『国宝』が「邦画ワースト1位」に選出…181億円突破の大ヒット作品が『映画芸術』で酷評される理由
2025年の日本映画界を代表する話題作『国宝』が、予想外の展開を迎えました。季刊誌『映画芸術』が1月27日に発表した毎年恒例の「日本映画ベスト&ワースト」で、李相日監督の『国宝』がワースト1位に選出されたのです。この決定は、SNS上で大きな波紋を呼び、ネット上では賛否両論の声が相次いでいます。
邦画実写史上最高の記録を樹立した『国宝』
『国宝』は2025年6月6日に公開された作品で、吉沢亮が主演を務めています。歌舞伎界を舞台にした壮大なドラマで、任侠の一門に生まれながら歌舞伎役者の家に引き取られた立花喜久雄の一代記を描いています。
この作品は、初週の派手な滑り出しではなかったにもかかわらず、その後の勢いは素晴らしく、観客動員1286万人、興行収入181億円を突破し、邦画実写史上最高の記録を樹立しました。前年の記録173億5000万円を超え、邦画実写歴代1位の座についたのです。
さらに『国宝』は、映画賞のシーズンでも大活躍しており、カンヌ国際映画祭でのスタンディングオベーション、アカデミー賞のショートリスト入り、日本アカデミー賞の12部門16賞受賞など、芸術的にも商業的にも大成功を収めています。
『映画芸術』のワースト選出が波紋を呼ぶ
『映画芸術』が『国宝』をワースト1位に選出したことは、多くの人々に違和感を与えました。ランキングを発表した公式Xの投稿は、1月29日段階で764万回表示、リポストが700を超える状態となり、例年以上の批判が殺到しているのです。
SNS上では「国宝が合わないのは全然分かるが、1年間日本の全ての作品の中でワーストという判断はさすがに逆張り」といった指摘が見られ、ランキング決定の恣意性を疑う声も上がっています。
『映画芸術』の独特な編集姿勢
『映画芸術』は、脚本家の荒井晴彦さんが編集長を務める自主出版に近い季刊誌です。今回、ベスト部門の1位に輝いた『星と月は天の穴』は、その編集長を務める荒井氏が監督し、綾野剛が主演を務めた作品です。
映画ライターの指摘によれば、荒井氏の作品が公開される年は、ランキングで1位になることがお約束になっているとのこと。また、昨年のワースト1位は、同じく賞レースを総なめした横浜流星さん主演の『正体』が選出されていたといいます。
『映画芸術』のランキング哲学
『映画芸術』のワースト選出の背景には、雑誌独自の編集方針があると考えられます。ベスト部門には、ミニシアター系など他の賞レースで評価されていない作品が多く選ばれる傾向があります。一方、ワースト部門の上位には、世間的に評価されたり、商業的にヒットした作品が多くランクインするのです。
『国宝』のワースト1位選出の意図については、高田宏治氏による「魂を売る」という評が参考になります。これは、『国宝』が商業的に成功しすぎたことへの批判を表しているのではないでしょうか。『映画芸術』は、商業主義に対して批判的な立場を取ることで、自らのアイデンティティを保ってきた歴史があります。
その例として、2008年の『おくりびと』をワーストに選んだことが挙げられます。『おくりびと』はアカデミー賞外国語映画賞を受賞し、日本映画界に大きな影響を与えた作品でしたが、『映画芸術』はこれを「お涙頂戴」「偽善的」と批判しました。同様に、『国宝』も「商業主義」「大衆迎合」として批判されたと考えられるのです。
「逆張り」という認識の広がり
興味深いことに、映画関係者やファンの間では、『映画芸術』のランキング結果についての認識が独特になっているようです。映画ライターは「同ランキングでワースト1位=事実上のナンバー1作品というのが、関係者の間での認識になっていますね」と指摘しています。
つまり、『映画芸術』のワースト部門に選出されることは、むしろその年の最も注目される作品であることの証であり、ワースト1位に選ばれることは間接的に「最高傑作」というお墨付きとなっているという見方もあるわけです。
ワースト作品でも意外と肯定的な評価
さらに興味深い指摘もあります。『映画芸術』のワーストに選出された作品でも、誌面を読むと意外とけなされていないケースが多いということです。つまり、ランキング上の順位よりも、実際の評論内容を読むことで、作品に対する真の評価が理解できるのだということ。
『国宝』の場合も、181億円という興行収入は決して「魂を売った」結果ではなく、李監督の「全てそろえる」という姿勢が、観客に受け入れられた結果であるという見方が支配的です。吉沢亮と横浜流星の圧倒的な演技、奥寺佐渡子の緻密な脚本、12億円という製作費を最大限に活用した映像美が合わさって、観客を3時間スクリーンに釘付けにしたのです。
2025年の日本映画ベスト&ワースト発表
『映画芸術』が発表したランキングの詳細は、1月30日発売の最新号「映画芸術」494号に掲載されることになっています。ベスト1位は『星と月は天の穴』で、ワースト1位は『国宝』です。このランキングに対する反応は、日本の映画評論界における議論を活発化させています。
『映画芸術』の保守性と独自性
『映画芸術』のランキング発表は、毎年のように賛否を呼ぶ存在となっています。ワースト作品のランキングを発表する雑誌自体があまり存在しないだけに、このランキングはその独自性で知られているのです。
今年の『国宝』のワースト1位選出も、その独特な編集姿勢の表現であると同時に、日本映画界における商業主義と芸術性についての議論を改めて提起させています。『映画芸術』という雑誌が、商業的成功と芸術的評価のズレについてどのような視点を持っているのかを象徴する決定となったのです。
結論として、『国宝』がワースト1位に選出されたことは、むしろ2025年日本映画の最大の話題作であることを改めて証明するものとなっているのではないでしょうか。



