デリー首都圏の大気汚染――解決困難な「邪悪な問題」と大胆な対策の必要性

インドの首都デリーは、毎年秋から冬にかけて深刻な大気汚染に悩まされてきました。今年も例年通り大気質指数(AQI)が急上昇し、「危険」や「深刻」といったレベルに達しています。風速の低下やスモッグの発生、そして市民の健康へ直接的な影響が懸念される今、現状の分析や具体的な対策、現地の抱える課題について、やさしい言葉で詳しく解説します。

デリーの空気:複雑で「邪悪な問題」

デリーの大気汚染は、単なる環境政策だけでは解決できない「複雑で厄介な問題(wicked problem)」として世界的にも知られています。主な原因には次のようなものがあります。

  • 藁の野焼きによる煙の発生:近隣農村で収穫後の藁焼却が頻繁に行われ、PM2.5など微粒子の大気への放出が著しい。
  • 自動車や工業の排出ガス:増加する車両、産業活動による有害物質の排出。
  • 都市開発や建設現場の粉じん:無防備な建設活動から発生する粉じん。
  • 風速低下と気温逆転現象:冬季は風が弱まり、地上付近の冷気が汚染物質を閉じ込め、スモッグが発生しやすくなります。

こうした複数の原因が複雑に絡み合い、単一の解決策では根本的な改善が困難な状況です。そのため、政府や市民、産業界が共同で取り組む総合的かつ大胆な解決策が求められています。

最新の大気質指数(AQI)と現地の状況

2025年11月中旬、デリー首都圏の空気質指数(AQI)は「危険」レベルへと急激に悪化しました。リアルタイムのデータによると、下記の数値が観測されています。

  • 2025年11月15日 最高値:AQI 588(極めて危険)
  • 同日 最低値:AQI 204(深刻)
  • 多くの測定地点でAQIが300〜400超の「危険」水準

この状況では、目や喉への刺激、咳、呼吸器疾患の悪化、心疾患リスクの増加さえも問題視されています。特に高齢者や幼児、基礎疾患を抱える人々へのリスクは極めて高い状態です。

政府による段階的対策「GRAP」と最新の施策

デリー首都圏では、大気質管理局(CAQM)が「行動計画(GRAP)」を導入し、AQIの状況に応じて段階的対策を実施しています。2025年10月19日にはAQI悪化をうけて、GRAPのステージ2(AQI301~400)の措置が即時適用されました。

  • 建設現場などへの防じん対策強化
  • ディーゼル発電機の規制強化
  • 私有車利用制限・駐車料金の大幅値上げ
  • CNGバス・電動バス・地下鉄の本数増加
  • 粉じんの多い道路での散水実施

さらに今後AQIがさらに悪化しステージ3が適用となった場合、公共施設や医療施設以外の建設工事は原則操業停止となり、対象車両の走行規制も導入されます。

最新の対策が直面している課題

2025年11月には、「散水によるAQI改善のためのデータ隠蔽」といった指摘も議論されています。つまり、道路への水撒きが汚染物質を一時的に地上に沈降させ、AQI計測値を下げる方法として使われているものの、これが本質的な大気浄化にはなっていないという批判が生まれています。また、測定データの公開遅延や不透明性について、インド最高裁(SC)が詳細説明を求める動きも報道されています。

デリー住民の日常と健康被害

深刻なスモッグが立ち込める中、デリーの住民は日々下記のような影響を受けています。

  • 外出時のマスク着用義務化
  • 学校や幼稚園の休校措置
  • 病院への呼吸器疾患患者や救急搬送患者の急増
  • 屋外活動の自粛要請

とくにPM2.5・PM10など微小粒子が多いため、長期間の暴露による慢性疾患のリスクが繰り返し指摘されています。

なぜデリーの大気汚染は毎年悪化するのか

根本的な原因の一つは、季節的・気象的影響です。10月から翌2月まで気温が低下すると、汚染物質が地表付近に停滞します。周囲農村での藁焼却や都心の車両増加と重なり、デリーは世界的に汚染レベルの高い都市とされています。

また、デリーの都市機能や経済の急速な発展は、交通量とエネルギー消費の増加をもたらし、大気浄化のペースを大きく上回る形で排出量が増加し続けているのが現状です。

長期的な解決に向けて必要なこと

政府や関係機関は、以下のような長期対策の検討・導入を進めています。

  • 大気浄化技術、再生可能エネルギー車両導入の拡大
  • 都市の緑地化促進と新たな都市開発規制
  • 農村での藁焼却禁止と収穫廃棄物の再利用支援
  • 排出量のモニタリングとデータの透明公開
  • 市民啓発と健康対策の常時実施

まとめ:勇気ある政策と市民の協力で「邪悪な問題」に挑む

デリーの大気汚染は短期的、一時的対策だけでなく、社会全体が長期的な視点を持ち協力して取り組む必要があります。政府の規制、産業界の技術革新、市民のライフスタイルの変化、そして都市と農村の一体的な対策が揃ってこそ、空気の「邪悪な問題」に風穴を開けることができるでしょう。

今後も最新情報や状況の変化を注視しながら、デリー、市民、全世界が取り組むべき課題として、本記事ではニュースと背景をやさしく、丁寧に解説しました。

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