタジアムには退役軍人や現役軍人、その家族も多く訪れ、国家への敬意と、自由や奉仕への意識が強く感じられる場となっています。

試合の舞台と「司令官杯(Commander-In-Chief’s Trophy)」

アーミー・ネイビーゲームは、固定されたホームスタジアムではなく、中立地となる大都市のスタジアムで行われることが多いのも特徴です。
近年は、とくにボルティモアやフィラデルフィアなど、東海岸の都市が開催地となることが多く、毎年「どの街で行われるのか」にも注目が集まります。

また、アーミー・ネイビーゲームは、アメリカの3つの軍関連大学、
・陸軍士官学校(Army)
・海軍兵学校(Navy)
・空軍士官学校(Air Force)
の三つ巴で争われる「司令官杯(Commander-In-Chief’s Trophy)」の行方を左右する試合でもあります。

「司令官杯」は、これら3校の直接対決の成績によって決まるトロフィーで、軍人を志す若者たちにとっては特別な意味を持つタイトルです。
ニュース内容によれば、今年もボルティモアでアーミーとネイビーが対戦し、この司令官杯を懸けた重要な一戦となることが伝えられています。勝利したチームは、1年間「軍関連大学の頂点」として誇りを手にすることになります。

「伝統行事」だけではない、政治と社会の緊張感

一方で、このアーミー・ネイビーゲームは、政治的な注目も集まりやすい場です。
アメリカ大統領や政府高官が観戦に訪れることも多く、軍や安全保障をめぐるメッセージを示す舞台としても利用されてきました。

ニュース内容のひとつでは、ドナルド・トランプ前大統領がこの試合を観戦した際、スタジアムの外で抗議デモが発生したことが伝えられています。
この抗議行動は、トランプ氏の政策や発言、安全保障や退役軍人政策などに対する批判的な立場から行われたとされ、アーミー・ネイビーゲームという「軍と愛国心を象徴する場」が、社会的・政治的な対立が可視化される舞台にもなっていることを示しています。

つまり、この試合は
軍人の卵たちが誇りを懸けて戦うスポーツの舞台であると同時に、
国家の安全保障や政治、社会が交差する象徴的な空間にもなっているのです。

スタジアムの風景:軍服と応援がつくる独特の一体感

アーミー・ネイビーゲームの現場を特徴づけるのは、なんといっても観客席に並ぶ士官候補生たちの姿です。
陸軍、海軍それぞれの制服に身を包んだ若者たちが整然と座り、試合前から声援やコールでスタジアムを盛り上げます。

・キックオフ前には、各軍の行進や軍楽隊のパフォーマンスが行われます。
・空には軍用機が飛行し、編隊飛行(フライオーバー)で試合開始を祝うこともあります。
・国歌斉唱の際には、スタジアム全体が静まり返り、軍人と市民がともに国旗へ敬意を示す光景が広がります。

試合後の恒例行事としてよく知られているのが、勝利チームと敗者チームがそれぞれ相手側の校歌をともに歌うという儀式です。
・まずは敗れた側の校歌を両チームで歌い、負けたチームへの敬意と団結を示します。
・次に勝者の校歌を歌い、勝利を称えます。
この流れは、「競い合いながらも、同じ国を守る仲間である」というメッセージを象徴的に表すものとして、多くの人の心を打ってきました。

「A Civil War」と呼ばれるライバル対決の奥にあるもの

ニュース見出しにある「A Civil War: the ‘Army-Navy Game’, a college football tradition like no other」という表現は、
この試合がアメリカ国内の「兄弟げんか」のような激しさを持つ一方で、国を二分する本当の戦争ではないという皮肉と誇りを含んだ言い回しです。

・陸軍側は、地上戦・陸上部隊の誇りを背負ってプレーします。
・海軍側は、海と空での作戦、艦隊運用の伝統を背景に戦います。
互いに軍としての役割も文化も異なるため、このゲームは軍種同士の文化的な違いをぶつけ合う舞台にもなっています。

しかし試合が終われば、彼らは将来、同じ戦場で協力し合う仲間になります。
フィールド上の激しいぶつかり合いとは対照的に、試合後には強く握手を交わし、互いの健闘を称え合う光景が毎年見られます。
この姿は、「対立しながらも、ひとつの国として団結する」というアメリカ社会の理想像を象徴しているとも言えるでしょう。

