芸能人の発症でも注目高まる「帯状疱疹ワクチン」――いま知っておきたい予防と最新動向
ここ数年、帯状疱疹を発症した芸能人のニュースが相次ぎ、「あの病気って何?」「自分も大丈夫かな?」と気になっている方が増えています。激しい痛みだけでなく、後遺症として長く残る神経痛が大きな問題になることから、中高年を中心に大きな不安が広がっています。
こうした中で、2025年度から国の制度として帯状疱疹ワクチンの定期接種が始まり、各地の医師会やメディアでも特集が組まれるなど、いま大きな注目を集めています。
本記事では、
- 帯状疱疹とはどんな病気か
- なぜ「後遺症」が怖いと言われるのか
- どんなワクチンがあるのか、その効果と違い
- 2025年度から始まった定期接種制度のポイント
- 日常生活でできる予防と、ワクチンを検討するタイミング
といった点を、最新の情報をもとに、やさしい言葉で解説します。
帯状疱疹はどんな病気?――「眠っていたウイルス」が再び暴れ出す
帯状疱疹は、子どものころにかかった水ぼうそう(水痘)のウイルスが、体の中で長年ひっそりと潜み続け、加齢や疲れ、ストレスなどで免疫力が落ちたときに再び活発になって起きる病気です。
水ぼうそうの原因となる水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)は、いったん体に入ると完全には消えず、神経節という神経の集まりの中に潜伏しています。ふだんは免疫がしっかり押さえ込んでいるため問題になりませんが、
- 50歳以降の加齢
- 大きなストレスや過労
- 手術や病気、がん治療などによる免疫力低下
といったきっかけで免疫のバランスが崩れると、ウイルスが動き出し、神経に沿って増えていきます。その結果、片側の体に沿って帯のような赤い発疹と強い痛みが現れるのが帯状疱疹です。
主な症状
- 体の一部(多くは胴体や顔)の片側だけに、赤いぶつぶつや水ぶくれが帯状に出る
- ピリピリ・ヒリヒリするような強い痛み
- 熱、だるさ、頭痛などの全身症状
顔に出た場合は、目や耳の合併症、顔面神経まひなど、重い後遺症につながることもあり、早期の受診がとても大切です。
なぜ「後遺症が怖い」のか――帯状疱疹後神経痛とは
帯状疱疹でもっとも問題になるのは、発疹が治った後も痛みだけが何ヶ月、時には何年も続く「帯状疱疹後神経痛(PHN)」という後遺症です。
帯状疱疹のウイルスは、皮膚だけでなく神経そのものを傷つけるため、そのダメージが長く残ってしまうことがあります。帯状疱疹後神経痛になると、
- 衣服が触れただけで焼けつくような痛みを感じる
- 夜眠れないほどのズキズキした痛みが続く
- 人によってはうつ状態や睡眠障害になる
といった、生活の質(QOL)に大きな影響が出る症状に悩まされます。
また、痛みが長期化するほど治療も難しくなります。そのため、
- 帯状疱疹を発症させないこと
- 発症しても重症化や後遺症を防ぐこと
が、予防医療の大きなテーマになっており、その有力な手段として帯状疱疹ワクチンが注目されています。
帯状疱疹ワクチンは2種類――「生ワクチン」と「組換え(不活化)ワクチン」
日本で使われている帯状疱疹ワクチンは、大きく分けて2種類あります。
1. 弱毒生ワクチン(ビケンなど)
水痘・帯状疱疹ウイルスを弱らせた生きた状態で使うワクチンです。
- 接種回数:1回
- 主な対象:50歳以上の成人
- 予防効果:
- 帯状疱疹発症の予防効果は、接種1年後で約60%
- 5年後で約40%
- 8年目には約3割程度まで下がるという報告もあります
- 特徴:1回で済むが、効果の持続がやや短い
生ワクチンのため、免疫が大きく低下している方や、特定の病気・治療中の方には使えない場合があります。
2. 組換え(不活化)ワクチン:シングリックス
「シングリックス」は、ウイルスそのものではなく、ウイルスの一部(糖タンパク質など)だけを取り出して作られた組換え不活化ワクチンです。
- 接種回数:2回(通常は0か月と2〜6か月の間隔)
- 主な対象:50歳以上、免疫が低下している18歳以上など(詳細は医師の判断)
- 帯状疱疹発症の予防効果:
- 50歳以上で約97%
- 70歳以上でも約90%
- 1年後・5年後とも9割以上
- 10年後でも7割〜8割程度
- 帯状疱疹後神経痛(PHN)の予防:
- 発症リスクを大きく減らし、研究によっては約9割以上
- 特徴:
- 長期間、高い予防効果が続く
- 免疫抑制状態の方にも使用できる(生ワクチンと大きな違い)
一方で、不活化ワクチンであるシングリックスは、
- 接種部位の痛み・腫れ
- 全身のだるさ、筋肉痛、発熱、悪寒、頭痛 など
といった副反応が比較的起こりやすいことが知られていますが、多くは数日以内におさまり、重い副作用はまれとされています。
国の制度としての「定期接種」がスタート――誰が対象になる?
