ドイツと中国の関係悪化、台湾めぐる欧州の動き——変化する世界と日本への意味
近年、ドイツと中国の関係が急速に冷え込んでいます。かつては経済的に緊密だった両国ですが、2025年に入り、その温度差が鮮明になりました。特に欧州連合(EU)の対中戦略が根本から変化し、その中心に「台湾問題」が大きく関わっています。なぜ欧州はここまで台湾を重視するのでしょうか。また、ドイツの視点と欧州全体の動き、そして中国側の反応も交えながら、分かりやすく紐解きます。
ドイツと中国:かつての「蜜月時代」から現在まで
20年以上にわたり、中国はドイツの最大の貿易パートナーであり、特に自動車・機械・化学産業を中心に経済関係は極めて深く結ばれてきました。しかし2024年末から2025年にかけて、政治・経済両面で大きな揺らぎが目立っています。
- 2024年まで、中国はドイツの輸出先・投資先として非常に重要な地位にありました。
- ドイツのフリードリヒ・メルツ首相が就任した2025年春以降、ドイツ政府高官は一度も中国を訪問していません。これは過去には考えにくかったことです。
- 予定されていた外相の訪中も直前でキャンセルされ、中国側も積極的な対応を見せなくなっています。
経済関係の変調と具体的な影響
従来、ドイツ経済の屋台骨となってきた自動車産業ですが、中国市場での競争力低下が目立っています。
- 2025年、中国でのドイツ自動車メーカーの利益率は8四半期連続で低下し、2022年の15%から6.8%まで大幅減少。
- 中国の新エネルギー車(NEV)市場では、中国ブランドが70%以上を占め、ドイツ車のシェアはわずか8.3%(2025年)まで落ち込みました。
- 一部のドイツ自動車メーカーは「中国での事業縮小や段階的な撤退」を検討していると報じられていますが、撤退すればドイツ本国で最大40万人超の雇用喪失リスクがあると指摘されています。
- 中国における現地調達やサプライチェーンも深刻な影響が予想されます。
また、経済以外でも米中摩擦やEUの対中警戒感の高まりから、在中国ドイツ企業も86%が米中関税の影響を受け、今後の事業環境に不安を持っています。今後の中国での投資意向について「拡大」が半数を占めるものの、「現状維持」「縮小」を選ぶ企業も増え、不透明感が漂っています。
なぜ「台湾問題」が欧州の対中政策をここまで動かすのか
ここ数年で、欧州の中国への態度が大きく変わった主因の一つが台湾問題です。ドイツやEU諸国は、台湾を「民主主義国家のパートナー」と見なし、地政学的リスクへの懸念を共有するようになりました。
- 2025年11月、台湾の蕭美琴副総統が欧州議会でスピーチし「台湾海峡の平和が世界の安定に不可欠」と訴えました。この演説は極秘で準備され、登壇はサプライズとして迎えられました。
- 欧州議会では、欧州のみならずアジア・アメリカの議員が集まり、台湾支援を表明する場となりました。
- 中国側は「台湾独立の主要人物を欧州議会に入れた」として強く非難しました。
欧州諸国は中国の圧力に屈せず、次々と台湾要人を受け入れ、「中国のレッドライン」(越えてはならない一線)に踏み込む形となっています。台湾の国際的孤立を打破するために動いているのが現状です。蔡英文前総統も「ベルリン自由会議」で講演し、民主主義諸国との連携強化を訴えました。
欧州に広がる台湾支持の波と地域安全保障
欧州では「台湾海峡の安定」が「欧州の安定・繁栄に直結する」という認識が強まっています。ロシアのウクライナ侵攻を受け、「専制主義に弱腰で臨めば自国の安全にも関わる」とする意識改革が強まった結果です。
- 議会交流や経済パートナーシップは拡大しています。
- 「台湾包囲」に走る中国への懸念から、自由主義・法の支配・人権尊重といった“欧州の核心価値”を守るため台湾と連携する動きが強まっています。
ただ、ドイツを含む主要国は「台湾独立の公式承認」には慎重で、中国との経済関係とのバランスも模索しています。それでも中国が「一方的な現状変更」を進める中、欧州のコミットメントは従来からは考えられないレベルにまで高まりました。
ドイツ・欧州の変化は今後どうなるか
ドイツはこれまで「経済最優先」で中国関係を扱ってきました。しかし現在は
- 中国依存からの脱却
- 政情不安・人権問題への懸念
- サプライチェーンの分散
- 友好国—特に日本や台湾、米国—との連携重視
へと徐々に外交方針を転換しつつあります。また、ドイツ企業の中には「電動化やスマート化で中国企業に学ぶことも必要」として、イノベーションを通じた関係再構築を訴える声もあります。
台湾から見た欧州:「孤立せず、友人が増えている」
台湾の蕭副総統は欧州歴訪後「台湾は孤立していない。むしろ世界中に友人が増えている」と語っています。中国の圧力に屈しない欧州の動きに対し、多くの台湾市民は勇気づけられています。
- 台湾の国際的な存在感向上に、欧州の支持は決定的な意味を持っています。
- 「民主主義の価値観」を軸とした連帯は、中国・ロシアの専制主義との構造的対立の中で、ますます重要度を増しています。
日本への意味:欧州のパラダイムシフトと今後の世界秩序
欧州における中国観の再評価は、直接的には日本にも影響します。
- 日独外相による連帯強調や、EUと日本の安全保障協力の拡大に繋がっています。
- アジア太平洋地域の安定が、欧州でも「自分事」と捉えられるようになったことは、グローバルな戦略転換を示しています。
- 台湾有事への備えや、中国依存からの脱却は、日欧にとって共通の課題です。
今後もドイツと中国の関係は緊張と協調の間を揺れ動くでしょう。しかし台湾をめぐる動きが欧州全体の空気を変えたことは、世界秩序全体の変革を象徴するものです。日本もこの大きな流れにどう向き合うか、問われています。
まとめ:ドイツ・中国・台湾・欧州——交錯する「民主主義と経済」の最前線
2025年、ドイツと中国の関係悪化は、単なる二国間摩擦にとどまりません。台湾という“火種”が民主主義連携の象徴となり、欧州全体が中国政策を大きく見直す時代を迎えました。経済、安全保障、価値観——世界は複雑に絡み合いながら、静かに、大きく動き始めています。


