トランプ政権が検討する新たな入国審査案:ESTA申請者にも「過去5年のSNS情報」提出義務か
アメリカへの旅行や出張でおなじみの電子渡航認証システム「ESTA(エスタ)」に関して、トランプ前政権下で議論された新たな入国審査の強化案が、改めて世界的な関心を集めています。
その内容とは、「アメリカを訪れる外国人旅行者に対し、過去5年間のソーシャルメディア(SNS)の利用履歴を提出させる」というものです。対象となるのは、観光や短期商用などでビザ免除プログラム(VWP)を利用し、ESTAで入国する旅行者を含む広い範囲の外国人とされています。
ここでは、この案の概要や背景、ESTA制度との関係、日本人旅行者への影響のポイントを、なるべく分かりやすく解説します。
ESTAとは?基本のおさらい
まずはニュースの理解に欠かせないESTAについて、簡単に整理しておきましょう。
ESTA(Electronic System for Travel Authorization)は、ビザ免除プログラム(VWP)を利用してアメリカに渡航する人が事前にオンラインで取得する「電子渡航認証」です。
日本のパスポートを持つ方が、90日以内の観光・短期商用・乗り継ぎなどで渡米する場合、通常のビザの代わりにESTAの認証が必須となります。 取得していない場合は、ビザを申請しなければアメリカに入国することができません。
ESTAは、
- オンラインで申請
- 個人情報や渡航情報、適格性に関する質問への回答を入力
- 審査のうえ、原則として数日以内に結果が判明
という流れで取得します。
申請には、
- ICチップ付きの有効なパスポート
- クレジットカードやPayPalなどの支払手段
- メールアドレス
が必要とされています。
また、近年はアメリカの国境管理や安全保障の観点から、ESTA制度全体が厳格化・有料化の方向に進んでおり、申請料も2025年9月30日以降は40ドルに値上げされています。
新たな審査案:「過去5年分のSNS情報」提出要求とは
今回話題となっているのは、アメリカ国土安全保障省(DHS)や国務省などが検討した、外国人旅行者に対する追加的な身辺調査の強化案です。
報道内容を総合すると、この案では、
- アメリカに入国しようとする外国人旅行者に対し、過去5年間に利用していたSNSアカウント名(IDやハンドルネーム)を申告させる
- Facebook、Twitter(現X)、Instagram、YouTubeなど、主要なソーシャルメディアが対象と想定される
- 場合によっては、過去5年間に使用していた電話番号やメールアドレスの申告も求める
- 一部の検討案では、「自撮り写真(セルフィー)」などの追加情報を含めた、より広範なデジタル履歴の確認も話題になっている
といった内容が含まれています。
ここで重要なのは、この案が「テロ対策や国家安全保障の強化」を目的としているという点です。アメリカ政府は、過去のテロ事件の教訓から、オンライン上で過激思想や犯罪行為に関与している人物をより早い段階で把握したい、という考えを強めています。
なぜ「SNSの過去5年分」なのか
ソーシャルメディアは、現代では人々の行動や価値観がもっともよく表れる場のひとつです。そのため、当局は次のような点を重視しているとされています。
- 過激な思想や暴力的な投稿、テロ組織との関わりなどが、SNS上に現れていないか
- 偽名や複数アカウントを使って、違法行為や犯罪と結びつく活動をしていないか
- ビザ申請書やESTA申請内容とSNS上のプロフィールに矛盾がないか
「過去5年」という期間設定も、ある程度の長さを確保することで、一時的な言動ではなく、継続的な傾向を確認したいという意図があると見られます。
ESTA申請者も対象になりうるのか
報道で特に注目されているのは、このSNS提出義務が、ビザ申請者だけでなく、ビザ免除プログラムを利用するESTA申請者にも広く適用される可能性があるという点です。
ビザ免除プログラム(VWP)は、日本を含む参加国の国民に対し、観光や短期商用であればビザなしでアメリカに入国できる制度で、その代わりにESTAによる事前審査が行われています。
すでにESTAの申請では、
- 犯罪歴やテロ組織への関与に関する質問
- 健康状態に関する質問
など、適格性に関する詳細な質問項目への回答が求められています。
新たな案では、こうした質問に加え、申請フォーム上で自分のSNSアカウント名を入力する欄が追加されるイメージが報じられています。これは、ESTAやビザの審査過程で、担当官がオンライン上の活動を確認できるようにするためです。
