“クズ芸人”と呼ばれたガッポリ建設・小堀敏夫――『ザ・ノンフィクション』後に突きつけられた現実

お笑いコンビ「ガッポリ建設」のツッコミ担当・小堀敏夫さんは、いま「クズ芸人」という強烈な呼び名とともに、日本のお笑いファンの間で大きな話題となっています。きっかけはフジテレビ系ドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』での特集と、その後に続く各メディアでの露出でした。

番組やインタビューでは、ギャンブル、ギャラ飲み、家賃滞納、婚活、そして家族との確執など、小堀さんの「リアルすぎる日常」が赤裸々に描かれています。 一方で、その姿が視聴者の笑いと怒り、そしてある種の共感を呼び、賛否両論を巻き起こしているのも事実です。

ここでは、『ザ・ノンフィクション』放送後に露わになった「残酷な現実」と、ラジオ番組とのスペシャルコラボ、そして小堀さん自身が語る「クズの定義」について、分かりやすく振り返っていきます。

ガッポリ建設とは? “クズ芸人”が注目されるまで

ガッポリ建設は、1997年に結成されたお笑いコンビで、メンバーは小堀敏夫さん(1967年生まれ・群馬県出身)と、ボケ担当の室田稔さんです。 結成当初からネタを武器に活動し、『エンタの神様』や『あらびき団』などの人気バラエティ番組にも出演し、一部のお笑いファンから注目を集めました。

小堀さんは、もともと落語家の世界に身を置いていた時期もあります。1992年に3代目三遊亭圓丈さんに入門し、「三遊亭ぐん丈」の名前で高座に上がっていた経歴の持ち主です。 その後コンビを結成し、2003年からは大手お笑い集団「WAHAHA本舗」にも所属していましたが、2019年に主宰の喰始さんからクビを言い渡されてしまいます

近年は、相方の室田さんが愛知県を拠点にディレクターやアナウンサー業を中心に活動していることもあり、コンビとしての活動はほとんど行われていません。 そんな中で注目されたのが、フジテレビ『ザ・ノンフィクション』での「クズ芸人シリーズ」でした。

『ザ・ノンフィクション』が映した“57歳クズ芸人”の現実

2025年1月5日に放送された『ザ・ノンフィクション クズ芸人の生きる道 ~57歳 婚活始めます~』では、57歳になった小堀さんの姿が徹底的に追いかけられました。

番組で描かれたのは、老後の不安を抱えながらも、「お金持ちの女性」との結婚に最後の望みをかける婚活の日々。 しかし、ただまっとうに婚活をしているだけではなく、ギャラ飲みと呼ばれる会に呼ばれ、飲みながらギャラを稼ぐ仕事や、ギャンブル漬けの生活など、「普通」とは少し違う生活ぶりも映し出されました。

さらに番組では、「現世には向いてない」と自らの人生に見切りをつけかけた小堀さんが、相方の室田さんに土下座して寺への出家を願い出る場面も登場します。 しかし、その試みもわずか2日目の昼には脱走してしまい、再び迷走するという展開でした。

この放送が終わると、X(旧Twitter)では「クズ芸人」という言葉がトレンド入り。 「ひどすぎて笑った」「目が離せない」といった反応だけでなく、「ここまでさらして大丈夫なのか」といった声も上がり、賛否両論を呼ぶ存在となりました。

「お前を殺して私も死ぬ」…母親からの絶叫電話と家族の崩壊

番組後の取材の中で、小堀さんの家族にも大きな影響があったことが明かされています。 一部報道では、放送後に小堀さんのもとへ、母親から「お前を殺して私も死ぬ」と絶叫する電話がかかってきたことが紹介されています。

この言葉の背景には、ドキュメンタリーで描かれた小堀さんの姿に対する、家族の強いショックや怒り、そして恥ずかしさがあったとされています。 「クズ芸人」としての生き方が、お茶の間の笑いと話題を生む一方で、身近な家族を深く傷つける結果になってしまったのです。

別のインタビューでは、番組出演をきっかけに“親族から絶縁された”という重い言葉も出てきます。 本人は「頑張っているところもたくさん撮られていたのに、そういう映像がほとんど使われていなかった」と、構成への不満も漏らしていますが、それでも結果として、身内との関係悪化という“代償”を背負うことになりました。

「ザ・ノンフィクション」バブルと“ギャラ飲み”の現実

一方で、『ザ・ノンフィクション』出演は、仕事面では大きな反響を生みました。放送直後、小堀さんには「面白かった」「スゴかった」といった連絡が芸人仲間や後輩から多く寄せられたといいます。

さらに、番組の反響を受けて、1~2月の2か月間でギャラ飲みだけで合計約90万円を稼いだという、いわゆる「ザ・ノンフィクションバブル」ともいえる時期がありました。 以前はギャラ飲みの現場で「ひどい扱い」を受けることもあったようですが、最近では婦人会に呼ばれるなど、呼ばれ方や扱いも変わってきていると語っています。

たとえば、ある会社に呼ばれ、ホワイトボードを使ってゲームの説明をするという、もはやお笑いライブとも飲み会とも言えない不思議な仕事をこなしたこともあったそうです。 本人も「これギャラ飲みなのか」と首をかしげつつ、以前より待遇が良くなっていると実感しているようです。

ただし、良いことばかりではありません。番組効果で顔が知られるようになり、パチンコ店でライターに顔をさされるなど、以前とは違う意味で視線を感じるようにもなったと明かしています。 「巨人のキャップを被っているから余計に目立つ」と苦笑しつつも、やはりギャンブルからは離れられていない日常がうかがえます。

