中国とフランス、核心利益で「相互支持」を確認 マクロン大統領が訪中し高規格接待
中国の習近平国家主席とフランスのエマニュエル・マクロン大統領が、中国・北京で首脳会談を行い、両国は「互いの核心的利益と重大な関心事について相互理解と支持を行う」と改めて確認しました。 この発言は、台湾や安全保障、さらにはウクライナ情勢を含む幅広い外交課題を念頭に置いたものとみられ、国際社会でも大きな注目を集めています。
北京での首脳会談 礼砲21発の高規格な歓迎
12月4日午前、マクロン大統領は国賓として中国を訪問し、北京の人民大会堂で習近平主席と会談しました。 会談に先立ち、人民大会堂北ホールでは、習主席と夫人の彭麗媛氏が、マクロン大統領と夫人ブリジット氏を出迎えました。
天安門広場では礼砲21発が鳴り響き、軍楽隊が両国の国歌を演奏、中国人民解放軍の儀仗隊が整列してフランス大統領を迎えるなど、極めて高い儀礼での接遇が行われました。 習主席がマクロン大統領を伴い、儀仗隊を検閲し、その後分列行進を見守る場面もあり、中国側がこの訪問をどれだけ重視しているかがうかがえます。
その後、人民大会堂に場所を移して会談が行われ、両首脳は会談後にそろって中外記者の前に姿を見せました。 同日昼には、人民大会堂金色ホールで、習主席・彭麗媛氏主催による歓迎宴も行われました。
「核心利益で相互理解・支持」 習近平主席のメッセージ
首脳会談で習近平主席は、世界情勢が不安定さを増す中でも、中国とフランスは「常に大国としての戦略的視野と独立自主を示し、互いの核心利益や重大な関心事について相互理解と支持を行い、中仏関係の政治的基盤をしっかり守るべきだ」と強調しました。
ここでいう「核心利益」とは、中国にとっては主権や安全、領土保全などに直結する非常に重要な分野を指し、台湾問題や国家の統一、安全保障政策などを含むとされています。習主席が「相互支持」を口にしたことは、フランス側にも、中国のこうした立場を尊重してほしいという強いメッセージと受け止められています。
同時に習主席は、中国共産党第20期中央委員会第4回全体会議で審議・採択された「十五五」計画(おおむね今後5年間の発展計画)に触れ、この計画が中国の将来像を描くとともに、「世界に対しても新たな機会を提供するものだ」とアピールしました。 中国としては、フランスを含む欧州諸国との経済連携を深め、成長のパートナーとして取り込んでいきたい考えです。
マクロン大統領「一つの中国」政策を改めて確認
これに対してマクロン大統領は、フランスと中国が緊密なハイレベル交流を維持し、常に「相互信頼」と「相互尊重」に基づいた関係を築いてきたと述べました。 そのうえで、フランスは中国との関係を重視し、「一つの中国政策」を揺るぎなく堅持すると明言しました。
フランスの「一つの中国」政策確認は、台湾問題に関する中国側の立場への配慮を示すものであり、中国が期待する「核心利益の尊重」に直接関わる重要な発言です。台湾情勢が緊張する中で、欧州主要国のひとつであるフランスがこの方針を明確にしたことは、中国にとって大きな外交的成果と言えます。
マクロン大統領はさらに、中国の経済発展を評価し、「中国経済が活力を保ち、世界により多くの機会をもたらすことを歓迎する」と述べました。 そして、対中投資の促進や、経済・再生可能エネルギーなどの分野での協力強化、文化・人的交流の活発化に前向きな姿勢を示しました。
ウクライナ危機と欧州の安全保障
両首脳は、世界が注目するウクライナ危機についても意見を交わしました。 習近平主席は、中国が「平和に資するあらゆる努力を支持」し、今後も「自らのやり方で危機の政治的解決に建設的な役割を果たし続ける」と述べました。
また、中国としては、ヨーロッパ諸国がしかるべき役割を発揮し、「均衡が取れ、効果的で持続可能なヨーロッパ安全保障の枠組み」を構築することを支持すると表明しました。 これは、米欧関係やNATOの枠組みに依存しすぎない、より独自性のある欧州の安全保障体制づくりを後押ししたい、という中国側の思惑もにじむ発言です。
一方で、フランスはEU内でも比較的独立した対中外交を取ってきた国とされますが、ロシアによるウクライナ侵攻に対しては、欧米と歩調を合わせロシアへの制裁や支援策を進めてきました。中国はロシアとの関係を保ちながら、ウクライナ問題で「仲介役」「平和を促す存在」としての立場をアピールしており、フランスとの対話を通じて、欧州との関係を安定させたい思惑もあると考えられます。
グローバル・ガバナンスと気候変動・AI分野での連携
