キプロス「猫の島」に吹き荒れる野良猫急増—政府が危機感から大規模対策
地中海の東部に位置する美しい島国「キプロス」。観光旅行者にとても人気のこの国は、別名「猫の島」とも呼ばれています。
町のあちらこちらで猫とすれ違うことができ、異国情緒あふれる石畳の街中や、歴史ある遺跡の周辺にも猫が自由きままに過ごしています。
しかし今、この「猫の島」キプロスで、野良猫の異常な急増が深刻な社会問題となっています。
人口約100万人と“同数”の猫たち
キプロスは四国の半分ほどの面積の小さな島国です。そのキプロスで現在、人口約100万人にほぼ並ぶ数、すなわち約100万匹もの猫が生息しているとみられています。
この事実は「猫の楽園」と呼ばれる一方で、野良猫の増加がもたらす環境・衛生面、動物福祉の危機として地元社会を揺るがしています。
猫は観光の目玉、しかし…
—島国・キプロスならではの背景
猫の多い町並みは、毎年数百万人の観光客にとって大きな魅力のひとつです。
キプロスには美と豊穣の女神アフロディーテ誕生伝説が残るペトラ・トゥ・ロミウ海岸や、世界遺産として登録されたパフォスなど、古代と自然が共存しています。
歴史的にも、猫は“ネズミ退治”の守り神として古くから大切にされてきました。こうした伝統から、観光資源や住民との共生の象徴として猫が文化的にも根付いていたのです。
- 観光地の路地やカフェ、公園、遺跡、海岸線など、至る所に猫が見つかる光景は観光写真でもよく取り上げられる。
- 一般市民だけでなく地元の飲食店や小売店も、猫の存在を歓迎し、餌場やエサ箱、小屋を自発的に設けてきた。
深刻化する急増問題—生態系・衛生・福祉への影響
一方で、ここ1〜2年ほどで猫の個体数が予想を超えて爆発的に増加。十分な管理ができない状況が続き、「可愛い観光資源」の域を超えて社会問題に発展しています。
- 餌不足や病気の蔓延、交通事故などで野外で弱っていく猫も増加中。
- 猫の排泄物やゴミの散乱が都市の衛生環境悪化に繋がり、苦情が絶えない。
- 猫が増えすぎることで島の生態系そのものに影響(鳥や小型生物への捕食圧上昇)が出ている。
- 保護施設や自治体による対応が限界に達し、「保護しきれない猫」が路上にあふれるケースも。
不妊・去勢手術プログラムの現状と課題
このような状況に対し、キプロス政府は以前から「野良猫の不妊・去勢手術プログラム」を実施しています。しかし、これまでの実績は年間2000匹ほどにとどまり、急増する猫の全体数に全く追いついていませんでした。
- 以前の年間予算は約10万ユーロ(日本円で約1760万円相当)。
- 実施件数が著しく不足し、効果的な人口制御には及ばなかった。
- 保護団体やボランティアによる自費活動も活発だが、個人努力では限界。
重大な決断、「世界動物の日」に発表—予算3倍へ
事態を重く見たキプロス政府は、2025年10月4日の「世界動物の日」に合わせて、不妊・去勢手術のための年間予算を3倍に増額する新政策を発表しました。
これまでの約10万ユーロ(1760万円相当)から、約30万ユーロ(日本円で約5300万円)に拡大されます。
- 予算増額によって、より多くの野良猫に対し不妊・去勢手術を実施し、今後の個体数急増の抑制を目指す。
- 政府関係者は「正確な猫の数を把握し、計画的に管理・支援することが重要」とコメント。
- 新予算により、ボランティア団体・獣医師と連携を強め、保護シェルター、餌場管理、医療支援など包括的な福祉強化策も検討中。
課題は山積、しかし希望も—地元社会・観光客が共に目指す「共生」
もちろん、予算の拡充だけで根本的な問題解決は難しいとする意見もあります。一度増えすぎた猫を制御するには中長期戦略が不可欠で、
住民・自治体・民間の連携、知識浸透、そして観光客の理解も必要です。
- 一部では「観光客による無責任な餌やり」が逆に増加を助長したケースも。
- 教育プログラムや、責任ある餌やりの啓蒙活動も今後重要と考えられている。
- 新たに計画される「個体管理システム」や官民パートナーシップに期待。
大切なのは、「共生する島の未来」というビジョンのもと、観光資源=猫の幸せと地域社会のバランスを探ることです。
まとめ—世界遺産の島・キプロスで始まった“猫と人間の新たな挑戦”
急増する猫と人間の共生をめぐり、世界中に注目されているキプロス。
政府や保護団体、住民、観光客が協力し、文化や観光の象徴でもある猫が、これからも健やかに暮らせる環境づくりが模索されています。
衛生や生態系への配慮を重ねながら、「猫の島」らしい温かな景色が未来へと続くことを、多くの人が願っています。