はじめに

2025年、ドイツは激しい社会の分断とポピュリズム政党の台頭に直面しています。半年間運営されてきた現政権の支持率は大幅に低下し、失業者が300万人にのぼる中、「移民より経済対策を」という国民の声が強まっています。ここでは、こうした状況を背景に、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の影響力拡大や移民政策の見直し、ミュンヘンにおける「壁」建設問題を軸に、国内の分断とポピュリズムの実態、そしてドイツのこれからを考えます。

政権支持率急落と経済・移民問題への国民感情

2024年秋に発足した現政権は、発足当初こそ期待が持たれていましたが、半年を経た2025年2月時点で支持率は半減しています。失業者数は300万人に達し、人々の生活不安は深刻です。そんな中で「移民よりも経済対策を優先すべきだ」という声が高まっています。特にエネルギー価格の上昇や企業負担増、高齢化と人手不足など、日本と同じような構造的問題が山積みとなっていますが、政権は十分な対応を示せていません。

国民の間では、経済的困窮と雇用不安が広がり、伝統的な政党への不信感が根強く残っています。かつては安定と安心の象徴だった与党・社会民主党(SPD)や緑の党への支持率は大幅に下落し、代わって支持を伸ばしているのがAfDです。AfDは「移民大量受け入れが雇用を圧迫している」「ドイツ人優先の政策を」と訴え、経済不安と移民問題を結びつけて支持を伸ばしています。

一方でSPDや緑の党、自由民主党(FDP)による連立政権は、対立を繰り返し、2024年11月には実質的に崩壊しています。国民の期待に応えられなかったことが、支持率急落の大きな要因でした。

AfD台頭と政党政治の変質

AfDは2019年以降、支持を拡大し続け、2025年の選挙では第2党となる勢いです。暴力事件や極端な主張も目立ちますが、それでも「既成政党には期待できない」「強いリーダーが必要だ」というポピュリズム的なメッセージが、不安定な時代には多くの支持者を獲得しています。

興味深いのは、これまでドイツでは「極右」と「既成政党」の連立はタブー視されてきました。しかし、もし連立が現実化すれば、政権内の亀裂は避けられません。実際に「AfDと連携するなら支持できない」という与党内の声も根強く、ドイツ社会の分断が政治の現場にも反映されています。

また、AfDの強さは「単なる排外主義」だけでは説明できません。彼らは経済対策や雇用創出にも力を入れる公約を掲げ、従来の「移民・難民だけ」のポピュリズム政党像を脱しつつあります。それだけに、既存政党の危機感は強まっています。

外国人政策の見直しと国際的な比較

こうした変化に対し、日本などの他国も強い関心を寄せています。たとえば日本では「外国人政策を見直した高市政権(仮称)」が誕生し、移民受け入れに慎重な姿勢を示しています。ドイツの「反面教師」として、移民受け入れ政策の弊害やポピュリズム政党の台頭を注意深く見ています。

実際、ドイツでは難民・移民の増加による生活環境の変化や治安の悪化、社会サービスの逼迫などが、市民生活に大きな影を落としています。こうした状況が、極右政党の躍進を許す要因の一つとなっています。他国から見れば、ドイツの「寛容すぎる移民政策」が極右ポピュリスト政党の台頭を招いた、という見方が強まっています。

さらに、日本でも移民政策をめぐる対立が拡大しています。外国人労働者への反発や「日本らしさ」の強調がポピュリズム政党の支持拡大につながる恐れも指摘されています。ドイツの経験は、グローバル化時代の移民政策を考える上で、重要な先例となっています。

「ミュンヘンの壁」――社会の分断の象徴

ドイツの分断を象徴するのが、ミュンヘン市に建設された「ミュンヘンの壁」です。これは難民収容施設と周辺住居を隔てるための高さ4メートルの壁。建設の理由は「難民と地域住民の間のトラブルを防ぐため」ですが、この壁が「ドイツ社会の深刻な分断」を可視化し、国内外から大きな議論を呼んでいます。

「難民は自国の利益を脅かす存在」という極右勢力の主張と、「多様性や寛容こそがドイツの価値だ」というリベラル派の主張が衝突し、社会全体が二分されています。その現場となったのが「ミュンヘンの壁」であり、この分断は一部の都市にとどまらず、全国に広がる傾向です。

この壁は「イスラム圏の移民同士の居住空間を分断し、共同体意識の醸成を阻害するだけでなく、根本的な問題解決になっていない」との批判も根強くあります。また、このような「壁」が増えることで、難民の社会統合がさらに困難になる恐れも指摘されています。

日本政治への示唆

ドイツの現状は、日本にとっても大きな教訓といえます。人口減少と人手不足に直面し、外国人労働者の受け入れ拡大を進めてきた日本でも、移民政策に対する賛否は二分されています。特に2025年7月の参議院選挙では、外国人受け入れに慎重な「参政党」が躍進し、高市政権(仮称)がその影響力を意識せざるを得なくなっています。

ただし、日本とドイツではポリシーの違いも目立ちます。ドイツのAfDはEU離脱や保護主義を主張しますが、日本では「参政党」などが「日本らしさ」や「伝統文化の保護」を前面に出し、グローバル化の拒否とともにナショナリズムを強調しています。両者の共通点は「不安定な時代の中で、従来の価値観や社会秩序を守る」という一種の「安心感」を求める有権者の心をつかんだことです。

こうした動きは、グローバル化や移民政策、経済格差拡大への反動という点で、日本とドイツの両方に共通する現象です。今後、ポピュリズム政党がさらに影響力を強めると、民主主義や少数者の権利、多様性そのものが脅かされる危険性も指摘されています。

今後の展望――ドイツはどこへ向かうのか

2025年2月23日に行われた総選挙では、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)が30.3%の得票で第一党となりましたが、極右AfDも16%を獲得し、第二党に躍進しています。従来の与党は全て後退し、伝統的な政党政治の枠組みそのものが揺らいでいます。

今後予想されるのは、CDU/CSUが新たな政権を担う場合でも、AfDとの距離感をどう保つかが最大の焦点となるでしょう。AfDとの連立は社会の分裂をさらに深めかねません。一方で、SPDや緑の党などリベラル勢力は「連立の枠組みをどう維持するか」というジレンマに直面しています。

移民や難民政策の抜本的見直しも必至です。社会の分断を解消するには、単なる「壁」ではなく、難民や移民の社会統合、雇用創出、地域社会への受け入れ体制の強化が不可欠です。しかし現実には、財政的・制度的制約が大きく、短期的な救済策に偏りがちなのも事実です。

長期的には、経済格差・地域格差の是正、教育の機会均等、文化の多様性の尊重、そしてEU全体の連携強化が求められます。その実現のためには、「ポピュリズムに流されない健全な政策論争」と「市民一人ひとりが社会の多様性を受け止める寛容さ」が不可欠です。

おわりに

ドイツの現状は、移民・難民問題、経済不安、ポピュリズム政党の台頭、社会の分断など、現代社会の抱える課題を象徴しています。日本を含む他国も、こうした動きを他人事とは見なせません。真に豊かな社会を築くには、短期的な人気取りや不安におびえるだけではなく、長期的な視野と対話を重ねる努力が必要です。わたしたちは、ドイツの経験から何を学び、どう未来を切り開くのか――今、その分岐点に立っています。

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