玉川徹氏が高市首相の台湾有事発言に激しく異議「それを言っちゃあおしまいよ」

外交戦略を超えた発言が中国を激怒させ、日中関係に波紋

元テレビ朝日社員でジャーナリストの玉川徹氏は2025年11月26日、テレビ朝日系「羽鳥慎一モーニングショー」に出演し、高市早苗首相による台湾有事をめぐる国会答弁について、強い懸念を表明しました。玉川氏は「それを言っちゃあ、おしまいよ」という言葉を用いて、高市首相の発言が従来の日本外交の方針から逸脱していると指摘しています。

高市首相の「存立危機事態」発言とは

問題となっているのは、11月7日に高市首相が衆議院予算委員会で述べた発言です。中国が台湾の海上を封鎖した場合について問われた際、高市首相は「(中国が)戦艦を使って武力行使も伴うものであれば、どう考えても存立危機事態になり得る」と述べました。存立危機事態とは、日本の国家存続が脅かされる深刻な状況を指し、この事態が認定されれば、日本は集団的自衛権の行使が認められることになります。つまり、台湾をめぐる紛争に日本が直接参戦する可能性を示唆した発言として解釈されています。

この発言は国内外に大きな波紋を広げ、特に中国側から激しい反発を招いています。半世紀以上にわたって「あいまい戦略」で日中関係のバランスを保ってきた日本外交にとって、極めて異例の踏み込んだ表現となったのです。

玉川徹氏の深刻な懸念

玉川氏は「大前提として、日本は中国と戦争してはいけない」という明確な立場を表明しています。その理由として、憲法上の制約だけでなく、実際の戦争がもたらす不幸を指摘しています。「戦争が始まってしまったら、それはもう絶対に不幸に陥るわけです。国は。国民は。だから、やってはいけない」という言葉には、戦争の悲劇性に対する深刻な認識が反映されています。

さらに玉川氏は、安倍政権と比較しながら高市首相の発言の重要性を解説しています。過去の政権でも台湾有事について議論されることはありましたが、具体的な言及は避けられてきました。しかし高市首相は「踏み込んじゃった」と述べられ、「場合によっては集団的自衛権の行使の対象として台湾有事があって、その場合は日本が参戦するということを言っちゃった」と指摘し、この発言の歴史的な意味の重さを強調しています。

日本外交の伝統的な「あいまい戦略」との乖離

玉川氏が特に問題視している点は、高市首相の発言が日本が半世紀以上実践してきた外交戦略と相反しているということです。1972年の中国との国交正常化以降、日本は台湾との関係を慎重に扱い、「あいまい戦略」によってこれをやり抜いてきました。この戦略は、日米安保条約と日中関係の両立を図るため、台湾に関する立場を故意に曖昧にすることで、危機的な状況を回避してきたのです。

玉川氏は「(台湾との関係は)ガラス細工のような、もろい土台の上に乗っかっている」と表現し、台湾問題の微妙さを強調しています。また「もともと、日米安保条約ができた時と、日中、米中が国交を結んだ時とは、時期も状況も違う」と述べ、現在の国際情勢における新たな課題の存在を認識しています。それにもかかわらず、従来の外交的配慮を超えた明確な発言がなされたことに、玉川氏は重大な懸念を抱いているのです。

観光業への波及効果と「人災」という指摘

高市首相の発言がもたらした影響は、政治的な領域にとどまりません。日中関係の悪化に伴い、観光業にも深刻な打撃が生じています。中国からの旅行客が大幅に減少し、キャンセルが相次いでいるという状況が報告されています。

テレビ朝日のアナウンサーである菊間千乃氏も番組内で、中国の旅行会社に対して「きちんとキャンセル料を支払っていただかないと」と述べるなど、実務的な問題が生じていることが明らかになっています。このような観光業への影響について、玉川氏は「天災ではなく人災だ」という見解を示しています。つまり、自然災害ではなく、政治的な発言と外交戦略の失敗によってもたらされた人為的な結果であるという認識です。

外交の「知恵」と責任

玉川氏が指摘する「外交の知恵とは違う発言」という表現は、政治家としての配慮の欠如を示唆しています。外交の本質は、複雑な国際関係の中で、自国の利益と世界の安定を同時に実現することにあります。明確な立場表明が必要な場面も確かに存在しますが、台湾問題のような極めてデリケートな問題においては、慎重な言葉遣いと戦略的な沈黙が時に最も重要な外交手段となるのです。

高市首相の発言は、こうした外交的配慮の重要性を無視した可能性があります。その結果、中国側の激しい反発を招き、日中関係に新たな緊張をもたらしただけでなく、観光業を始めとした経済的な悪影響まで波及しているのです。

防衛力強化と実際の武力行使の線引き

興味深いことに、玉川氏は防衛力の強化そのものには一定の理解を示しています。「防衛力を上げれば抑止力になるという文脈の中で認められる」という発言から、抑止力としての防衛力増強の必要性を認めているのです。しかし、抑止力と実際の武力行使は全く別の問題であり、その線引きを曖昧にすることの危険性を指摘しています。

つまり、防衛能力を高めることで戦争を起こさない環境を作ることと、実際に武力を行使するために備えることは相反する目標かもしれないということです。玉川氏は、前者は必要であるが、後者は想定すべきではないという明確な立場を示しているのです。

今後の日本外交が直面する課題

玉川徹氏の一連の指摘は、現在の日本外交が極めて微妙な局面にあることを示しています。米国との同盟関係強化と中国との経済的つながりの両立、台湾との関係維持と中国との関係改善、そして国内の安全保障の強化と平和維持のバランス——これらのすべてを同時に成し遂げることは容易ではありません。

高市首相の発言がもたらした中国の激しい反発は、この微妙なバランスが一度崩れると、どれほど急速に状況が悪化するか示す事例となっています。また、観光業への直接的な打撃は、地政学的なリスクが一般市民の生活にいかに直結しているかを明らかにしました。

結論——言葉の重みと外交的責任

玉川氏が繰り返し強調する「それを言っちゃあおしまいよ」という言葉は、単なる批評ではなく、国家指導者としての言葉の重みに対する深刻な警告です。国民の命と国の未来に関わる台湾問題について、慎重さを欠いた発言がいかに大きな結果をもたらすか、その責任の重さを問いかけています。

今後、日本外交は、米国との同盟関係を維持しながらも、中国との関係を完全に破壊しない微妙なバランスの中で、新たな道を模索していく必要があります。その際、政治指導者には極めて高度な判断力と、言葉の選択に対する細心の配慮が求められるのです。

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