プライバシーと自由をめぐる懸念
一方で、このようなSNSアカウントの包括的な提出義務に対しては、世界各地で強い懸念や批判の声も上がっています。
- プライバシーの侵害:個人の交友関係や政治的・宗教的な意見など、非常にプライベートな情報が含まれるため、それを政府に包括的に提供することへの抵抗感は大きいとされています。
- 表現の自由への影響:渡航を希望する人が、「将来のアメリカ入国への影響を恐れて、SNSで自由に意見を述べにくくなるのではないか」という懸念も指摘されています。
- データの扱いと漏えいリスク:提出されたSNS情報がどのように保管され、誰がどの範囲で閲覧できるのか、また情報漏えいをどう防ぐのか、といった点も大きな課題です。
こうした問題意識から、市民団体や人権団体、IT関連業界からは、透明性の確保や必要最小限の情報収集にとどめるべきだとの意見が出ています。
日本人旅行者への影響:何が変わりうるのか
では、日本からアメリカへ旅行や出張を予定している人にとって、このような案はどのような影響を持ちうるのでしょうか。
現時点で公表されている内容を踏まえると、想定される変化としては、次のような点が挙げられます。
- ESTA申請時に、過去5年間に利用していた主要SNSのアカウント名(ID)を入力する欄が追加される可能性
- 審査官が、申告されたアカウントをもとに、オンライン上の活動をチェックする機会が増えること
- 過激な投稿や違法行為を示唆するような内容があった場合、ESTAが不許可になったり、入国審査で追加質問や入国拒否につながるリスク
もちろん、普通に旅行や日常生活に関する投稿をしているだけであれば、直ちに問題になる可能性は高くありません。しかし、「アメリカ入国時にSNS情報も審査対象になりうる」という前提は、今後意識しておく必要があるでしょう。
現在のESTA制度の動きと今後の見通し
アメリカの入国管理は、ここ数年で全体的に厳格化の流れにあります。
- ESTAの申請料は、2025年9月30日以降、21ドルから40ドルへ値上げされました。
- 以前は飛行機・船での入国時のみ必須だったESTAは、2022年5月以降、陸路での入国にも必要となっています。
- グアムや北マリアナ諸島に関しても、グアム-北マリアナ諸島連邦 電子渡航認証(Guam-CNMI ETA)の導入など、電子的な事前認証の仕組みが広がっています。
こうした流れを踏まえると、今後もセキュリティ強化の一環として、デジタル情報の活用が進む可能性は高いと考えられます。ただし、実際にどこまで踏み込んだ情報提出が義務化されるかは、国内外の反応や法的・技術的な議論を経て、調整されていくことになります。
旅行者として心がけておきたいポイント
このようなニュースを聞くと、不安に感じる方も多いかもしれません。ただ、旅行者としてできること・意識しておきたいことを整理しておけば、過度に心配する必要はありません。
- 最新情報の確認:制度は時期によって変更されることがあります。実際に渡航する前には、外務省や在日米国大使館、信頼できる旅行情報サイトなどで、最新のESTA要件や入国規則を確認しましょう。
- 正確な申告:ESTAやビザの申請時には、求められた情報を正確に入力することが大切です。虚偽の申告は、入国拒否や将来の渡航制限につながるおそれがあります。
- オンライン行動の見直し:公開設定のSNSで、暴力的・差別的・違法行為を助長するような投稿をしないことは、社会的にも重要です。渡航を念頭に置くなら、SNS上の発言が国境審査で参照されうることも、ひとつの現実として意識しておくとよいでしょう。
まとめ:ESTAとSNS情報、今後の動向に注目
トランプ前政権のもとで検討された、「過去5年分のSNS情報を入国審査に活用する」という案は、アメリカの国境管理が、従来のパスポートや紙の書類だけでなく、デジタルな足跡にまで広がりつつあることを象徴する動きです。
このような施策は、テロ対策や安全保障の観点からは一定の合理性がある一方で、プライバシーや表現の自由とのバランスという難しい問題もはらんでいます。
日本人を含むESTA利用者にとっても、
- 入国前に提出する情報が今後さらに増える可能性
- SNS上の活動が審査の材料となりうる可能性
があるため、アメリカ渡航を予定している人は、今後の制度変更や公式発表に引き続き注意を払う必要があります。
いずれにしても、最新の公式情報を確認しつつ、正確な申請と節度あるオンライン行動を心がけることが、安全でスムーズなアメリカ旅行への第一歩といえるでしょう。



