『じゃあ、あんたが作ってみろよ』原作者が明かす誕生秘話──タイトルに込められた想いと作品の深さ
TBS系列で放送中のドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』が大きな話題を呼んでいます。竹内涼真さんと夏帆さんが主演を務めるこの作品は、原作漫画家・谷口菜津子さんによる同名漫画が原案となっており、現代の家事分担とジェンダー問題を描いたコメディードラマとして多くの視聴者から支持を集めています。今回、原作者の谷口菜津子さんが作品の誕生秘話を明かし、特にタイトルが持つ意味深さについて詳しく語っています。
原作者が明かす「タイトルはかなり悩みました」
週刊女性のインタビューに応じた原作者・谷口菜津子さんは、作品誕生の経緯とタイトル決定の過程について興味深いエピソードを披露しています。「タイトルはかなり悩みました」というその言葉の奥には、この作品に込められた深いメッセージが隠されているのです。
『じゃあ、あんたが作ってみろよ』というタイトルには、単なる料理についての問いかけ以上の意味が込められています。それは、長年「女性が家事をするのが当たり前」という価値観に疑問を投げかけ、その立場を実際に経験してみることの大切さを表現しています。谷口さんがこのタイトル決定に時間をかけたのは、作品全体を象徴する言葉として、最も適切で効果的な表現を求めていたからに他なりません。
ドラマの記録的な成功について、原作者は「ドラマの記録はドラマスタッフの皆様のご尽力の賜物だと思いますので、自分と切り離して本当にすごいことだと思いました!」とコメントしており、謙虚でありながらも作品への強い思いが伝わってきます。
キャラクター・勝男誕生の背景にある時代への違和感
物語の中心となる主人公・海老原勝男は、「料理は女が作って当たり前!」という昭和的な亭主関白思考を持つ男性として描かれています。しかし、なぜ谷口さんはこのようなキャラクターを創造したのでしょうか。その背景には、作者自身が感じた時代の変化への疑問や戸惑いがありました。
谷口さんは、キャラクター創作の動機について以下のように語っています。「彼女の鮎美とずっと2人きりの世界を築いてきたことで、いざ鮎美と離れたとき、周りの価値観の変化についていけなかった勝男のように、自分自身も時代の変化に少し鈍感になり戸惑うことが増えてきました。そんな変化を受け止めて成長できる、目標のようになっていってほしいなと思いながら描いています」と述べています。
つまり、勝男というキャラクターは、作者が自分自身の経験や葛藤を投影して創造されたものなのです。彼が時代の変化に戸惑い、やがて自分自身を見つめ直し、少しずつ価値観を変えていく過程は、現代社会で多くの人々が経験する成長の道筋を象徴しています。
「当たり前」の揺らぎを描く意欲的なドラマ化
このたび、ドラマ化にあたって脚本を手掛けた劇作家・安藤奎さんは、著名な戯曲賞である岸田國士戯曲賞の受賞経歴を持つ実力派です。安藤さんにとってこのドラマは初の連続ドラマ脚本であり、大きなチャレンジとなっています。
戯曲の世界で培われた表現技法や人間ドラマへの深い理解が、原作漫画の持つ意味を的確に映像化することに成功しているようです。作品全体を通じて描かれているのは、「当たり前」とされてきた価値観が、実は揺らぎやすく、個人の経験や時代とともに変わっていくものであるという現代的なテーマです。
料理を通じて家事分担の不平等さが浮き彫りになり、その経験の中で登場人物たちが自分たちの関係性を再構築していく。この地道で誠実なドラマ描写が、視聴者の心に深く響いているのでしょう。
主演俳優たちの演技が生み出す新たな魅力
竹内涼真さん演じる勝男は、昭和的な頑固さと現代への戸惑いを見事に表現しており、SNSでも「昭和気質すぎてツッコミ止まらない。でもどこか憎めない勝男、絶妙なキャラだよね」といった好意的なコメントが多数寄せられています。
視聴者たちは、勝男が自ら変わろうとしていく素直さに共感し、その成長過程を温かく見守っているようです。一方、夏帆さん演じるヒロイン・山岸鮎美は、献身的でありながらも自分らしさを見失っていた女性が、やがて自分自身と向き合い、価値観を変えていく過程を繊細に演じています。
SNSでの拡散とミーム化される言葉
興味深いことに、「じゃあ、あんたが作ってみろよ」というフレーズは、SNS上で様々な派生表現へと広がっています。例えば、「じゃあ、あんたが片付けてみろよ」「じゃあ、あんたが決めてみろよ」といった家事や意思決定に関連する場面で使われるようになり、ミーム的な広がりを見せているのです。
この言葉が拡散しやすい理由は、その使いやすさと汎用性にあります。タイトルフレーズが端的に「気づき」を表現しており、日常会話や投稿で自然と使える形になっているためです。作品を見ていない人であっても、このフレーズから漫画やドラマのテーマを想像でき、それぞれの経験に重ねることで、作品の深さをより広く共有する土壌が生まれています。
現代の視聴者に響く普遍的なテーマ
『じゃあ、あんたが作ってみろよ』が多くの人々の心を掴んでいる理由は、その題材が決して他人事ではないからです。多くの家庭で家事分担について悩み、パートナーとの価値観の違いに戸惑う人々が、自分たちの状況を作品に重ねて見つめ直すきっかけとなっているのです。
料理をしたことがない人が、このドラマを見た後に「彼・彼女が毎日作ってくれてるなら、今日は私が作ってみよう」という気持ちになったという声も聞かれます。つまり、この作品は単なるエンターテインメントではなく、人間関係を構築し直すきっかけを提供する社会的なメッセージを含んでいるのです。
原作者の谷口菜津子さんが「タイトルはかなり悩みました」と述べたのも、このような多層的な意味を、短く、シンプルなフレーズに凝縮させることの難しさと重要性を理解していたからなのでしょう。
作品を通じて生まれる新たな対話
読書会や視聴会形式で、参加者それぞれの「昭和男・現代女性」という視点を出し合うことで、新たな発見が生まれるという指摘もあります。つまり、『じゃあ、あんたが作ってみろよ』は、個人の視聴体験を超えて、社会全体での対話を促す作品として機能しているのです。
このドラマが直面させるのは、私たち一人ひとりが無意識のうちに受け継いできた「当たり前」という価値観です。それが本当に当たり前なのか、その背後には何があるのか、そして時代とともにそれは変わるべきものなのかを問いかけています。
原作漫画の誕生から、脚本家による創意工夫、そして主演俳優たちの熱演に至るまで、関わる全ての者が、このテーマの大切さを理解し、丁寧に作品を構築してきたことが、視聴者の心を動かす原動力となっているのでしょう。今後も『じゃあ、あんたが作ってみろよ』がどのような広がりを見せていくのか、注目が集まっています。



