JICAアフリカ・ホームタウン事業見直しの波紋——認定各自治体と外交議論の最前線
はじめに
2025年8月、国際協力機構(JICA)が主導する「JICAアフリカ・ホームタウン」事業は、アフリカと日本の新しい地域交流モデルとして大きな注目を浴びてきました。しかし、同年9月に入り、岩屋外務大臣が事業の見直し検討を表明し、各自治体や市民の間に波紋が広がっています。本記事では、JICAアフリカ・ホームタウン事業の経緯、目的、現在の議論、自治体の反応と今後の展望について、やさしくわかりやすく解説します。
JICAアフリカ・ホームタウン構想の誕生背景
JICAアフリカ・ホームタウン事業は、2025年8月の第9回アフリカ開発会議(TICAD 9)が神奈川県横浜市で開催されたことを契機にスタートしました。本事業は、これまでJICAや自治体によって積み重ねられてきた国際交流実績(オリンピック・パラリンピックのホストタウンや青年海外協力隊活動など)を土台に、日本の地方とアフリカ諸国が「第二のふるさと」として結びつき、教育、文化、産業、人材といった幅広い分野で相互協力を深めることを目的としています。
認定モデル都市として、山形県長井市(タンザニア)、千葉県木更津市(ナイジェリア)、新潟県三条市(ガーナ)、愛媛県今治市(モザンビーク)が選定されました。今後さらに他の自治体も加わる見通しです。
ホームタウン認定とは何か
「ホームタウン」とは、アフリカのある国にとって日本の自治体が「第二のふるさと」となることを意味します。JICAは両国間の人的交流や地域イベントを支援し、単なる友好都市関係を超え、長期的な協働と継続的な相互理解の深化を目指しています。具体的には、以下のような活動が含まれています。
- 文化交流イベントの開催
- 学生や専門家の相互訪問
- 地元企業による現地ビジネス展開支援
- アフリカ側課題(教育・保健・環境など)に地元自治体やNGOと連携して対応
- 人材交流を通じた地域活性化・地方創生の推進
資金面では、JICAの「草の根技術協力事業」や自治体、企業・市民からの協賛の活用が中心となっています。
なぜ今、見直しの議論が?
2025年9月、岩屋外相がアフリカ・ホームタウン認定事業について「今後の事業のあり方を速やかに検討する必要がある」と言及しました。発言の背景には、制度運用の課題や誤解の広がりがあります。
認定自治体のうちの一つである今治市は、外相の見直し方針に対して「単なる名称変更だけで地域や市民の理解が得られるか、危惧している」と正式コメントを発表。この意見はメディアでも大きく報道され、市民や関係者の間に懸念や戸惑いが広がっています。
見直しを求める理由とは
- 制度運用の誤解: SNS等で「ホームタウン=移住ビザの新設・特別な移民枠」などと誤解・拡大解釈される情報が広まり、自治体が速やかに事実無根であると否定する場面もありました。
- 外交的バランス: アフリカ諸国と日本の地方自治体の関係性・権限分担の明確化など、今後の国際関係に影響する点から慎重な運用が求められています。
- 地域住民の理解: 連携事業が急速に進み、従来からの住民の理解や合意形成が十分とはいえない事例も増えています。
- 日本国内政策との整合: 地方創生や外国人労働者受け入れ制度との棲み分けなど、行政側の方針調整が未了な部分があるためです。
各自治体、市民の声と対応
今回の事業見直し表明を受け、今治市は「単なる名称変更で市民の合意や議論が十分尽くされるか、強い懸念がある」と表明しました。他の認定自治体でも「制度趣旨への賛同は変わらないが、丁寧な情報発信や説明会の充実、関係機関との連携強化が不可欠」との反応が見られます。
- 山形県長井市:ホストタウンとしての経験が活かせる反面、次なるステップに向けた「説明責任の強化」を望む意見が寄せられています。
- 千葉県木更津市:ビザや移住制度に関する誤解(「特別就労ビザが発給される」など)がネット上で流れ、市役所が「事実無根」と訂正文を発表するなど、広報と事実確認の重要性が強調されました。
- 新潟県三条市:「地域おこし研究員」制度との連携強化、産学官民のパートナーシップ充実を強調する声が上がっています。
ホームタウン事業の意義と今後の課題
JICAアフリカ・ホームタウン事業のもともとの意義は、「国境を越えた持続可能な地域づくり」と「多様な人材育成」「日本の地方都市の活性化」といった相乗効果にありました。
- 外部資金や国際ネットワークの活用
- JICA現地事務所や大使館、国際機関・NGOとの協働拡大
- 事業評価の客観性や持続性確保
- 市民・企業・教育機関など多様な関係者の参画促進
ただし、急速に進化したプロジェクト体制のもと、合意形成や情報発信、運営体制の検証が今後の論点となっています。
外務省「名称変更」含め再検討へ
外務省は今回、「ホームタウン」という名称そのものの影響力や誤解の生じやすさにも配慮し、制度名称の再検討を含めた事業見直しに着手することを明言しました。背景には現場での混乱や「ホームタウン」という言葉への期待・警戒感のギャップ、制度設計の妥当性評価など、多層的な要素があります。
今後は、
- より明確な制度説明と透明性の確保
- 各自治体の多様な現場事情を反映させた制度運用見直し
- 市民・受入地域からのフィードバック強化
——これらが重点的に議論される見通しです。
JICAの国際協力としてのこれから
ホームタウン事業の再検討は、「国際協力事業のあり方」「日本の地方創生政策」といった大きな枠組みの中で論じ直されています。JICAは世界銀行や国連関連機関、各種NGOとも連携し、単なる一過性イベントでなく、双方向・長期間にわたる地域間パートナーシップモデル実現をめざしています。
認定自治体や参加団体、専門家は、地域や市民との信頼醸成に注力しながら、“善意”や“新しさ”だけに頼らない、持続可能で現実的な国際協力の新モデルを模索し続けることが求められています。
おわりに
JICAアフリカ・ホームタウン認定事業をめぐる見直しの動きは、日本の国際協力政策だけでなく、地方自治・地域活性化の現場、そして市民社会のあり方にとっても重要な試金石です。制度の透明性、現場の声の反映、多文化協働の継続的な深化が、今後の議論のカギとなるでしょう。