中露爆撃機が四国近海の太平洋空域まで飛来 初の「四国側ルート」に日本が警戒

中国とロシアの軍用機による共同飛行が、日本列島の南側、特に四国近海の太平洋空域にまで及んだことが明らかになり、防衛省や専門家の間で強い警戒感が広がっています。これまで日本海や東シナ海側が中心だった中露の共同飛行が、今回初めて本格的に四国に近い太平洋側の空域にまで拡大したとされ、日本の安全保障環境の変化を象徴する動きとなっています。

四国近海の太平洋空域まで拡大した中露の共同飛行

日本政府関係者によると、中国とロシアの爆撃機などが参加した共同飛行は、日本海から東シナ海、西太平洋へと抜けるおなじみの「周回ルート」を取りつつ、その一部が四国の南側近海の太平洋空域にまで達したと見られています。このルートは、これまで中露の合同飛行で頻繁に使用されてきた日本列島周辺の回廊をさらに南へ広げ、日本の本州・四国・九州の三方を取り巻く形にもつながり得るもので、日本側の警戒監視体制に新たな負担を与えることになります。

中露はここ数年、東シナ海から日本海、オホーツク海、西太平洋へと連続的に展開する形で、爆撃機や偵察機による長距離飛行を繰り返してきました。こうした行動に対し、日本は航空自衛隊の戦闘機を緊急発進させ、領空侵犯を防ぎつつ常時監視を続けてきましたが、中露側が四国近海の太平洋空域まで飛行範囲を広げたのは、新たな段階に入った動きと受け止められています。

「対日デモンストレーション」か 中国側メディア・専門家の見方

中国側の報道や軍事専門家は、今回の中露共同飛行を「日本に対する明確なシグナル」と位置づけています。中国の軍事アナリストの中には、今回の航路について「日本周辺での米軍との連携強化に対する対日デモンストレーション(示威行動)」という表現を用いる者もおり、日本政府の動きに対する不満や牽制の意図を隠そうとしていません。

とりわけ、日米が日本海や西太平洋で共同演習を強化し、長距離爆撃機や最新鋭戦闘機を投入していることが、中国側の警戒心を高めています。例えば、米軍のB-52爆撃機と航空自衛隊の戦闘機が日本海上空などで共同訓練を行い、その後四国南方の太平洋空域方向へ展開したケースが指摘されています。こうした日米協力の可視化に対し、中露が同じ地域で共同飛行を行うことで、相互にメッセージの応酬をしている構図が浮かび上がります。

中国メディアは、日本について「一方で挑発を試みながら、同時に中露の反応を恐れている」といった論調で報じ、日本側の対応を揶揄しつつも、実際には自国の行動が日本社会に与える心理的・軍事的インパクトを重視している様子がうかがえます。こうした報道姿勢自体が、今回の共同飛行が「見せること」を強く意識した行動であることを示しているといえるでしょう。

共同航路に潜む「メッセージ」 日本列島・海上交通路への視線

今回の中露共同飛行の航路設定には、日本に対する複数のメッセージが込められていると見る専門家は少なくありません。まず第一に、東シナ海から西太平洋に至る一連のルートは、日本の南西諸島や台湾、そして日本本土を結ぶ海上・航空交通路に近接しており、有事の際にこれらのラインを妨害し得る能力を誇示する意味があると分析されています。

一方で、中国とロシアは別の場面でも、同様のメッセージ性を持つ行動を取っています。例えば、両国はロシア極東・ウラジオストク近海で「海上連合2025」と名付けた合同軍事演習を実施し、「西太平洋における安全保障上の脅威への共同対処」「戦略的海上輸送路の安全の共同維持」を掲げました。これは、米海軍を中心とする西側のプレゼンスに対抗しつつ、自らも重要な海上輸送路を守る能力をアピールする狙いを持つとされています。

同じ中露協力の一環として行われる今回の共同飛行についても、西太平洋の主要なシーレーンに近接しながら日本列島を周回することで、「この海域は中露も重大な利害を持つ」という政治的メッセージを送っているという指摘があります。特に四国近海の太平洋側は、本州・四国・九州を結ぶ内航海運の要衝であると同時に、南西諸島から本州方面への補給・輸送ラインとも連続する位置にあり、中露がこのエリアで活動を示すことは、日本の島嶼防衛の文脈でも無視できない意味を持ちます。

四国近海ルートが持つ地理的・戦略的な意味

四国近海の太平洋空域は、地図上で見ると、瀬戸内海・紀伊水道・豊後水道など、日本の主要な内海と外洋をつなぐ要衝のすぐ南側に位置しています。このエリア上空を中露の軍用機が通過した場合、直接的な領空侵犯がなくても、自衛隊にとっては複数の点で大きな負荷となります。