これまで帯状疱疹ワクチンは、自治体によって任意接種への助成が行われてきましたが、2025年度からは国の予防接種法に基づく定期接種に位置づけられました。
定期接種の主なポイント
- 対象年齢:原則として65歳の方など(詳細な経過措置で、一定期間は65歳を超えている人も対象)
- 対象ワクチン:生ワクチンと組換えワクチン(シングリックス)の両方が定期接種の枠内
- 費用:全額無料ではなく、一部自己負担があるが、任意接種より大幅に負担が軽くなる自治体が多い
対象者や自己負担額は自治体によって異なるため、お住まいの市区町村の広報やホームページで確認することが大切です。
地域での取り組み:藤沢市医師会の動画配信
ニュース内容にもあるように、神奈川県藤沢市では「第20回藤沢の医療を考える集い」で『帯状疱疹と帯状疱疹ワクチン』をテーマに市民向け講演が行われ、その動画配信が予定されています。こうした地域の取り組みは、ワクチンの正しい情報をわかりやすく伝える大切な機会となっています。
各地の医師会や自治体でも、講演会やパンフレットなどを通じ、帯状疱疹とワクチンの理解を広めようとする動きがひろがっています。
どちらのワクチンを選べばいい?――特徴と選び方の目安
生ワクチンとシングリックス、それぞれの長所・短所
生ワクチンの主なメリット・デメリット
- メリット
- 接種が1回で済む
- 費用が比較的安価な場合が多い
- デメリット
- 予防効果は約5年でかなり低下する
- 免疫が低下している方には接種できないことがある
シングリックスの主なメリット・デメリット
- メリット
- 50歳以上で約97%、70歳以上でも約90%と非常に高い予防効果
- 10年近く高い効果が持続する
- 帯状疱疹後神経痛のリスクを大きく減らせる
- 免疫抑制状態の方にも使用できる(医師の判断が必要)
- デメリット
- 2回接種が必要で、間隔も守る必要がある
- 生ワクチンに比べて接種後の痛みや発熱などの副反応が多め
- 自己負担額が生ワクチンより高くなることが多い
どちらが「正解」というよりも、
- 年齢や持病、現在受けている治療
- どのくらい強く、どのくらい長く予防したいか
- 費用や通院回数に対する考え方
といった点を、かかりつけ医とよく相談しながら選ぶことが大切です。
芸能人の発症報道で高まる関心――「他人事ではない」帯状疱疹
最近は、著名な俳優やタレント、ミュージシャンなどが帯状疱疹を発症したことを公表し、仕事を休むケースが相次いで報じられています。「ただの皮膚病」ではなく、
- 強い痛みでステージに立てない
- 顔に発疹が出てカメラの前に立てない
- 長引く神経痛で仕事に復帰しづらい
といった現実が、ニュースを通じて多くの人に伝わるようになりました。
芸能人の発症は目立つため話題になりやすいですが、実際には50歳を過ぎれば誰にでも起こりうる病気です。日本では生涯のうち3人に1人が帯状疱疹を経験すると言われており、多くの人にとって「決して他人事ではない」病気だといえます。
「眠れないほどの痛み」を防ぐために――ワクチン以外でできること
ニュース内容のひとつには、「ただ眠れ わが体内の帯状疱疹ウイルスよ」という表現が使われています。これは、体の中でじっと眠っているウイルスを、できるだけ目覚めさせないようにする(=免疫力を保つ)ことの大切さを象徴しています。
帯状疱疹の直接的な予防効果が証明されているのはワクチンですが、ウイルスが暴れ出しにくい体づくりのために、次のような生活習慣も大切です。
- 十分な睡眠をとる
- 過度なストレスや過労を避け、休息時間を確保する
- バランスの良い食事と適度な運動で、免疫力を保つ
- 持病のコントロールや、定期的な健康診断を欠かさない
ただし、こうした生活習慣だけで帯状疱疹を完全に防ぐことは難しいため、50歳を過ぎたらワクチンによる予防も合わせて検討する価値があります。
いつ、どのタイミングで接種を考えるべき?
