東京都内で0歳男児が麻疹に感染 台東区役所利用歴も 都が注意呼びかけ
東京都内で、海外渡航歴のある0歳の男の子が麻疹(はしか)に感染していたことが明らかになりました。
男の子はベトナムへの渡航歴があり、海外から旅客機で日本へ入国したあと、台東区役所を利用していたことが確認されています。
都内では、今年の麻疹感染者数がすでに昨年の3倍を超えていることから、東京都や台東区は、ワクチン接種や早めの受診など、住民に対して強い注意を呼びかけています。
0歳男児の症状と行動歴
東京都と台東区の発表などによると、この0歳の男の子は、以下のような経過をたどっています。
- 11月28日頃:発熱や咳、鼻水などの症状が出現
- その後:体調不良が続き、自宅などで経過を見ていたとみられる
- 12月1日:海外(ベトナム方面)から日本へ入国
- 12月2日 午後2時~5時頃:台東区役所を利用。不特定多数の来庁者や職員と接触した可能性
- 12月5日:医療機関を受診し、検査の結果麻疹(はしか)と診断
- 12月9日:台東区が「区内で麻疹患者が発生した」と公表
男の子は、麻疹ワクチンの接種を受けていませんでした。 しかし、日本の定期接種制度では、麻疹・風疹混合ワクチン(MRワクチン)の第1期は1歳から2歳未満とされており、0歳児は原則として対象年齢に達していません。 そのため、「接種を怠っていた」というよりも、制度上まだ接種のタイミングではなかった可能性が高いとされています。
台東区役所で150人の職員に健康観察
問題となっているのは、男の子が感染力の高い時期に台東区役所を訪れていたことです。
台東区によると、男の子は12月2日の午後2時から5時頃まで区役所に滞在しており、この間に対応した区の職員は約150人に上るとみられています。
区は、この職員らについて健康観察を実施しており、発熱や発疹など麻疹を疑う症状が出ないか注意深く見守っています。 同じ時間帯に区役所を訪れていた住民などに対しても、体調の変化に注意するよう呼びかけを行っています。
東京都も、男の子の行動歴について「不特定多数の人が利用する施設を利用していた」とし、詳細を公表したうえで、該当時間帯にその場に居合わせた可能性のある人は、発熱や発疹、咳、鼻水、目の充血などの症状が出た場合には、必ず事前に医療機関へ連絡するように求めています。
都内の麻疹患者は昨年の3倍超 背景に海外での流行
東京都によると、今年、都内で報告された麻疹患者の数は、すでに昨年の3倍を超えています。
今回の0歳男児のように、海外の流行地域から持ち込まれる症例が相次いでいることが一因とされています。 世界的には、ヨーロッパやアジア、北米など各地で麻疹の大規模な流行(アウトブレイク)が報告されており、海外で感染して日本に帰国したあとに発症するケースが増えています。
東京都は、ベトナムを含む麻疹の流行国・地域への渡航前に、ワクチン接種歴を確認することが重要だとしています。
麻疹(はしか)とはどんな病気か
麻疹(はしか)は、麻疹ウイルスによって起こる感染症で、非常に感染力が強いことが特徴です。
- 原因ウイルス:麻疹ウイルス
- 潜伏期間:おおむね10~12日
- 主な症状:発熱、発疹、強い咳、鼻水、目の充血、口の中に出る白い斑点(コプリック斑)など
- 合併症:肺炎や脳炎など重い合併症を起こすこともある
初めは風邪に似た症状ではじまり、数日後に一旦熱が下がったように見えることがありますが、その後、再び39度以上の高熱と全身の発疹が出るのが典型的な経過とされています。
麻疹は、空気感染・飛沫感染・接触感染によって広がります。 特に空気感染を起こすため、「患者がいた部屋に、しばらくたってから入った人でも感染する可能性がある」と言われるほど、感染力が極めて強い病気です。
0歳児がワクチン未接種である理由
今回のニュースで、「なぜ0歳の男の子がワクチンを受けていなかったのか」と疑問に思った方も多いかもしれません。
日本の定期予防接種では、麻疹・風疹混合ワクチン(MRワクチン)の接種時期は次のように決められています。
- 第1期:1歳の誕生日から2歳未満
- 第2期:小学校就学前の1年間
