はじめに
静岡県伊東市で10月19日に投開票を控えた市議会議員選挙が、全国的な注目を集めています。今回の選挙は、これまでにない異例の状況下で行われており、伊東市の市政をめぐる“信任対決”ともいえる激しい選挙戦が展開されています。全国でも相次ぐ首長の不信任決議と議会解散という事態の中、本当に有権者が信を問うべきなのは誰(または何)なのか――。そうした根本的な問いが、市民の間にも広がっています。
伊東市議選の経緯と争点
伊東市議会議員選挙は、現職の田久保眞紀市長が不信任決議案の可決を受けて議会を解散したことが直接のきっかけです。地方自治法の規定により、市長が議会を解散した場合、選挙後に新たに招集される議会で再び不信任決議案が可決されると、市長は失職することになります。今回の選挙は、言わば「田久保市政の継続か・刷新か」が最大の争点となっています。定数20に対し、元職18人と新人12人の計30人が立候補しており、その中で「田久保派」と「非田久保派」の勢力図が注目されています。
田久保市長はマイクを握り「大義のない選挙とも言われるが、多くの新人が声を上げて立候補した。私への賛否だけでなく、伊東の将来を考えてほしい」と訴えています。しかし、現実には市長の進退を左右する不信任決議案への賛否が、候補者への支持の大きな指標となっているのが実情です。
不信任と議会解散の連鎖―全国的な広がり
伊東市だけではなく、全国で首長と議会の対立が激化し、相次いで不信任決議案が提出され、議会が解散するケースが増えています。こうした事態は、単なる“人事抗争”ではなく、地方自治の在り方そのものへの根深い課題を浮き彫りにしています。
「市議会を開かなければ不信任も成立しない」という“法律の穴”
特に注目されているのが、市長が議会を開かなければ不信任決議が可決される機会すらない――という地方自治法の構造的な“穴”です。実際に伊東市でも、田久保市長が議会を解散することで時間稼ぎ(延命)を図ったと指摘する声があります。地方自治法では、市長が議会を召集しない限り、議会は自ら招集できないため、市長が市政の“主導権”を握り続けることが可能です。この仕組みが「市長の独善的な延命策」として批判を浴びています。
本当に信を問われるべきなのは誰か
こうした状況に対して、「議会と首長のどちらに市政運営の主導権を委ねるべきか」という根本的な議論が求められています。有権者は、単に個人の賛否だけではなく、地域の未来を左右する市政の根幹を見据えて投票することが重要です。投票率も前回比1.4倍に達し、市民の関心の高さがうかがえます。
伊東市議選の動向と今後の行方
伊東市議選の有権者数は約5万7000人で、期日前投票も前回の1.4倍に達しています。市長側にとって必要なのは、2度目の不信任決議案提出時に3分の1(7人)の議員が反対すること。しかし、現時点でのアンケート結果では、立候補者の大多数(26人)が不信任賛成の意向を示しており、田久保市長の失職はほぼ避けられないとの見方が強まっています。
一方で、市長側も新人候補を擁立するなど巻き返しを図っていますが、依然として厳しい情勢が続いています。市議選後の10月末には臨時議会が招集され、そこで再度不信任決議案が提出されれば、その場で市長の職は失われることになります。
市民・有権者へのメッセージ
田久保市長は「たくさんの新人が立候補した。ぜひ選挙広報をよく見て、誰に託すかを考えてほしい」と訴えています。市長自身の進退だけにとらわれず、地域の課題や未来像をしっかりと見据えた判断が求められているのです。
今回の伊東市議選は、単なる局所的な人事抗争ではなく、地方自治の本質的なあり方を見直すきっかけとなりそうです。有権者一人ひとりが、議会と市長双方の役割と責任を考え、主体的に投票すること――それが、真の地方自治を実現する第一歩となるでしょう。
おわりに
静岡県伊東市の市議会議員選挙は、首長と議会の関係がクローズアップされる全国的な“モデルケース”となりつつあります。投票日が迫る中、多くの市民が一票を投じることで、市政の方向性を大きく左右します。伊東市の選択が、日本の地方自治の未来を映し出す鏡となるかもしれません。