マクロン大統領は、習主席が提唱する「グローバル・ガバナンス(世界の統治体制)の改革と改善」や、「よりバランスの取れた世界経済」の構築に向けた考え方に全面的に賛同すると述べました。 そして、中国とフランスが多国間主義を堅持し、国際社会において共に大国としての責任を担うべきだと強調しました。
具体的な協力分野としては、
- 気候変動対策
- 生物多様性の保護
- 人工知能(AI)のガバナンス
などが挙げられました。 これらの領域は、フランスがこれまでも国際的なイニシアティブをとってきた分野であり、中国側も自らの国際的役割をアピールしやすいテーマです。両国が共通の利害を見出しやすい分野で足並みをそろえようとしていることがうかがえます。
経済・エネルギー・環境などで複数の協力文書に署名
会談後、習近平主席とマクロン大統領は、核エネルギー、農業・食品、教育、生態環境など、さまざまな分野における複数の協力文書の調印を、そろって見届けました。
また、同日昼には、両首脳が中仏企業家委員会第7回会合の閉幕式にもそろって出席し、スピーチを行いました。 そこでは、両国の企業同士のさらなる連携を促すメッセージが発せられ、投資や技術協力、グリーンエネルギーなど、多方面でのビジネスチャンス拡大が期待されていることが示されました。
台湾とウクライナ、「各取所需」は難しい現実
今回のマクロン大統領訪中は、表面上は友好的な雰囲気の中で進み、多数の協力合意も結ばれるなど、成果が強調されています。一方で、背景には、台湾問題やウクライナ危機をめぐる立場の違いという複雑な構図も存在します。
中国にとって台湾は、国家の主権と領土の一体性にかかわる「核心的利益」であり、いかなる「分裂」や独立の動きも認めないという姿勢を崩していません。マクロン大統領が「一つの中国」政策を改めて確認したことで、中国側は一定の安心感を得たとみられますが、欧州全体としては台湾海峡の安定や、法の支配に基づく国際秩序を重視する声も強く、緊張の火種が完全に消えたわけではありません。
またウクライナ問題に関しても、フランスを含むEU側はロシアに対して制裁を科し、ウクライナ支援を続ける立場であり、中国の対ロシア関係を懸念する見方があります。一方、中国は「すべての当事者に対話と和平を呼びかける」との立場を取っており、ロシアを名指しで批判することは避けています。
こうした構図の中で、フランス側には、「経済・気候・AIなどの協力で中国の力を取り込みたい」という思いと、「価値観や安全保障の面で独自の立場を維持したい」という思いが、複雑に入り混じっています。そのため、「経済は協力、台湾やウクライナはそれぞれの立場を取る」という意味での「各取所需(おのおの必要なものを取る)」という図式は、そう簡単には成り立たないのが現実です。
四川大学での講演と「分裂に譲歩しない」メッセージ
マクロン大統領は、中国滞在中に四川大学も訪れ、学生らとの交流やスピーチの場を持ちました。そこで彼は「分裂に譲歩してはならない」という趣旨のメッセージを発信したと報じられています。
この発言は、欧州の結束や、国際社会における分断の拡大を抑える必要性を訴えた文脈とみられていますが、中国側が重視する「国家統一」や「分裂反対」というキーワードとも重なります。そのため、中国の聴衆には、欧州の経験を踏まえつつ、「国家の一体性」を守ることの重要性を語っているようにも受け取られた可能性があります。
同時に、ヨーロッパ内部での分断、あるいは国際情勢における対立の深まりに対して、「簡単に妥協してはならない」というメッセージでもあり、フランスが単に中国の立場を一方的に支持しているわけではなく、自らの価値観や歴史的経験を背景に議論していることもうかがえます。
中仏関係の今後と国際社会への影響
今回の訪中で、中国とフランスは、経済協力や気候変動対策、高度技術分野などでの連携強化を打ち出しつつ、国際的な課題に対しても「多国間主義」や「大国としての責任」といった共通のキーワードを掲げました。 これは、米中対立が続く中で、フランスが「戦略的自律性」を意識しつつ、中国との関係でも独自のポジションを模索していることの表れとも言えます。
一方で、台湾問題やウクライナ危機といった、安全保障と価値観に直結するテーマでは、両国の間には依然として溝もあります。中国側は「核心利益の相互尊重」を掲げ、フランス側は「一つの中国」政策を確認しつつも、欧州の連帯や国際秩序を重視する姿勢を変えていません。
こうした中仏関係の行方は、EUと中国の関係、さらにはアジア太平洋と欧州の安全保障をめぐる大きなパワーバランスにも影響を与える可能性があります。今回の会談とその周辺で交わされたメッセージは、ただの二国間協力の枠を超え、国際社会全体の今後の方向性を占ううえでも、重要な意味を持っていると言えるでしょう。




