グリーンランドとレアアース:揺れる資源外交と新たな国際秩序
はじめに:グリーンランドが注目される理由
グリーンランドは、北極圏に位置する世界最大の島であり、かつては人々の関心が薄い極北の地と見なされてきました。しかし、近年では豊富なレアアース(希土類)などの地下資源や北極海航路の開発が進むにつれ、国際社会の目が集まる重要な舞台となっています。特に2025年11月現在、グリーンランドの対外政策や国際協力、資源開発を巡って、米国・欧州・日本・中国が入り乱れる新たな動きが起こっています。
グリーンランドの地下資源、その戦略的価値
グリーンランドにはレアアースをはじめとするクリティカルミネラル(重要鉱物)、さらには石油や天然ガスといった資源が豊富に存在しています。レアアースは電気自動車や風力発電機、携帯電話、軍事技術など現代テクノロジーの基幹をなす素材です。そのため、これらの資源を巡る国際的な獲得競争は熾烈さを増しています。
中国は2011年からグリーンランドの資源開発に強い関心を示し、国営企業による事業参加も発表しましたが、大規模なインフラ投資や地理的困難さもあり、その進出は限定的となっています。
米欧日との連携を強調するグリーンランドの姿勢
2025年11月に行われたインタビューで、グリーンランド自治政府のニールセン首相は「グリーンランドのレアアースやその他鉱物資源の開発は、日本・米国・欧州との連携により進めていきたい」と明言しました。この発言は、かねてより資源開発やインフラ整備を巡って意欲を示していた中国の意向には応じないという、明確な国家戦略の表れです。また、一部で取り沙汰される米国による“グリーンランド国土の購入案”についても、首相は「国土の売却には断固として応じない」と繰り返し表明しました。
- 日本・米国・欧州という民主主義連携を優先
- 投資や開発は住民の雇用・生活向上を第一に
- 「グリーンランドは売り物ではない」と主張
現地住民のおよそ85%も米国の領有に反対しているなど、主権維持と資源開発のバランスに最新の注意が払われています。
米軍駐留の拡大と安全保障環境の変化
グリーンランド首相はまた、「今後は米軍の駐留拡大も選択肢」とし、現状の米軍基地運用に加えて北極海航路の安全確保や新たな地政学的リスクに備える考えを表明しました。気候変動による氷床縮小が、北極海を通る国際シーレーンの開通と利用拡大を現実のものとしつつあります。これを背景に、グリーンランドの地政学的価値はさらに高まり、米国としても長期的戦略拠点の強化を目指しています。
この姿勢には、近年「北極圏にも影響力を拡大しよう」と宣言している中国への牽制も込められています。中国は「氷上のシルクロード」構想を掲げ、インフラ投資や航路権益確保を積極的に進めていますが、グリーンランド自治政府としては、米欧日など民主主義国との連携を選択することで、自由で安定した北極秩序の形成に寄与する考えを明らかにしています。
中国による資源開発の動向
2010年代前半には中国大手企業が盛んにグリーンランドで資源開発を模索しました。特にレアアースをはじめとする鉱物探査や投資は目立ちましたが、鉱山開発には膨大なインフラ整備、長期資本の投入など多くの課題が立ちはだかりました。その結果、進出意欲は当初ほどではなくなりつつあります。しかし、地政学的には中国が北極圏で存在感を増しているのも事実です。「今後の北極政策においても、グリーンランドの資源・航路・戦略拠点としての価値を中国が無視することは難しい」との指摘もあります。
現場で進むレアアース開発と国際協力
鉱物資源の枯渇や国際的なサプライチェーンリスクの高まりの中、グリーンランドを含む新たな資源供給基地の開発は多くの国々にとって喫緊の課題です。とりわけ日本・米国・欧州の三極連携による技術・資金・人材面の協力強化を、グリーンランド政府は強く求めています。現地のインフラ整備や鉱山プロジェクト、雇用創出の観点からも、この国際協働モデルは大きな注目を集めています。
- 新規鉱山の開発と既存鉱山の効率化
- 環境リスクと原住民への配慮の両立
- 輸送インフラや港湾・空港の整備促進
このような国際的協力は、グリーンランドだけでなく、供給側・需要側双方の経済成長と安全保障に資する前向きな展開となっています。
住民の声と社会的課題
レアアース開発による豊かさが期待される一方で、グリーンランドの人々は自然環境や伝統的な生活様式、文化の維持にも強い関心をもっています。大型開発プロジェクトに伴う環境への影響や社会的不安への懸念も根強く、政府は丁寧な住民対話と持続的な発展モデルの構築を進めています。
新たな時代の北極秩序とグリーンランドの未来
米中欧日など大国の思惑が交錯する北極圏。その中心に位置するグリーンランドは、今後も大きな国際的注目を集め続けるでしょう。資源開発と主権維持の両立、国際協調による新たな安全保障枠組み、そして環境と生活の調和。これらを実現するために、グリーンランドは大きな岐路に立っています。今後の動向に、ますます目が離せません。



