アメリカが66の国際機関から離脱へ 国連大学も対象に――揺れる国際秩序と「孤立主義」への回帰
アメリカ政府が、66の国際協定・国際機関からの離脱に向けた方針を示し、その対象に国連大学も含まれていることが明らかになりました。この動きは、気候変動対策や保健、開発、人道支援など、多くの分野の国際協力に大きな影響を及ぼす可能性があります。
66の国際協定・機関から離脱を指示 国連大学も対象
ホワイトハウスによると、トランプ大統領は7日、アメリカの国益に反すると判断した66の国際機関・枠組みから離脱するよう指示する大統領覚書に署名しました。対象となるのは、
- 31の国連機関・枠組み(国連気候変動枠組条約、国連人口基金、国連大学など)
- 35の非国連機関(多国間の条約機構や国際的枠組みなど)
これらはいずれも、アメリカ政府が「アメリカの国益に反する」と位置づけた機関・協定であり、その中には、日本・東京にも本部を置く国連大学(UNU)が含まれています。
国連大学は、国際連合の「シンクタンク」として、持続可能な開発、環境、平和構築、人間の安全保障などをテーマに研究と人材育成を行う機関です。そこからアメリカが距離を置くことは、研究資金や人材交流、政策対話など、多方面に波紋を広げると見られます。
気候変動・保健・人口問題にも影響
今回の離脱方針で注目されるのは、気候変動や地球温暖化対策に関する枠組みが含まれている点です。アメリカはすでに、トランプ大統領2期目の就任直後である2025年1月に、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」からの再離脱を表明しています。
さらに、同時期にWHO(世界保健機関)からの脱退も表明しており、公衆衛生、感染症対策の分野での国際協力にも大きな不安が広がりました。今回の66機関・枠組みからの離脱方針は、そうした流れをさらに強めるものと受け止められています。
対象には、国連人口基金(UNFPA)も含まれており、途上国の母子保健、家族計画、ジェンダー平等など、人道・開発分野のプログラムにも影響が及ぶと懸念されています。
「国際秩序の漂流」とアメリカの孤立主義
こうしたアメリカの一連の動きは、「国際秩序の漂流が止まらない」という形で報じられています。世界をリードしてきたはずのアメリカが、多国間主義から離れ、自国の利益を最優先する方向へと大きく舵を切りつつあるからです。
背景には、アメリカ社会の中で根強い孤立主義(アイソレーショニズム)の伝統があると指摘されています。アメリカは建国以来、「ヨーロッパの複雑な政治には深く関与しない」という考え方を繰り返し打ち出してきました。世界大戦後や冷戦期を通じて、アメリカは国際秩序の中心的な役割を担うようになりましたが、国内には常に「海外への関与を減らすべきだ」という声が存在してきました。
今回の離脱方針は、そうした歴史的な孤立主義の伝統が、現代の国際政治の舞台で再び強く表面化した動きと見ることができます。
「機能していない国際機関」「中国主導のルール」への不満
読売新聞オンラインの「深層NEWS」などでは、アメリカの国際機関脱退について、関係者が「機能していないのは事実」と発言したことが紹介されています。国際機関の中には、意思決定に時間がかかる、加盟国の利害が対立して前に進まないといった課題が長年指摘されてきました。
また、アメリカ側からは、国際機関や国際ルールの場で、中国が影響力を強めていることへの強い警戒感が示されています。「中国主導のルールづくりが進んでいる」との懸念から、アメリカがこれらの枠組みを「不利な舞台」とみなし、距離を置こうとしているという見方です。
このように、アメリカの離脱には、単なる「国際協調への後退」だけでなく、大国間競争の文脈、特に米中対立という要素も色濃く影を落としています。
国連大学への影響と日本への波紋
今回の離脱方針に国連大学が含まれていることは、日本にとっても無視できないニュースです。国連大学は、東京・表参道に本部を置き、日本政府からも長年にわたり支援を受けてきました。アメリカはこれまで、研究協力や人材の派遣などを通じて、国連大学の活動に一定の役割を果たしてきました。
アメリカが国連大学から距離を置くことで、考えられる影響としては、次のような点が挙げられます。
- アメリカからの研究資金やプロジェクト協力の縮小
- アメリカ発の政策研究や専門家ネットワークの弱体化
- 気候変動、平和構築、人間の安全保障などの分野で、国連大学が米国政府との対話の場を持ちにくくなる可能性
一方で、この動きは、日本や欧州、その他の地域にとって、国連大学や国際機関への関与を強める契機となる可能性もあります。アメリカが後退した分を、他の国々がどこまでカバーできるかが問われる局面です。
国際社会への広がる不安と対応の模索
アメリカが66の国際枠組みからの離脱を進めることは、国際協調の基盤そのものを揺るがす出来事として受け止められています。とくに、
- 気候変動対策(パリ協定など)
- 保健・感染症対策(WHOなど)
- 開発・人口・教育・研究(国連人口基金、国連大学など)
といった分野で、アメリカの存在感はこれまで極めて大きなものでした。そのアメリカが、資金拠出や政治的関与を後退させれば、財政面・運営面での空白が生じるおそれがあります。
国際社会はすでに、アメリカ以外の主要国が負担を増やす形で、機関や枠組みを維持しようとする動きを見せています。しかし、アメリカの影響力と資金力は桁違いであり、その不在を完全に埋めることは容易ではありません。
「国連の時代」の転換点か
第二次世界大戦後の国際秩序は、国連や各種国際機関を中心とした「ルールに基づく秩序」を基本としてきました。その構図の中で、アメリカは最大の拠出国として、多くの場面で議論をリードしてきました。
今回の一連の離脱方針は、そうした「国連の時代」が、大きな転換点を迎えていることを象徴する出来事とも言えます。アメリカの孤立主義的な傾向が今後も続くのか、それとも国内政治や国際環境の変化によって軌道修正されるのかは、現時点では不透明です。
ただ一つ確かなのは、アメリカが一歩退いた空間を、どの国・どのアクターが埋めるのかという問題です。中国やEU、そして日本を含む中堅国、さらには市民社会や大学・研究機関など、多様な主体が新しい役割を担う可能性があります。
問われる日本と国連大学の役割
アメリカの離脱が国連大学に及ぶなかで、日本には二つの課題が突きつけられています。
- 国連大学の拠点国として、研究と教育の国際的ハブ機能をどう維持・強化するか
- 「国際秩序の漂流」を前に、日本がいかに多国間主義を支え、橋渡し役を果たすか
国連大学は、政策提言や若手研究者の育成、国際会議の開催などを通じて、各国政府や国際機関、研究者、市民社会をつなぐ役割を担ってきました。アメリカの関与が弱まったとしても、日本を含む他の国々が支え続けることで、その機能を維持・発展させる余地は残されています。
世界が分断と対立のリスクに直面する今だからこそ、国連大学のような知的・学術的な対話の場の重要性は増しているとも言えます。アメリカの動きをきっかけとして、国際機関のあり方や、各国の役割分担について、改めて考える時期に来ているのかもしれません。



