地下アイドル・きららさん――どん底からの“しっくりくる生きかた”

2025年8月30日深夜、「ザ・ノンフィクション」30周年記念特別限定配信の第2弾として、地下アイドル・きららさんの壮絶な人生を追いかけたドキュメンタリーが届けられました。風呂もなく、行水で済ませる日々。食事は鳥のエサ用のくず米に頼り、借金に苦しみながら “自分らしく” 生きることを模索し続けるきららさん。その姿に密着した取材ディレクターが感じた理不尽さ、葛藤、そして彼女自身の“先の物語”への意欲まで、優しい目線で丁寧に描き出しました。

なぜ「くず米」を食べるのか――飢餓と誇りの狭間で

きららさんが自ら選んだ地下アイドルという仕事は、華やかさとは裏腹に、経済的な安定とは無縁です。安いギャラはすぐに生活費や借金返済に消えていきます。住まいに風呂はなく、時には近くの公園や友人宅で行水をして済ませます。

食費を極限まで抑えなければならない日々。そんな中、きららさんが頼ったのが「くず米」でした。「くず米」とは精米工場などで発生する砕けた米粒で、市販用には向かず鳥のエサとして流通する米です。これを安く手に入れ、空腹をしのぎながらも、「これが自分らしい生き方なのか」と自問自答を繰り返していました。

「死にたい」と「生きたい」のあいだで――自殺未遂の果てに

何度もどん底を味わってきたきららさん。そのなかには、「死にたい」と思いつめ、手首を切って自殺未遂を図った過去もありました。「あの時、本当に死にたかったら簡単だったはず。でも思いとどまった。ひょっとすると、本当は生きたいんじゃないかと思った」と、カメラの前で語る姿には、視聴者の胸を打つリアリティがありました

自分でタオルを巻いて処置をしながら、「なぜ自分で手当てなんかしてるんだろう」と自問する。そして「本当に死にたかったら、もう一度やればいいのにできなかった」と語るきららさんの言葉からは、彼女の中の生への執着と諦めきれない想いが読み取れます。

ライブハウスが与えてくれた「もう一つの天気」

転機が訪れたのは2年前、友人の誘いで小さなライブハウスに通うようになったころです。ファンとの交流、舞台に立つ高揚感、そして“応援してくれる誰かがいる”という事実――それらが、きららさんの心に少しずつ希望を灯しました。

予約すら取らずにふらりと出演することも。「完璧な自分である必要はない。今のこの自分で、しっくりくる生き方を探してみよう」。そんな決意が芽生えました。

理不尽との出会い――取材Dが突き動かされた理由

今回の『ザ・ノンフィクション』限定配信を手がけたディレクターが注目したのは、マスメディアがあまり取り上げてこなかった“地下”という生き方に漂う理不尽さと、それを「当たり前」として受け入れる社会の空気でした。

  • 華やかに見えるが、地下アイドルのほとんどは生活していくのがやっと。
  • ファンの応援もあるが、現実はきわめてシビア。
  • 自己責任論に押しつぶされそうになりながらも、どこかで助けを求めている。

きららさんが発する「もう少しだけこの世界で生きてみたい」という言葉が、ディレクターの胸を捉えました。「なぜ、ここまで追いつめられなければならないのか?」――その問いに、取材班もカメラも答えを見つけることはできませんでした。しかし、視聴者にその問いを突きつけるのが本作の重要な意味だったのです。

“しっくりくる生きかた”とは何か?――番組が伝えたかったこと

今回の特別配信は、『ザ・ノンフィクション』30周年の記念企画第2弾。「しっくりくる生きかた」という副題には、多くの障害や逆風にもかかわらず、自分を偽らずに“自分のまま”で生きていきたいというきららさんの願いが込められています

  • 「普通」や「幸せ」というものさしに合わせず、自分の価値観で生きる。
  • 弱さを見せてもいい。「つらい」「苦しい」と言ってもいい。
  • それでも「自分らしく」前に進むことが許される社会であれ、と願う。

制作サイドによれば、「この作品が、いましんどい思いをしている誰かの“生きていく理由”になれたら」とのことです。

“先の物語へ”――きららさんのこれから

取材の最後、きららさんは「もう少しだけやってみようと思う。いつか、“こんな日々もあったな”と振り返られる時が来るように」と微笑んでいました。番組公式サイトや動画配信サービスでは、彼女への応援の声や体験談が寄せられ、同じく困難の中でも生きる誰かにエールを送っています

どんな“底”にあっても、小さな灯りを消さずに立ち上がる――地下アイドル・きららさんの物語は、日々の生活に悩みを抱える誰もにとって、ささやかな勇気の贈り物となるでしょう。

『ザ・ノンフィクション』30周年限定配信の意義

1995年の放送開始から30年、『ザ・ノンフィクション』は、時代と社会の矛盾、そしてその中で生きる個人の“今”を見つめ続けてきました。今回の30周年記念特別限定配信は、その歴史のなかでも特に「いま見届けるべき生」を描いています

  • 社会の片隅で声をあげる人々を、主役に据えて伝える徹底したドキュメント主義。
  • テレビやインターネットを通じて「今」をより広く共有するための配信展開。
  • これからも「しっくりくる生きかた」を模索する人々に密着していく方針。

番組の制作チームは「生きづらさ」を感じているすべての人へ、「人はきっと変われる」「どんな境遇にも意味がある」と伝えたいと語ります。そのために今、現実の物語を“ノンフィクション”として切り取り、世の中へ投げかけることの意義が、より強く求められているのです。

さいごに――あなたにも“灯り”を

「風呂なし」「行水」「くず米」「自殺未遂」――そのすべては決して特別な出来事でも、他人事でもありません。誰もがどこかで傷つき、こぼれ落ちそうになる瞬間を持っています。それでも「生きる」理由を探し、小さな希望を見出して明日へと歩く。その姿が、画面を通じて静かに、しかし確かに私たちの心に届きます。

『ザ・ノンフィクション』の新たな記念作を通し、“しっくりくる生きかた”を、あなた自身の物語として見つけてみてはいかがでしょうか。

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