京都大学が膵臓がんの悪性化メカニズムを解明、既存薬での抑制に期待

膵臓がんは発見が難しく、他の臓器への転移が早いことから非常に治療が困難ながんとして知られています。全体の5年生存率は約8.5%と極めて低く、国内外で早期発見と効果的な治療法の開発が急務となっています。

膵臓がん悪性化の仕組みの新たな解明

2025年6月、京都大学の研究チームは膵臓がんが悪性化する分子メカニズムの一端を解明したと発表しました。この研究では、悪性度の高い膵臓がんで特に低分化型や未分化型に多く認められる、ある特定の遺伝子の発現量の低下ががんの悪性化に深く関わっていることが判明しました。

具体的には、クロマチンリモデリング因子である「PBRM1」遺伝子の発現量が低い膵臓がんは、がん細胞の悪性化と転移能が高まることがわかりました。PBRM1はがん細胞の中で「ビメンチン(Vimentin)」の発現を調節しており、ビメンチンは細胞の形態変化や移動に関わるたんぱく質として知られています。PBRM1の低下によりビメンチンの発現が促進され、これががんの未分化化・悪性化を引き起こす一因と考えられています。

この研究成果は、2025年6月2日に国際学術誌「Journal of Clinical Investigation」のオンライン版に掲載されています。

既存薬による悪性化抑制の可能性

さらに注目すべきは、このメカニズムに基づいて既存の薬剤で膵臓がんの悪性化を抑制できる可能性が示されたことです。まだ詳しい薬剤名の公表はありませんが、研究グループはPBRM1が制御するビメンチンの働きを抑える薬剤の活用を検討しており、今後の治療法開発に期待が高まっています。

膵臓がん患者の治療現場では、従来から高分化型がんに対しては比較的抗がん剤が効果を示しますが、低分化・未分化型がんは非常に抵抗性が強く、根治は難しい状況でした。このため、本研究の成果は悪性度の高い膵臓がん患者に対しても効果的な治療の道を開く可能性がある重要な一歩となっています。

膵臓がんの「硬さ」と悪性化の関係

一方、北海道大学などの別の研究グループは、膵臓がん細胞の周囲の組織の「硬さ」ががんの悪性化に大きく関与することを発見しました。がん細胞は硬い環境を認識すると「ATF5」という分子の活動を強化し、増殖を促進するメカニズムがあるそうです。

このATF5の働きを抑えることで、膵臓がんや肺がん細胞の増殖を抑えられる可能性が示され、こちらも既存の分子標的治療薬開発に活かせる手掛かりとして期待されています。

膵臓がん治療の最前線を紹介するテレビ番組の放送

2025年7月27日夜11時からは、人気ドキュメンタリー番組『情熱大陸』で富山大学附属病院の膵臓がん治療チームが紹介されます。最先端の治療や研究に取り組む専門医やチームの様子が放送される予定で、膵臓がん治療の実際を知る貴重な機会となるでしょう。

今後の展望と患者への期待

膵臓がんは依然として厳しい病気ですが、京都大学と北海道大学などのトップ研究機関による悪性化メカニズムの解明や既存薬の応用による治療法開発など、多方面からのアプローチが進んでいます。

これらの成果が臨床に結びつけば、将来的に悪性度の高い膵臓がん患者の治療成績が大きく改善し、生存率向上が期待されます。一般の方々にも早期発見や検診の重要性が改めて広がることで、膵臓がんへの備えが強まっていくことでしょう。

今後も膵臓がん研究の最新情報に注目し、科学的根拠に基づいた正しい知識を身につけることが大切です。

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