中国がドイツに支持を要請 日本と台湾をめぐり外交攻勢を強める背景

中国が、台湾問題や日本の歴史認識をめぐって、ドイツに対して相次いで働きかけを強めています。この記事では、

  • 中国がドイツに「日本は侵略を反省していない」と訴えた動き
  • 台湾問題をめぐり、中国がドイツをけん制した発言
  • 日本の高市首相の対台湾発言に対する中国の批判と、それをドイツ外相に伝えた経緯
  • その背景にある中国の思惑と、ドイツ・日本・台湾にとっての意味

を、できるだけわかりやすく整理してお伝えします。

1. 中国「日本は侵略反省せず」 ドイツにも支持を要請

まず注目されたのが、中国がドイツ側に対し、

「日本は過去の侵略を十分に反省していない」

と訴え、歴史認識問題で中国側の立場を支持するよう求めた、というニュースです。

中国はこれまでも、日本の歴史教科書問題や靖国神社参拝などをめぐり、「歴史の美化」や「侵略の否定」だと強く批判してきました。今回はその延長線上で、ヨーロッパの大国であるドイツに対しても、

  • 第二次世界大戦の加害国としての歴史認識
  • 戦後の反省と謝罪のあり方

などを引き合いに出しながら、日本よりも「模範的」とされるドイツの姿勢と日本を対比させる形で、自国の主張への理解・支持を求めたとみられます。

中国側としては、

  • アジア太平洋地域で日本の安全保障政策が強まることへの警戒
  • 日本と欧米諸国の連携を弱めたいという思惑

が背景にあると考えられます。歴史認識をめぐる議論を改めて持ち出すことで、日本のイメージに揺さぶりをかける狙いもあるとみられます。

2. 台湾問題でドイツをけん制 「核心的利益の中の核心」と強調

次に、台湾問題をめぐっても、中国の副主席がドイツに対して強いメッセージを発しました。

副主席は、台湾について、

「中国の核心的利益の中の核心だ」

と述べ、台湾問題は中国にとって、妥協できない最重要課題であると改めて強調しました。ここでいう「核心的利益」とは、中国政府が

  • 国家の主権
  • 領土の一体性
  • 政権の安定

など、最も譲れない国益と位置づけるものです。その「核心的利益」の中でも、台湾は特に重要だという意味で、「核心の中の核心」という表現が用いられました。

この発言は、ドイツを含む欧州諸国に対して、

  • 台湾との関係強化に慎重であるべきだ
  • 「一つの中国」原則を尊重してほしい

というメッセージを送る狙いがあるとみられます。

近年、EUやドイツは、台湾との経済・技術協力を深めたり、民主主義・人権といった価値観の面で台湾への関心を高めたりしてきました。これに対し中国は、

  • 台湾を「国家」と同等に扱うこと
  • 台湾との公式交流を格上げする動き

に敏感に反応しています。今回の発言も、ドイツが台湾寄りと見なされる行動を取らないよう、事前に強く釘を刺す意味合いがあると考えられます。

3. 中国外相「高市首相は台湾を利用し武力の脅威」 ドイツ外相に直接訴え

さらに、中国外相はドイツ外相との会談の場で、日本の高市首相の台湾をめぐる発言を強く批判しました。

中国側によると、高市首相は台湾有事に関して、日本がどのように関わるかを国会で具体的に説明し、台湾情勢への軍事的関与の可能性に触れたとされています。中国はこれを、

「台湾問題に武力介入する可能性をほのめかしたもの」

と受け止め、強く反発しました。

中国外務省の担当者は、日本側の発言について、

  • 中国の「一つの中国」原則に反する
  • 台湾情勢を不安定化させる

と非難し、高市首相の発言の撤回を求めたとされています。そして中国外相は、この不満と懸念を、ドイツ外相にも直接伝えました。

中国外相は、

「高市首相は台湾を利用し、武力の脅威を誇示しようとしている」

といった趣旨の批判を展開し、日本の安全保障政策が地域の緊張を高めている、と訴えた形です。ここでも中国は、

  • 日本への圧力を強める
  • 同時にドイツに対し、日本寄りの立場を取らないよう牽制する

という二重の狙いを持っているとみられます。

4. 背景にある「一つの中国」原則と台湾有事をめぐる緊張

これらの一連の動きを理解するには、まず中国の「一つの中国」原則と、台湾をめぐる国際関係を押さえておく必要があります。

中国は、

  • 台湾は中国の領土の一部であり、
  • 「中華人民共和国」が中国を代表する唯一の合法政府である

という立場を一貫してとっています。各国と国交を結ぶ際も、この「一つの中国」原則を受け入れることを前提条件としてきました。

日本や米国も、1970年代の国交正常化の際、この原則に一定の形で配慮を示しています。ただし米国は、「中国側の立場を認識する(acknowledge)」と表現し、日本も「中国の立場を十分理解し尊重する」と述べるなど、あえて曖昧な表現を使い、台湾との関係を完全には断ち切らない余地を残してきました。

