絶海の孤島・青ヶ島――日本最少自治体が紡ぐリアルな日常と上陸困難の現実

青ヶ島とは――地理・歴史の概観

青ヶ島は東京都の伊豆諸島南部に浮かぶ特異な火山島です。本州から約360km離れ、最も近い八丈島からも南へ約70km、周囲を太平洋に囲まれた「絶海の孤島」として知られています。島全体が東京都青ヶ島村に属し、日本の市町村でもっとも人口が少ない自治体です。令和6年10月1日現在の人口は161人、世帯数は114世帯にのぼります。

歴史を紐解くと、青ヶ島が文献に現れるのは15世紀以降。記録には遭難や海難の話が多く、当時から上陸や往来の困難さが浮き彫りになっています。天明5(1785)年には大噴火によって島民全員が八丈島へ避難し、無人島となった時期もありました。その後、1835年には還住が果たされ人口240人ほどに。明治には最大人口約754人を記録するも、徐々に人口流出が進みました

自治体としての青ヶ島村――日本最少の現場

青ヶ島村は日本の自治体としても特異な地位を占めています。東京都の島嶼部にあり、他の町村のように郡には所属せず東京都八丈支庁の管轄です。村長は佐々木宏氏で、自治体職員は全部門合わせて28人(令和6年10月時点)となっています

  • 人口:161人(令和6年10月1日現在)
  • 世帯数:114世帯
  • 面積:約5.96平方キロメートル
  • 人口密度:約35.8人/㎢(H17国勢調査)
  • 村章は火口カルデラと内輪山を表現
  • 特産品は青酎(焼酎)、オオタニワタリ、ひんぎゃの塩、島だれなど

村の花はタメトモユリ、村の鳥は烏鳩(黒鳩)、村の木は椨の木(タブノキ)が指定されています。観光行事として「牛祭り(8月)」が開催され、名所・旧跡には池之沢や大凸部、大里神社、東台所神社などが挙げられます

「海上のマチュピチュ」――独特な暮らしと地形

青ヶ島は二重カルデラという特殊な地形を持ち、高地の外輪山側に住民が集中して暮らしています。ほぼ全住民が標高100メートル以上の高台から海を望み、「海上のマチュピチュ」「東洋のマチュピチュ」などとも称されます

教育環境も特徴的で、島内には青ヶ島小中学校のみが存在。しかし、高校以上の教育機関はないため、進学のタイミングで多くの若者が島を離れる現実があります。これも人口減少の一因となっています

上陸困難が生む孤島のリアル

青ヶ島は「日本最少自治体」と言われる一方で、極めて上陸が難しい島としても知られています。交通の要所となる八丈島からの定期船やヘリコプターは稀にしか運航されず、天候や海域の状況が悪いと何日も足止めになることも珍しくありません。島全体が「本土と隔絶された日常」を保っているともいえます

  • 強風や高波による欠航が頻発
  • 島の周囲は急崖が多く、大型船舶の入港が難しい
  • 観光客の来島もチャレンジング

これらの上陸困難さは、島民の生活物資の流通、医療、教育、災害対応など、自治体運営の隅々に大きく影響しています。

人口減少と自治体機能のバランス

青ヶ島村は、人口減少が慢性的な課題となっています。世帯構成も高齢化し、65歳以上が納付する介護保険の第1号保険料は全国トップの月額9,800円(全国平均は6,014円)という現状もあります。これにより、福祉行政や医療体制の維持が難しく、将来的な自治体機能の存続にも課題が突き付けられています。

青ヶ島の産業と特産品――青酎と伝統食文化

青ヶ島の名産品として青酎(あおちゅう)が挙げられます。この焼酎は島独自の伝統製法で作られ、杜氏ごとに個性が異なるのが特徴です。しかし、製造する杜氏の高齢化や後継者不足により、「現存しない全国唯一の焼酎」が生まれるなど、地元文化の継承にも困難が生まれています。その他、オオタニワタリや島だれ、ひんぎゃの塩、切り葉なども特産品です

観光と世界的な注目――その背景

青ヶ島は近年、国内外からも注目を浴びています。2014年に米国の観光保護NGO「One Green Planet」が「死ぬまでに見るべき世界の絶景13」に選出、2016年にはスミソニアン博物館が「活火山内に眠る日本の街」と紹介したことで、海外メディアや観光客の関心が高まりました。

  • 絶海の孤島・火山カルデラの圧倒的景観
  • 限界集落ならではの文化・生活体験
  • 訪問自体がアドベンチャー

一方、前述のような上陸困難さのため、観光の本格的な振興や受け入れ体制の強化は自治体として大きな課題の一つです。

青ヶ島村の日常――小さなコミュニティの絆

人口161人という小さなコミュニティだからこそ、住民同士の絆は深く、自治体運営も円滑に進められています。行事や生活の中でお互いの存在が近く、助け合いの精神が根付いています。その一方で、進学や仕事のために過疎化・高齢化が進み、村の未来をどう描くかという問いが常に突き付けられています。

今後の課題と展望――小さな自治体の生き残り策

青ヶ島村は、人口減少や上陸困難といった課題を抱える中、「地域資源・文化継承」「教育・福祉」「観光振興」など多方面で生き残り策を模索しています。若者や新たな移住者の受け入れ、特産品のブランド化、ICTによる地域活性化などが期待されていますが、狭いコミュニティゆえの課題も多く存在します。

青ヶ島は「日本最少自治体」として、今なお絶海の孤島でありながら、島民が力強く生きるリアルな日常が紡がれています。上陸困難という現実と向き合いつつ、未来への希望を見出そうとする姿が、国内外から注目を集め続けています。

参考元