トランプ氏出席と抗議デモが映し出す、現代アメリカの姿

ニュース内容によれば、トランプ前大統領がアーミー・ネイビーゲームに出席した際、会場周辺では抗議デモが発生しました。
これは、アーミー・ネイビーゲームが、政治的メッセージを発信する「舞台」としても注目されていることを改めて示しています。

・一方には、大統領や政権への支持を表明する人々がいます。
・他方には、政権の政策や発言に反対する市民や団体がいます。
アーミー・ネイビーゲームのような大きなイベントは、これらの立場の違いが目に見える形でぶつかる場となりやすく、抗議やデモ、プラカード、シュプレヒコールがニュースで取り上げられます。

その一方で、スタジアムの中では、軍人の卵たちが全力でプレーし、多くの観客が純粋にスポーツとして試合を楽しんでいるという側面も同時に存在します。
外では政治的対立、内ではスポーツと伝統――こうした二重構造こそが、近年のアーミー・ネイビーゲームを取り巻く現代アメリカの姿とも言えるでしょう。

ボルティモアでの対戦と、地域社会への影響

今年のニュースでは、アーミーとネイビーがボルティモアで対戦し、司令官杯を懸けて戦うことが伝えられています。
ボルティモアのような大都市がこの試合をホストすることで、経済的・文化的な効果も期待されます。

・試合当日は、多くの観光客や関係者が訪れ、ホテル、飲食店、交通機関などがにぎわいます
・街中には、アーミー、ネイビー双方のカラーやロゴをあしらった旗や装飾が掲げられ、街全体が「お祭り」のような雰囲気に包まれます。
・ボルティモア市にとっても、全国中継されるこの試合を通じて街の名前が繰り返し紹介されることは、イメージ発信の面で大きなメリットになります。

また、地元の子どもたちや学生にとっては、現役の士官候補生や退役軍人と触れ合う貴重な機会となります。
試合前後には、地域と軍が連携した交流イベントやボランティア活動が行われることもあり、軍と市民社会との距離を縮めるきっかけにもなっています。

日本からこのニュースをどう見るか

日本に暮らしていると、アメリカの大学フットボール文化や軍との結びつきは、少しイメージしにくいかもしれません。
しかし、アーミー・ネイビーゲームのニュースを通じて、私たちはいくつかの視点を得ることができます。

  • 軍人を志す若者たちの姿
    彼らはフィールドでは選手であり、同時に将来の軍のリーダー候補です。試合の勝ち負けを超えて、規律やチームワーク、責任感が重視されています。
  • スポーツが持つ「社会を映す鏡」としての役割
    スタジアム外での抗議デモは、現代アメリカ社会の分断や議論の激しさを映し出しています。スポーツイベントが、政治や社会問題の表現の場にもなっていることがわかります。
  • 伝統と変化の共存
    100年以上続く伝統行事でありながら、そこには常に新しい社会的背景や政治的文脈が流れ込んできます。
    アーミー・ネイビーゲームは、「変わらないもの」と「変わり続けるもの」が出会う場と言えるでしょう。

こうしたニュースを知ることで、日本からアメリカを見る視点も少し広がります。
軍と社会の関係、スポーツと政治の関係、そして若者たちがどのような価値観や環境の中で育っているのか――アーミー・ネイビーゲームは、その一端を教えてくれる題材となっています。

これからも続く「特別な一戦」

アーミー・ネイビーゲームは、これからも毎年12月の恒例行事として続いていくとみられています。
どちらのチームが勝つのか、司令官杯はどの学校の手に渡るのか、そして政治や社会の動きが試合の周辺にどのような影響を与えるのか――世界中のメディアとファンが、毎年注目し続けることでしょう。

日本からこのニュースに触れる私たちも、
・「軍人となる若者たちの思い
・「スポーツが生み出す一体感や誇り
・「社会や政治との複雑な関わり
といった観点から、この特別なゲームを見つめてみると、単なる海外スポーツニュース以上の意味が見えてきます。

アーミー・ネイビーゲームは、アメリカという国の歴史、軍、社会、そして人々の感情が交差する象徴的な一日
その舞台に今年も多くの視線が注がれています。

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