慶州で揺れる国際舞台――韓米首脳会談、反トランプデモ、関税合意の3日間

韓国・慶州でAPEC首脳会議開催――緊張と注目の国際都市へ

2025年10月29日、韓国東南部の歴史都市・慶州は、世界21ヵ国の首脳らが集うアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の開幕という歴史的な一日を迎えました。韓米両国首脳の会談が開かれ、各国要人の訪韓により、国内外の関心が慶州に集まりました。

一方で、会議開催地周辺では市民社会による大規模な集会が相次ぎ、特にトランプ米大統領の来韓に対しては、反対の声も大きく上がりました。韓国国内の複雑な対米感情、そして経済交渉をめぐる厳しい現実が、会場都市である慶州に鮮やかに描き出された形です。

韓米首脳会談は「成果なき会談」へ――背景と影響

今回のAPEC首脳会議で最大の注目点となったのは、韓米首脳会談でした。李在明(イ・ジェミョン)大統領とトランプ米大統領が対面し、両国の同盟強化や経済協力をめぐって意見を交わしました。しかし報道によれば、交渉は終盤まで合意点を見いだせず、「成果のない会談」となったことが明らかになっています。

首脳会談の場では、両国の経済政策の対立や安全保障上のジレンマが浮き彫りとなり、過度な期待が失望感へと変わりました。特に、韓国側が提案した大型投資や自動車市場アクセス拡大に対して、アメリカ側は柔軟姿勢を見せつつも決定的な合意には至りませんでした。

  • 米韓自動車市場のアクセス改善交渉も難航
  • 安全保障での協調は打ち出されたが、新たな合意事項はなく、関係深化を印象付けることはできず
  • メディアや専門家からは「双方にとってダメージ」とする意見が多く上がった

首脳会談の不調は、今後の米韓関係やAPEC内での立場にも影響を及ぼすとの見方が強く、外交・経済両面で課題を残すことになりました。

怒りと抗議の渦――慶州で反トランプデモが拡大

国際会議の裏で、慶州市内は多様な立場の市民による大規模な集会が繰り広げられました。中でも注目されたのが、「反トランプデモ」の拡大です。

29日、慶州全域では進歩系団体を中心として28件もの集会が届け出られ、大規模な反米デモと親米デモが衝突する場面もみられました。「2025APEC反対国際民衆行動組織委員会」による集会や、学生団体主導のデモが市内各所で実施され、怒号や抗議の声があがりました。

  • ヒルトン慶州前では学生団体約20人がトランプ大統領を糾弾する集会を決行。
  • 「反トランプ」デモ隊は行事会場へ進入を試み、警察との間で物理的な対立も発生。
  • 警察は各所で100名単位の機動警備を展開し、デモ強制解散に動く場面もあった。
  • 労働者団体も加わり、空港では無期限ストが宣言されるなど緊張が加わった。

デモの主な論点は以下の通りです。

  • 韓国への大型対米投資が「強要」であるとの主張。
  • 自動車産業における米韓交渉、韓国人労働者の米移民当局による拘束問題への怒り。
  • 一部には反中国・反中集会や親米デモも見られ、慶州はまさに「世論のるつぼ」と化した。

慶州博物館周辺でも、「ノートランプ」と叫ぶ50人超のデモ隊が警察統制ラインを越え、直接会談会場周辺に進入を図るなど、かつてない緊迫した状況となりました。韓国国民の多様な感情、言論・表現の自由、そして外交的マナーの間で、現地の空気は張り詰めたものとなっています。

米韓自動車関税引き下げ――一筋の成果と経済への波紋

激しい議論と反対運動の中で、経済交渉の分野では一筋の成果も打ち出されました。米国政府が、韓国製自動車への関税を15%に引き下げる方針を公式発表し、韓国側の宿願だった自動車市場アクセス改善に道筋がつきました。

この関税引き下げにより、韓国から米国への自動車輸出コストが緩和され、現代自動車や起亜自動車など主要メーカーにとってはポジティブな追い風となることが期待されています。昨今の世界的な経済不安、そして対米自動車輸出競争激化という文脈の中で、この合意は韓国経済・雇用にとって大きな安心材料となりました。

  • 自動車業界からは「念願の関税引き下げ、世界市場で新たなビジネスチャンス」と歓迎の声。
  • 一方、国内労組や進歩派市民からは「投資の見返りに過ぎない」と冷ややかな目も。
  • アメリカ側の自動車業界では国外競争圧力への懸念も浮上、賛否が分かれる状況。

なお、この合意は今後の米韓経済交渉にも新たな基準となりえるとされ、両国経済関係の将来像を左右する重要な一手と目されています。

世界を迎える都市・慶州――市民社会の力と外交意識

韓国の伝統と歴史を象徴する慶州が、世界のリーダーを迎える国際都市として注目された今回のAPEC首脳会議。その舞台裏では、市民一人一人の声、多様な立場、複雑な思いが交錯していました。

国際会議主催国としての品格や感受性が問われる中、市民社会の成熟した行動、他者への敬意がより求められる声も高まります。一方で、自由な意見表明の大切さも見逃してはなりません。

韓国社会においては、こうした国際的イベントを通じて、自国が果たすべき役割や多様な国家間関係、そして未来世代への課題が、より強く意識されるタイミングとなりました。慶州を巡る3日間は、韓国の民主主義・市民社会の厚みと外交の現実、その双方を映し出しています。

まとめ――慶州APEC首脳会議の意義と今後

  • 歴史都市・慶州が国際外交の最前線となり、諸外国首脳と市民社会が“出会う”場となった。
  • 韓米首脳会談は合意点を見いだせず、「成果なし」との評価だが、一方で自動車関税引き下げという具体的経済成果も打ち出された。
  • 反トランプデモや多様な市民行動は、韓国国内の複雑な米国観、および表現の自由の現実を鮮明に示した。
  • 今後は経済・外交両面で新たな課題解決と市民社会のさらなる成熟が求められる。

未来に向かって、韓国・慶州がどのような“国際都市”へと成長していくのか――。その答えは、今回のAPEC会議同様、市民の声一つ一つと国の舵取りが作り上げていくことでしょう。

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