このため、0歳児は原則として定期接種の対象外であり、「接種していなかったから悪い」というわけではありません。 むしろ、多くの家庭では「1歳になったらMRワクチンを受ける」ことを予定している途中の時期にあたります。
ただし、麻疹が流行している地域に長期滞在する予定がある場合や、地域の流行状況などによっては、医師の判断で生後6か月以降に任意接種を検討することもあります。 いずれにしても、具体的な接種のタイミングについては、かかりつけ医とよく相談することが大切です。
海外旅行前に確認したい「ワクチン接種」
東京都は、「年末年始に海外旅行を予定している人は、出発前に麻疹の予防接種歴を確認してほしい」と強く呼びかけています。
麻疹は、ワクチンで予防可能な病気です。
- 定期接種の対象年齢(1歳~2歳未満、小学校就学前)で、まだ接種していない人は、早めに接種を受けることがすすめられています。
- 大人でも、自分のワクチン歴があいまいな場合は、かかりつけ医に相談し、抗体検査や追加接種(任意)の必要性を確認することが推奨されています。
- 特に、医療従事者や保育・教育関係者、妊娠を希望する人などは、麻疹に対する免疫を持っているかどうかがとても重要とされています。
麻疹は、手洗いやマスクだけでは十分に防ぎきれません。 最も効果的な対策は、麻疹を含むワクチン(MRワクチンなど)を、決められた回数きちんと受けて免疫をつけておくことです。
疑わしい症状が出たときの受診のしかた
東京都や台東区は、今回の症例を踏まえ、都民に対して次のような対応を呼びかけています。
- 発熱、発疹、咳、鼻水、目の充血など麻疹を疑う症状が出た場合
- 最近海外に渡航していた場合、あるいは麻疹患者と接触した可能性がある場合
このようなときは、次の点に注意して受診することが求められています。
- いきなり医療機関を受診せず、必ず事前に電話で連絡し、「麻疹の疑いがある」ことを伝える
- 受診の際は、公共交通機関の利用を控える
- 医療機関からの指示に従い、マスクの着用など周囲への感染対策を心がける
これは、医療機関の待合室などで、ほかの患者さんや職員に感染が広がらないようにするためです。
家庭でできる対策と心構え
今回のように、まだワクチンを受けられない0歳の赤ちゃんが感染したニュースは、多くの保護者にとって大きな不安につながります。
家庭でできる主な対策としては、次のようなものが挙げられます。
- 家族がワクチン接種を完了しておく:赤ちゃん自身を守るためにも、同居する家族が麻疹の免疫をしっかり持っておくことが大切です。
- 流行地域への渡航を慎重に検討:小さな子どもを連れて海外に行く場合は、事前に小児科や渡航外来で相談し、必要なワクチンや対策を確認しましょう。
- 体調不良時は無理をしない:発熱や発疹が出ているときに人混みに出かけると、自分も周囲もリスクが高まります。
一方で、「怖いから外出は一切しない」「海外にはもう行かない」といった極端な対応だけが正解というわけではありません。大切なのは、正しい知識を持ち、事前にできる準備をしておくことです。
今回の事例から見える教訓
今回の0歳男児の麻疹感染事例は、いくつかの重要なポイントを私たちに伝えています。
- 麻疹は今も身近な感染症である:都内の患者数が昨年の3倍を超えていることからも、決して「過去の病気」ではありません。
- 海外から持ち込まれるリスク:世界的な流行の影響を、日本も避けて通ることはできません。
- ワクチンで防げる部分が大きい:定期接種をきちんと受けることが、自分と周りの人を守ることにつながります。
- 0歳児のリスク:ワクチン未接種の0歳児は、どうしても守りが弱くなりがちです。そのぶん、周囲の大人がしっかりと対策をする必要があります。
台東区役所を利用していた時間帯に居合わせた人の中には、不安を感じている方も多いと思われます。区や東京都は、今後も健康観察や情報提供を続けるとしています。
私たち一人ひとりができることは、ワクチン接種歴の確認と、体調の変化に気をつけること、そして疑わしい症状が出たときの適切な受診です。特に、小さな子どもや赤ちゃんがいる家庭では、かかりつけ医と相談しながら、できる準備を少しずつ進めていくことが安心につながります。