ニッポン放送『ナイツ ザ・ラジオショー』とのスペシャルコラボ出演

こうした盛り上がりの中で決まったのが、フジテレビ『ザ・ノンフィクション』とニッポン放送『ナイツ ザ・ラジオショー』のスペシャルコラボ企画です。 コラボ企画には、ガッポリ建設(小堀敏夫さん・室田稔さん)が出演者として名を連ねました。

『ナイツ ザ・ラジオショー』は、お笑いコンビ・ナイツがパーソナリティを務める人気番組で、日替わりパートナーや多彩なゲストとのトークが魅力です。そこに、「クズ芸人」シリーズの主人公として再び脚光を浴びた小堀さんと、長年コンビを組んできた室田さんが“生出演”するという構図は、大きな注目を集めました。

小堀さんにとって、ラジオやテレビに呼ばれ、スタジオでMCと肩を並べるという状況は、本人いわくとても「感慨深い」ものだったとされています。 かつては「別世界の人」だと感じていた東野幸治さんやバナナマン・設楽統さんたちと、同じスタジオでトークを交わす機会も生まれました。

相方・室田稔の葛藤と、生放送での「解散申し出」

しかし、この華やかな露出の裏側には、コンビとしての深い亀裂も隠れていました。ドキュメンタリーの中でも、「それでも小堀を見捨てない相方」として、室田さんの存在が何度も取り上げられています。

実際、室田さんは長年、小堀さんに振り回されつつも、コンビを維持するために動き続けてきた人物です。 ところが、ある収録では、小堀さんが「後輩と飲む」と言って室田さんから借りたお金を、パチンコで使い果たしてしまったことを、スタジオのトーク中にさらりと告白してしまいました。

この一言で、室田さんの表情は一変。「カメラ止めてくれますか?」と収録の中断を求め、その場で「コンビを解散する」と怒りをあらわにして退席したと伝えられています。 収録後、本来は2人そろってインタビューに応じる予定でしたが、結果として登場したのは小堀さん一人だけ。「俺が100%悪い」と語りつつも、「永遠にガッポリ建設だと思っている」とコンビ継続の意思を口にしました。

しかし、その後も2人は、顔を合わせることも、連絡を取ることもない状態が続いたといいます。 そして、そんな緊張関係のまま迎えたのが、ニッポン放送『ナイツ ザ・ラジオショー』の生放送でした。

番組には予定どおり、ガッポリ建設の2人がコンビとして出演。 しかし生放送の中で、室田さんは、長年小堀さんに振り回され続けてきた疲れを口にし、「年内での解散」を申し出たと報じられています。 まさに、全国のリスナーが聞いている前での「解散宣言」であり、現実としての決別が突きつけられた瞬間でもありました。

この出来事は、笑いとドキュメンタリーの境界線を考えさせる象徴的な場面とも言えます。視聴者にとっては「面白いクズ芸人」の物語であっても、当事者たちにとっては、長年積み重なってきた不満や疲弊が限界に達した結果でした。

「俺は2度寝するために、1度寝ている」――小堀敏夫が語る“クズの定義”

そんな小堀さんは、自身を「クズ芸人」と呼ぶことを拒むどころか、自ら“クズの定義”を語る場面もあります。集英社オンラインのインタビューでは、印象的なフレーズとして、「俺は2度寝するために、1度寝ている」という言葉が紹介されています。

この一言には、「効率よく休むため」ではなく、ただ“だらだらと生きること”を肯定するような価値観がにじみ出ています。同じくインタビューでは、家賃滞納についても、「大家さんはなんもサービスしてくれてない」と、どこか開き直ったような言い方をしている場面がありました。

もちろん、一般的な常識から見れば、これは褒められた態度ではありません。しかし小堀さんは、そんな自分を隠すことなく、むしろ笑いに変えようとしているようにも見えます。58歳になった今も肩書きは「芸人」のまま、日々ギャラ飲みやギャンブルに勤しむ生活を続けていると語っています。

「芸人という仕事は浮き沈みが激しいが、焦燥感はなかったのか」という問いかけに対しても、どこか達観したような姿勢が感じられます。 それは、社会的な成功や安定を求める生き方とは真逆の方向を向きながらも、自分の欲望や怠惰さに正直に生きるという、ある意味で徹底したスタンスとも言えるでしょう。

“クズ芸人”が映し出すもの――笑いと同情のあいだ

ガッポリ建設・小堀敏夫さんをめぐる一連の報道や番組は、見る人によって受け止め方が大きく分かれる内容でした。

  • 「ここまで突き抜けていると、逆に清々しい」と笑う人
  • 「家族や相方があまりにもかわいそうだ」と怒る人
  • 「自分もどこか似た部分があって目をそらせない」と感じる人

本人は、自身の生き方を包み隠さずカメラの前にさらしましたが、その結果として、親族からの絶縁や、相方からの解散申し出といった厳しい現実を背負うことになりました。 一方で、ドキュメンタリー出演をきっかけに、新たな仕事や出会いが生まれ、短期的には「バブル」とも言える状況も生まれています。

「クズ芸人」というラベルは、ただの悪口や嘲笑ではなく、現代社会の価値観からこぼれ落ちた人の生きざまを映し出す鏡なのかもしれません。小堀さんがこれから先、どのような道を歩むのかはまだ分かりませんが、少なくとも彼の姿からは、「真面目に生きること」や「人との関わりの重さ」について、あらためて考えさせられるものがあります。

その意味で、ガッポリ建設・小堀敏夫さんは、単なる“炎上キャラ”ではなく、笑いと現実のはざまで揺れる現代のお笑い芸人の象徴的な存在として、これからもしばらく注目を集め続けることになりそうです。

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