  • 警戒監視範囲の拡大:日本海側・東シナ海側に加え、太平洋側でも高頻度の監視が必要となり、戦闘機や早期警戒機の運用負担が増大します。
  • 内海防衛との連続性:四国近海から北側に目を転じると、瀬戸内海沿岸には工業地帯や港湾、発電所など重要インフラが集中しており、有事を想定する上で、このルートを無視できません。
  • 南西諸島との連結:四国南方は、南西諸島方面から本州・四国へ向かう交通路の延長線上にあり、台湾や尖閣諸島周辺の情勢と連動する形での作戦行動を想定しやすい位置にあります。

こうした地理的要素を踏まえると、中露があえて四国近海に近い太平洋空域まで飛行範囲を広げることには、日本の島嶼防衛と本土防衛をつなぐ「結節点」を意識した側面があると見ることができます。日本の安全保障戦略が、南西諸島防衛を重視しつつ四国・九州・本州への連結を強化していることは国内の専門機関の分析からも明らかであり、中露側もこうした動きを注視していると考えられます。

日本側の対応と高まる警戒感

日本政府はこれまで通り、中露軍用機の飛行に際して、航空自衛隊の戦闘機による緊急発進(スクランブル)やレーダー監視などで対応しており、領空侵犯は許さないとの姿勢を繰り返し示しています。中露機が日本の領空に侵入したとの発表はなく、国際法上認められた公海上空の飛行であることから、日中露間には公式な軍事衝突には至っていません。

しかし、防衛省は最近の中露合同演習や飛行の頻度・行動範囲が拡大していることを踏まえ、「我が国周辺の安全保障環境が一層厳しさを増している」との認識を表明しています。米軍との共同訓練でも、「力による一方的な現状変更の試みを許容しない」という方針を確認しており、中露の動きに対抗するため、同盟国との連携強化を加速させている状況です。

実際、日本国内では陸上自衛隊と米海兵隊による大規模な共同訓練「レゾリュート・ドラゴン」など、島嶼防衛を想定した演習が九州・南西諸島周辺で繰り返し行われています。また、航空自衛隊の一部基地では、F-2戦闘機が多数のミサイルを搭載した訓練飛行を行うなど、抑止力や対処能力の向上を意識した動きも観測されています。四国にほど近い西日本エリアでこうした訓練が活発化していることも、中露の活動と無関係ではないと見る向きがあります。

四国の人々にとっての「遠いようで近い」安全保障問題

四国は、本州や九州と比べると大規模な自衛隊基地が少なく、日常生活の中で安全保障問題を意識する機会は決して多くありません。しかし、今回のように「四国近海の太平洋空域」が国際的な軍事飛行のルートとして注目されると、地域住民にとっても決して無関係とは言えなくなります。

例えば、四国各地からは太平洋側に向けた漁業活動や海運が盛んであり、そのすぐ上空を外国軍機が通過することは、万が一の事故や誤認識のリスクを連想させます。また、災害時の海上輸送や航空輸送ルートとして太平洋側が重要になることを考えると、この空域の安全性や安定性は、長期的に見れば四国の暮らしにも影響を及ぼし得る要素です。

もっとも、現時点で日本政府や防衛省が「四国近海が直ちに戦争の危険にさらされている」といった評価を示しているわけではありません。むしろ、今回のような動きを早期に察知し、冷静に対処することで、事態のエスカレーションを防ぐことが重要とされています。そのためにも、国民が過度に恐れたり、逆に無関心になり過ぎたりしないよう、状況を分かりやすく丁寧に伝えることが求められます。

今後の焦点 中露の動きと日本の対応

今後の焦点となるのは、中露の共同飛行や合同演習がどの程度の頻度で、日本列島周辺、特に太平洋側へ展開されるかという点です。ロシア極東や西太平洋での「海上連合2025」のような訓練が継続的に行われれば、そのたびに日本周辺空域も緊張が高まり得ます。

同時に、日本は米国などとの共同訓練を通じて抑止力を示しつつも、偶発的な衝突を避けるための「危機管理」も強化する必要があります。特に、レーダー照射や異常接近といった行為は、現場レベルの判断ミスから重大な事態に発展する恐れがあり、各国が相互に自制を働かせることが欠かせません。

四国近海の太平洋空域は、今後も国際的な軍事バランスや安全保障戦略の変化を映し出す「鏡」となっていく可能性があります。中露の動き、日米の対応、そして日本全体の防衛政策がどのように変化していくのかを、地域の人々にとっても身近な問題として注視していくことが、ますます重要になってきています。

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