「税収格差是正」議論が全国に波紋 東京の反発と千葉など周辺地域への影響とは
政府・与党が進める「税収格差是正」をめぐる議論が、東京都と国との間で大きな火種となりつつあります。小池百合子東京都知事は、東京の税収を地方へ再分配する方向の見直しに対し、「東京を狙い撃ちにするかの如く一方的に収奪し、他自治体に分配することは、地方税制や地方自治の根幹を否定するものだ」と強く批判しました。
一方で、こうした議論は東京都だけの問題ではありません。東京に隣接する千葉県をはじめとする首都圏の自治体にとっても、財政や地域づくりに直結する大きなテーマです。本記事では、現在進んでいる「税収格差是正」論争のポイントと、それが千葉など周辺地域にどのような影響をもたらしうるのかを、やさしい言葉で整理していきます。
東京の税収はなぜ「突出」しているのか
まず背景として押さえておきたいのは、東京都の税収規模が全国的に見て群を抜いて大きいという現実です。総務省の試算によると、東京都が独自の政策財源として活用できる規模は、他の46道府県の約3.6倍に達しているとされています。
その理由として、主に次のような要因が挙げられます。
- 大企業の本社機能が東京23区に集中しており、地方法人二税(法人事業税・法人住民税など)が集まりやすいこと
- 地価の大幅な上昇により、固定資産税などの税収が増えていること
- 人口や経済活動が集中し、消費や所得も大きいこと
こうした事情から、政府・与党は、税収が東京に「偏在」している状況を是正するため、地方法人税や固定資産税など地方税制度の見直しを、2026年度の税制改正大綱に盛り込む方向で検討しています。
その中身としては、東京に集まりすぎた税収の一部を他の道府県へ回す仕組みの強化などが想定されています。
小池都知事の「7分間の批判」 その主張は?
こうした動きに対し、小池百合子都知事は12月5日の記者会見で、約7分間にわたり政府・与党の議論を批判しました。主なポイントは次の通りです。
- 東京だけを「狙い撃ち」にして税収を吸い上げ、他の自治体に配るのは不合理であること
- 地方税制・地方自治の根幹を否定しかねない一方的なやり方だということ
- 東京都も、子育てや高齢者支援、防災対策など多くの政策課題を抱えており、財源が削られれば都民サービスに影響が出る懸念があること
特に小池知事は、「一方的に収奪し、他自治体に分配する」という表現を用い、東京の財源を国が取り上げる形になることに強い警戒感を示しています。
東京都公式SNSの発信に批判殺到 「東京だけ奪われる?」
この議論が広がる中、東京都の公式SNS(Xなど)が、「東京だけ地方に税収が奪われる」といった趣旨の投稿を行い、さらに大きな反響を呼びました。
この投稿に対しては、ネット上で次のような批判的な声も多く寄せられています。
- 「地方から若者を吸い上げているのは東京なのに、その言い方はおかしい」
- 「東京一極集中の恩恵を受けておきながら、『税収を奪われる』というのは詭弁では?」
- 「地方の疲弊や人口減少の現状を全く見ていないのではないか」
記事(ファイナンシャルフィールドなど)では、地方の現状として、次のような課題が挙げられています。
- 若者の多くが進学や就職で東京圏へ流出し、地元の人口が減少していること
- 高齢化が急速に進み、社会保障や生活インフラの維持に多くの財源が必要なこと
- 企業誘致や雇用創出が思うように進まず、税収が伸び悩んでいること
こうした厳しい状況の中で、地方側からは「東京に集中する税収をある程度分けてもらわなければ、持続的な地域運営が難しい」という切実な声もあがっています。一方で、東京都側は「都民生活を支えるための財源は自分たちでも必要だ」と訴えており、双方の主張がぶつかり合っている構図です。
自民党・萩生田光一氏も「偏在是正」に反対
税収の東京偏在是正をめぐっては、国政レベルでも自民党内から反対意見が出ています。そのひとりが、自民党の萩生田光一氏です。萩生田氏は、東京都に地盤を持つ有力政治家であり、税収の再配分強化に対して反対の立場を表明しました。
報道によれば、萩生田氏は「首相の方針に逆行する」といった趣旨で、東京の税収を地方に回す偏在是正の方向性に異議を唱えています。
背景には、東京都の財源が削られることで、首都圏のインフラ整備や防災対策、子育て支援などに悪影響が出るのではないか、という懸念があります。
また、与党内には、「偏在是正よりも、まず地方経済そのものを強くする政策や、東京一極集中を是正する総合的な対策を優先すべきだ」という意見もあり、党内議論も一枚岩ではない状況です。
千葉県の立場と懸念 「東京の隣」であるがゆえの難しさ
では、東京に隣接する千葉は、この議論とどう関わってくるのでしょうか。
千葉県は、人口約600万人を抱える大都市圏の一角でありながら、県内には都市部と農村部、工業地帯と観光地が混在しており、地域による格差も大きいのが現状です。
千葉県は、次のような意味で、東京の税収是正議論と無関係ではありません。
- 多くの県民が東京都内へ通勤・通学しており、生活圏としては「首都圏の一体」として機能していること