このため、

  • 中国は台湾を自国の一部と主張
  • 米国や日本は、台湾との経済・安全保障上の関係も維持

という、微妙な均衡の上に、現在の状況は成り立っています。台湾有事をめぐる議論が高まるたびに、この均衡は大きく揺らぎます。

中国は、台湾統一のために武力行使を選択肢として完全には放棄していません。一方、米国は台湾への武器供与を続け、台湾の安全を守る立場を重視してきました。日本もまた、台湾海峡の平和と安定を自国の安全に直結する問題とみなし、関心を強めています。

高市首相による台湾有事に関する具体的な発言は、中国にとって、

  • 日本が台湾側に立ち、軍事的に関与する可能性
  • 米国との連携の下で、中国を牽制する戦略

を強く意識させるものでした。そのため中国は、日本への直接抗議だけではなく、ドイツ外相など第三国にも自国の不満を伝え、日本の動きを国際的に問題視させようとしているとみられます。

5. なぜドイツなのか 中国の対欧州戦略と日本けん制

では、なぜ中国は、これほどまでにドイツに対してメッセージを送っているのでしょうか。いくつかのポイントが考えられます。

  • EU最大の経済大国としての影響力
    ドイツはEUの中で経済規模が最も大きく、欧州の対中政策や対台湾政策に大きな影響力を持っています。ドイツが慎重姿勢を取れば、他の欧州諸国にも抑制的な空気が広がる可能性があります。
  • 中国にとって重要な貿易相手
    中国とドイツは、自動車、機械、ハイテク分野などで深い経済関係があります。お互いに「関係を悪化させたくない相手」であるため、中国としてはドイツとの対話チャネルを活用し、自国の立場を丁寧に説明しつつ牽制することができます。
  • ドイツの歴史認識と日本批判の組み合わせ
    ドイツは第二次世界大戦後、自国の責任を認め、教育や政治で反省を徹底した国として評価されてきました。中国はこの点を持ち出し、「ドイツのようにきちんと反省していない日本」を批判する材料として利用しやすい状況にあります。
  • 価値観外交への対抗
    ドイツやEUは、民主主義や人権、法の支配といった価値観を外交の柱として掲げ、台湾支持の姿勢を見せることもあります。中国はこれに対し、「内政干渉」だと反発し、自国の立場への理解を求める必要があると考えています。

こうした要素が重なり、中国はドイツを重要な「説得対象」と位置づけ、日本や台湾をめぐる問題で自国の立場に近づけようとしていると考えられます。

6. 日本・ドイツ・台湾にとっての意味

今回の一連の動きは、日本やドイツ、そして台湾にとって、どのような意味を持つのでしょうか。

日本にとって

  • 日本の首相発言が、中国だけでなく第三国(ドイツ)との外交の場でも直接批判の対象になっていることから、日本の対台湾発言が国際的に注目されていることがわかります。
  • 歴史認識問題も改めて蒸し返され、日本のイメージや欧州との関係にも影響しうる状況です。
  • 台湾有事を想定した議論を進めつつも、地域の緊張を必要以上に高めない発信のあり方が、ますます難しくなっていると言えます。

ドイツにとって

  • 中国からの強い働きかけと、民主主義・人権を重視する対外姿勢との間で、バランスを取る必要に迫られています。
  • 台湾との関係強化を続けるかどうか、中国との経済関係をどの程度優先するか、といった難しい判断が求められています。
  • 日本との連携も視野に入れつつ、インド太平洋地域の安定への関与をどのように進めるかが課題となります。

台湾にとって

  • 中国が第三国を巻き込んで台湾問題を「中国の核心的利益の核心」と強調し続けていることは、国際社会での台湾の立場に影響を与えます。
  • 一方で、欧州や日本、米国などが、どの程度台湾との関係を深めるかも、台湾の安全保障や国際的地位に直結します。
  • 台湾としては、中国の圧力と各国からの支持や協力の間で、慎重な外交運営が求められる局面が続きます。

7. 今後の注目点

今後、注目されるポイントとしては、次のような点が挙げられます。

  • ドイツ政府が、中国の歴史認識や台湾問題に対する要請に、どの程度応じるのか
  • EU全体として、台湾との関係や対中政策をどう調整していくのか
  • 日本が台湾有事をめぐる議論を進める中で、中国との対話やリスク管理をどう図っていくのか

中国、ドイツ、日本、台湾という4者の関係は、単なる二国間関係ではなく、

  • 米中対立
  • 欧州の対中姿勢
  • インド太平洋地域の安全保障

といった、より大きな構図の中で動いています。今後も、首脳会談や外相会談の発言、各国の政策文書などから、関係の変化を丁寧に追っていくことが重要になりそうです。

参考元