帯状疱疹ワクチンの接種を検討する目安としては、
- 50歳を過ぎたタイミングで、まず一度かかりつけ医に相談する
- 65歳前後で迎える定期接種の対象年齢を意識しておく
- 免疫力が落ちやすい病気や治療の予定がある場合、事前に予防できないか医師と相談する
などが挙げられます。
特にシングリックスは2回接種が必要で、0か月と2〜6か月の間隔を空けて接種するのが基本です。
治療や手術の予定がある方、仕事が忙しくスケジュールを組みにくい方は、早めに計画を立てることが重要です。
副反応が心配な方へ――知っておきたいポイント
ワクチン接種で多くの方が心配されるのが副反応です。帯状疱疹ワクチンの場合、
- 生ワクチンでは
- 接種部位の腫れ・軽い発熱などが起こることがある
- シングリックスでは
- 注射部位の強めの痛みや腫れ
- 全身のだるさ、頭痛、筋肉痛、悪寒、発熱など
が比較的多く報告されています。
ただし、これらは数日以内におさまる一時的な症状であることがほとんどで、帯状疱疹そのものや帯状疱疹後神経痛に比べると、リスク・負担の大きさはかなり小さいと考えられます。
ワクチンを受ける前に、
- 持病や今飲んでいる薬
- 過去のワクチンでのアレルギー歴
などを医師にきちんと伝え、不安や疑問をその場で相談しておくと安心です。
「認知症リスク」との関連にも注目が集まる
最近の研究では、帯状疱疹ワクチン接種が認知症リスクを下げる可能性がある、という興味深い報告も出ています。
2025年に報告された研究では、帯状疱疹ワクチンを接種した人では、接種しなかった人に比べて認知症の発症リスクが有意に低下していたという結果が示されました。
生ワクチン、組換えワクチンいずれの場合もリスクが下がる傾向があり、おおよそ10年程度でこの効果も薄れていくと考えられています。
まだ研究途上の分野ですが、帯状疱疹ワクチンが痛みの予防だけでなく、将来の健康リスクにも関係する可能性があるとして、今後の研究が注目されています。
まとめ:情報があふれる今こそ、「正しい知識」と「自分で選ぶ力」を
芸能人の発症ニュースや、医師会による市民講座、新聞やネットの記事など、帯状疱疹とワクチンに関する情報はどんどん増えています。一方で、
- 「どれが本当に信頼できる情報なのか分からない」
- 「副反応が怖いから、何もしない方がいいのでは」
と不安になる方も少なくありません。
帯状疱疹は、一度かかってしまうと長く続く痛みに悩まされることがあり、その治療も簡単ではありません。そのため、
- 発症をできるだけ防ぐこと
- 発症しても重くならないように備えること
がとても大切です。
その中心的な手段として位置づけられているのが帯状疱疹ワクチンであり、2025年度からの定期接種化は、その重要性を国としても明確に示した動きだと言えます。
ぜひ一度、
- 自分や家族の年齢・健康状態
- これから迎えるライフイベント(退職、介護、治療など)
をふり返りながら、かかりつけ医と相談してみてください。「まだ先でいいや」ではなく、「今、どんな選択肢があるのか」を知っておくことが、将来の自分を守る大切な一歩になります。



