マカオ立法会選挙、民主派ゼロ再び――強まる「愛国者統治」と社会への影響

はじめに

2025年9月14日に実施されたマカオ立法会選挙。2019年に始まった「愛国者による統治」政策が一層強化される中、本選挙でも民主派候補は前回に続きゼロとなりました。中国本土の影響が色濃くなり、議会では「異論」「自由」の減少が一層顕著になっています。こうした状況は投票率の上昇にも大きく影響し、圧力や期待、不安が市民社会に複雑に交錯しています。

選挙の概要

  • 日付:2025年9月14日
  • 対象:マカオ立法会(議会、定数33議席)
  • 投票率:53.35%(前回比+約11ポイント)
  • 直接選挙枠:14議席
  • 民主派:当選者ゼロ(前回選挙に続き全国人民代表大会、中央政府の方針を反映)

「愛国者による統治」とは

中国政府は2021年以降、香港・マカオ両特別行政区において「愛国者による統治」を強調し、選挙管理や候補者の資格審査を厳格化してきました。国家の主権尊重、体制の支持、中国共産党への忠誠を明示する候補者以外は事実上排除されています。これにより、かつて多様な意見や政策論争が存在した議会の活力は低下しています。

民主派不在の背景

今回の選挙では、民主派勢力が事実上立候補できない状況が続きました。候補者審査で「国家への忠誠」への疑念がある人物は出馬資格をはく奪され、選挙前の段階から民主派活動家や団体の多くが公の場での発言や動きを制限されていました。その結果、議会には体制派、親中派のみが残り、「異論を唱える自由」はいっそう縮小されています。

投票率の上昇とその意味

今回の投票率は事前予想を上回る53.35%で、前回比で約11ポイントも上昇しました。これは、公務員に対して投票を促す「圧力」や社会的同調圧力など、外部要因が影響している可能性が高いと指摘されています。市民の「義務感」や「監視」意識、政治的発言の萎縮が投票行動にも反映されたとみる専門家も少なくありません。

体制強化の道筋――中国本土の意向とマカオ

マカオは世界最大級のカジノ都市として知られる一方、中国との経済的・制度的な結びつきが年々強まっています。中央政府(北京)は「一国二制度」の枠内での統制強化を推し進めており、「社会安定」「経済成長」「体制支持」を掲げて議会・行政・司法への影響力を拡大してきました。特に国家安全法の強化や公共空間での言論規制の拡大は、この選挙の民主派排除にも直結しています。

議会選挙後の社会の変化

  • 立法会(議会)は体制寄りの意見が圧倒的多数に。
  • 自由な政策論争や市民団体の意見反映が大幅に縮小。
  • 市民の間で「政治離れ」と「自己検閲」が広がる傾向。
  • 言論・集会・結社の自由に対する不安感も拡大。

市民社会の現在――萎縮と模索

長年、比較的緩やかな行政運営と市民文化で知られたマカオですが、民主派ゼロ統制強化の現状に戸惑う声も目立ちます。政治的発言や市民運動への参加には慎重姿勢が目立ち、SNSやメディアも自己規制的な傾向が強まっています。その一方で、地域コミュニティや若者の中には「小さな多様性」を守ろうとする自主的な学び合いや交流も見られます。

中国・香港との比較

2020年に香港で導入された「国家安全維持法」は、マカオにも心理的・制度的な影響をもたらしました。政府は「社会秩序維持」「愛国的市民教育」を推進し、経済的な利益確保と国政支配への一体化を優先しています。香港では民主派弾圧が国際的な注目を集めましたが、マカオでは「緩やかな圧力」を伴う総合的なコントロールが進んでいます。

国際社会の受け止め

欧米をはじめとした国際社会や人権団体は、マカオの民主派排除と自由の後退に警鐘を鳴らしています。しかし、中国は「国内問題」として一貫して外部批判を退け、「マカオの繁栄は中央の指導によるもの」と自負しています。こうした相反する評価のなか、マカオの市民は現実的な「安定」と「自由の減少」にどう向き合うか選択を迫られています。

専門家の見方

  • マカオ社会学者は「経済的安定が最優先されるなかで、社会の多様性や批判精神が損なわれている」と分析。
  • 法学者は「法の支配」や「市民自治」の形骸化を懸念。
  • ジャーナリストは「報道の自由の萎縮、自己検閲への加速」を指摘。

今後の展望と課題

マカオの政治・社会制度は現在、大きな分岐点に立っています。経済的には観光・カジノ産業を中心とした復興・成長の道を歩みながらも、市民や若い世代の意識変化多様な言論環境維持地域社会の自立性強化といった根本的課題へどう向き合うかが問われています。

一方で、中国政府の統制方針に逆らう声や急進的な運動は難しく、地道な市民活動や草の根的なつながりが今後のマカオの自由や多様性への支えとなるか、注目されています。人々が自分たちの社会をどのように作っていくか、その選択が問われる時代です。

おわりに

2025年のマカオ立法会選挙は、民主派ゼロ愛国者による統治の強化投票率上昇の背景にある社会的圧力と、多くの問題を浮き彫りにしました。経済発展と引き換えに「自由」と「多様性」がどうなっていくのか、マカオ社会は今後も大きな転換点を迎えることになります。

参考元