カリフォルニア州最高裁判所、共和党の区割り阻止策を却下──連邦議会の勢力争いを揺るがす「Redistricting」最新動向

はじめに:アメリカ政治の一大論点、「区割り」の現在地

2025年8月21日、カリフォルニア州最高裁判所は共和党による区割り阻止の訴えを否決し、州議会は新たな区割り案の住民投票実施に向けて動きを加速させています。これは、州単位での議会選挙区の再編(redistricting)をめぐり、全国的に波紋を呼んでいるニュースです。背景には、カリフォルニアとテキサスという2大州による「議会勢力争い」があり、将来のアメリカ政治の方向性に大きな影響を与える可能性があります。

カリフォルニアとテキサスの「区割り戦争」が意味するもの

発端は、ドナルド・トランプ元大統領の指示を受けたテキサス州共和党による選挙区の再編です。これにカリフォルニア州知事ギャビン・ニューサム率いる民主党が即座に対抗し、「火には火で戦う」と公言、議会主導で新たな選挙区地図を作成する計画を明らかにしました。

  • テキサス州:共和党が選挙区再編を通じて来年の選挙で5議席を獲得する狙い
  • カリフォルニア州:議会超党派で再編案を作成、今秋の住民投票で新地図承認を目指す

この「区割り戦争」は、ニューヨークやオハイオなど他州にも波及しています。特にカリフォルニア州は、2008年から独立の選挙区区割り委員会を設け「公正な区割り」を目指してきた歴史があるため、今回の緊急措置には大きな議論が伴っています。なお、この特別措置は一時的であり、2026年から2030年まで有効、その後は元の委員会に権限が戻る予定です。

最高裁の判断と州民の反応──「党派的区割り」の問題点

本件に関して連邦最高裁は2019年の「Rucho対Common Cause」判決以来、党派的区割りは裁判所の管轄外ということを明言しています。その一方で、「人種差別を含む区割り」に対しては司法的介入が認められます。しかし、党派的に行われる区割り自体は「非民主的」としつつも、裁判所が直接是正する権限は持たないというスタンスです。

このためカリフォルニア州最高裁判所も、共和党側が求めた「区割りの阻止」を却下しました。州議会や知事は、「テキサス式の党派的区割り」に一時的に対抗するために住民投票という民主的な方法を選択し、透明性確保を強調しています。

党派的区割り(Gerrymandering)とは?

本件の争点である「Gerrymandering(ゲリマンダリング)」とは、選挙区の境界を党派的に引き直すことで、特定政党に有利な議会の構成を作り出す手法です。アメリカでは歴史的に繰り返されてきた手法ですが、近年では技術の進歩により精緻化され、選挙の公正さや民主主義の基本原則が問い直されています。

  • 2019年最高裁判決で「党派的ゲリマンダリングは非民主的」とされつつも、是正権限は裁判所にない
  • 州議会や住民投票による是正しか実効的な対抗策はない

このため、カリフォルニア州の住民投票案は制度的透明性を担保しつつ「州民の意思」で新地図を決めるという点で、他州の強権的な区割りとは一線を画すアプローチです。

世論の動向──党派の垣根を越えて

最新の全国世論調査によれば、民主党支持層の過半数がカリフォルニア州の対抗策を支持しています。一方で、党派的区割り自体には否定的な声も多く、「本来なら党派的な区割りはなく、公平なルールで議席を争うべき」と考える有権者が多数を占めているのも事実です。にもかかわらず、現実にはテキサスの党派的区割りへの「応戦」としてカリフォルニアが行動を起こしている形となっています。

  • 民主党支持層は「やむを得ない対抗措置」として理解
  • 共和党支持層は「本来の区割り独立性」を主張しつつも、地元利益を最優先
  • 一般有権者の多くは「公平性」を重視するも、現実的な政治バランス争いには消極的

カリフォルニア側の主張と今後の展開

ニューサム知事は「我々は隠れて何かをしているのではなく、州民の参加と承認を得て透明な方法で一時的な区割り改定を行う。これはテキサスのやり方とは根本的に違う」と強調しています。住民投票までのスケジュールはタイトで、8月22日までに議会承認(投票の実現)が必要ですが、リーダーシップの結集に自信を見せています

  • これまで高い倫理基準で運営してきた独立委員会の仕組みは維持される
  • 今回の特例措置は緊急対応であり、恒久的な制度改正ではない
  • 2026年、2028年、2030年の3回選挙に限り、住民投票で承認される地図を使用
  • その後は元の仕組みに戻り、州民の信頼維持を目指す

なぜ「区割り」がここまで重要なのか?──議会勢力と民主主義の根幹

選挙区の一線の引き方一つで、議会の構成が大きく変わり、政権運営や政策の方向性が左右されます。カリフォルニアとテキサスの対立は単なる地域問題ではなく、アメリカ全体の価値観と統治原則を問う「民主主義の試金石」でもあります。

実際、党派的な区割りが全米規模で広まりつつあり、「公正な選挙」の実現がますます困難になっています。本来であれば、政策の善し悪しで議席を争うべきですが、現実のアメリカ政治では、区割りという“技術戦”が政治そのものを左右する状況になっています。

まとめ:公平と透明性を求めるアメリカ政治の未来

今回のニュースは、アメリカの政治制度の危機と可能性の両面を浮き彫りにしています。「党派的区割り」は民主主義の根幹を揺るがすものですが、住民投票や議論を重ねることで、公平性と透明性を担保する取り組みも生まれています。カリフォルニア州の挑戦は、今後の全国的な政治改革の方向性を占う重要な試金石となるでしょう。

有権者一人ひとりの意思が反映される選挙区制度こそ、民主主義の基本です。州単位での大胆な試みが、全米規模での公正選挙の実現につながるかどうか──今後の展開に引き続き注視が必要です。

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