- 一方で、県内の中山間地域や郊外では、人口減少や過疎化が進み、地域インフラの維持が課題となっていること
- 成田空港や京葉臨海部など、全国経済にとって重要な拠点を抱えつつも、十分な投資や税収確保が課題となる地域があること
首都圏全体で見ると、東京に本社を置く企業で働く人や、東京の大学に進学する若者の中には、千葉から通っている人も少なくありません。
その意味で、「人の流れ」や「経済活動」は東京と千葉で密接につながっていますが、「税収」という観点で見ると、法人税の多くは本社所在地である東京に集中してしまう構造があります。
このため、千葉のような周辺県からは、「東京に集中した税収の一部を、広く首都圏全体のインフラ強化や防災対策に活かしてほしい」という期待も考えられます。一方で、東京の財源が大きく削られれば、首都直下地震など大規模災害への備えが不十分になるおそれもあり、首都圏全体にとってのリスクにもなりかねません。
「地方の現状」をどう見るか 若者流出とサービス維持のジレンマ
東京都側の「税収を奪われる」という表現に対して、「地方の現状を理解していない」という批判が相次いだ背景には、地方が抱える構造的な問題があります。
多くの地方自治体では、次のような課題が深刻です。
- 高校卒業後、進学や就職で若者が首都圏へ流出し、出生数が減少している
- 高齢者の割合が高く、医療・介護・交通などの公共サービス維持に多額の財源が必要
- 民間企業の投資が伸びず、税収が横ばいか減少傾向にある
この結果、地方では「住民サービスを維持したいが、税収が足りない」というジレンマが続いており、国からの地方交付税や、都市部からの税収移転が、自治体運営の生命線となっているケースも少なくありません。
一方で、東京や千葉など首都圏の自治体も、人口増加に伴う保育・教育・交通・住宅などの負担や、老朽化したインフラの更新、災害対策などで多くの財源を必要としています。
つまり、「地方だけが苦しい」「東京だけが楽をしている」という単純な構図ではなく、それぞれ違ったかたちで財政の重圧を抱えていると言えます。
子育て・教育政策とも絡む税制議論
今回の税収是正議論は、単に「東京から地方へ税収を移すかどうか」だけが論点ではありません。政府は、児童手当の拡充や高校無償化の実施に伴って、高校生の扶養控除額の縮小も検討しており、所得税や住民税の控除額を引き下げる案が浮上しています。
仮にこの見直しが行われると、所得税・住民税合わせて最大34万円程度の控除縮小になるとの試算も示され、「高校無償化の財源を、結局は高校生の親御さんに負担させるのか」といった批判の声が上がっています。
国民民主党からは「時代に逆行している」との指摘も出ており、税制改正をめぐる議論は、少子化対策や教育費負担の在り方とも密接に関連しています。
千葉を含む全国の家庭にとっては、「どの地域にどれだけ税金が回るか」という問題だけでなく、「自分たちの家計負担がどう変わるのか」という点も重要な関心事です。
千葉から考える「税収格差是正」 私たちにとっての論点は
ここまで見てきたように、「税収格差是正」は東京と地方の対立のように語られがちですが、実際には首都圏全体、さらには全国の自治体と住民に関わる大きなテーマです。千葉の視点から整理すると、次のような論点が浮かび上がります。
- 首都圏としての一体性
東京・千葉・神奈川・埼玉は、通勤通学・医療・買い物など生活圏が密接につながっています。
東京の税収だけを切り離して議論するのではなく、首都圏全体で必要なインフラ整備や防災対策をどう分担するか、という視点が欠かせません。 - 千葉県内の地域間格差
千葉市や船橋市、市川市、浦安市など東京寄りのエリアと、房総半島南部などでは、人口動態も税収状況も大きく異なります。
「東京対地方」という対立構図の陰で、千葉県内の内部格差にも目を向ける必要があります。 - 若者の流れと地元定着
地方から東京圏への若者流出だけでなく、千葉から都心部への流れも続いています。
税制だけでなく、教育・雇用・住宅政策などを通じて、千葉の中で若者が暮らし続けられる環境づくりが、結果的に税収安定にもつながります。
税収の分配をどうするかは、最終的には国会や政府・与党の税制調査会で議論され、制度として決まっていきます。しかし、その前提となる「どの地域に、どのような課題があり、どんなサービスを守るべきなのか」という議論は、私たち一人ひとりの暮らしにも直結しています。
東京都知事の強い発言や、東京都公式SNSの挑発的とも受け取られた投稿は、世論を二分させつつありますが、一方的にどちらかを責めるだけでは、問題の根本的な解決にはつながりません。
千葉に住む私たちにとっても、「東京に頼るだけでなく、自分たちの地域の強みをどう伸ばし、必要な財源をどう確保するか」という視点が求められています。
今後、税制改正の具体的な中身が固まってくるにつれて、千葉県や県内市町村の財政にも、プラス・マイナスさまざまな影響が表れてくる可能性があります。
報道や自治体の発信に目を向けつつ、私たち自身も、この「税収格差是正」の意味を自分ごととして考えていくことが大切になりそうです。



