金正恩氏、中国「九三阅兵」に参加――中朝露三国の新たな結束と戦略思惑を読み解く

2025年9月3日、中国北京市の天安門広場で「抗日戦争勝利80周年」を記念した盛大な軍事パレード(九三阅兵)が開催されました。この歴史的な舞台には、中国の習近平国家主席に加え、ロシアのプーチン大統領、そして北朝鮮の金正恩総書記という、東アジアを象徴する三大指導者が並び立ちました。三者が同じ壇上に現れた今回のイベントは、東アジアと世界の戦略関係に新たな局面をもたらしています。

金正恩氏の訪中――破格の待遇と存在感の強調

金正恩氏は9月1日、専用列車で北朝鮮から中国へと出発し、次第に高まる厳重な警備のもと北京に到着しました。そして、習近平主席の直接の招待を受けて記念式典やパレードに出席し、多数の国賓や国際機関の代表とともに記念撮影を行いました。

  • 北朝鮮メディアは「金正恩氏は太陽であり、習近平とプーチンは脇役」とまで報じ、最高指導者としての存在感を強調。
  • 金正恩氏には国務委員会や党の最高幹部の随行団も帯同し、国家の威信と友好関係を最大限に示す演出がなされました。
  • 式典での発言や動向が逐一報道され、北朝鮮内部でも「中国人民に親善の情を示す重大な外交」と解釈されています。

中露朝三国の「同台」――専制の結束か、戦略的協力か

今回のパレードで最も注目されたのが、習近平、プーチン、金正恩という三者が対等の立場で壇上に並ぶ構図です。中国は公式には「世界反ファシズム勝利80周年」の平和的意義を強調しましたが、各国メディアや評論家は、そこに込められた戦略的な意図に注目しています。

  • ロシアのウクライナ侵攻や米中対立、朝鮮半島情勢の緊張のなか、三国の「連帯」が西側への牽制・メッセージとして映った。
  • 米メディアは「中国が戦後秩序の敗者となった国々のリーダーとして振る舞う狙い」を指摘。国内の経済不安や対台湾問題の深刻化の中での国威発揚と見なしています。
  • プーチン大統領は金正恩氏に対し、「何か必要なことがあれば兄弟として手を貸す」と伝え、両国の「兄弟的義務」の再確認を行いました。

中国のパレード、中国の今昔――「民脂民膏の祭品」批判も噴出

この80周年記念パレードは、1984年の国慶節パレードと比較されやすい歴史的な位置づけを持ちつつ、現代中国社会の変化や葛藤も映し出しています。

  • 中国は厳しい経済情勢下、巨額の資金と人員を投入して大規模な軍事パレードを執り行い、「民脂民膏の祭品では」との批判がSNSや評論家から相次いでいます。
  • それでもパレードが持つ求心力――社会統合やナショナリズムの高揚、政権の正統性アピール――は、一般国民には一定の支持基盤を形成していると見られます。
  • 歴史を意識しつつも、国内向けには「愛国心」や「軍事力の飛躍的発展」を強調、外交面では「平和的な台頭」と「多国間共生」を掲げています。

北朝鮮にとっての「象徴的勝利」と外交的打撃

金正恩氏の今回の訪中・訪ロは、北朝鮮の国際的孤立を打破し、存在感を示すまたとない好機となりました。

  • 長年、制裁下にある中での海外公式訪問は極めて稀。国際社会に対し、「自国は孤立していない」と強くアピールする象徴的イベントだったといえます。
  • また、中露両国との首脳外交・軍事協力は、朝鮮半島の安保ジレンマを深める一方で、北朝鮮国内の政権安泰や自信回復、経済取引の糸口となる可能性があると考えられます。
  • 一方で、「中国・ロシアの後塵を拝する脇役」という扱いを嫌った北朝鮮国営メディアは、金正恩氏こそが主役であると積極的にプロパガンダを展開しました。

三国の戦略的思惑――その結束は長続きするのか

では、この「中露朝三国」の連携はどこまで実質的な同盟なのでしょうか。いわゆる「専制主義連盟」なのか、それとも国際環境に応じた一時的協力にすぎないのか、専門家の間でも見解は分かれています。

  • 中国は自国中心のアジェンダを強く持ち、ロシアは西側からの孤立打破・軍事支援を渇望、北朝鮮は体制保証と経済交流を模索――三者の利益は一致する部分と相違点が混在しています。
  • 「三者同台」は対米戦略上の象徴的パフォーマンスであり、恒常的な同盟体制に発展するかは未知数です。現時点では各国の国益が重なった「権宜的協力」という色合いが濃いと解説されています。
  • 今後の国際情勢(米大統領選、ウクライナ戦争、台湾問題、朝鮮半島情勢など)がその絆にどのような影響を与えるかが最大の焦点です。

1984年国慶節vs2025年九三阅兵――中国はどう変わったか

過去40年を振り返ると、1984年の国慶節の軍事パレードは、改革開放と経済成長のスタートラインでした。2025年の今、巨大な軍事力とデジタル化・AI化された装備、そして社会統制の強化が目立ちます。

  • 最新装備(無人機、長距離弾道ミサイル、電子戦システムなど)の投入が象徴する「中国の現代化」(軍事も経済も)は、世界へのインパクトを飛躍的に高めました。
  • 一方、「社会統合」や「内部統制」がかつてなく強化され、国民への動員・監視も進展。民主主義国との対比が鮮明となっています。

国際社会の見方――分かれる評価、際立つ東アジアの本音

今回のパレードと三大首脳の会談・親密ぶりに、国際社会も複雑な視線を向けています。

  • 一部のアジア諸国では歴史問題や領土問題を含め警戒感を強める声も。
  • 欧米諸国は慎重姿勢を崩さず、「力の誇示」として警戒と批判の論調が多い一方、中露朝の国内ではナショナリズムと政権支持率の高揚が詳細に報じられています。
  • 日本社会では、「歴史の記憶」の不可逆性を再認識する声、「東アジアの新冷戦」への危機意識、そして政治的利用批判など、多様な意見が交錯しています。

まとめ:東アジア地政学の転換点――金正恩氏と中露朝三国の今後

2025年の九三阅兵と、それを彩った金正恩氏・プーチン氏・習近平氏の「同台」は、単なる歴史的儀礼にとどまりません。その姿は世界に向けて、そして自国民に向けて「結束」と「威信」を誇示し、また一方で各国の複雑な戦略計算や、相互不信もにじませています。

この三者の協調が未来永劫続くものか、それとも国際情勢による「一時的な協力」にとどまるのか――東アジア、ひいては世界の動きがその行方を見守っています。日本としても、地政学的な変化の渦中で冷静な分析と判断が求められる時代となりました。

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