「鉄拳」の顔・原田勝弘氏、2025年末でバンダイナムコ退職へ――30周年の節目に決断

人気格闘ゲームシリーズ「鉄拳」のプロデューサーとして知られる原田勝弘氏が、2025年末をもってバンダイナムコエンターテインメント(以下バンダイナムコ)を退職することを発表しました。

「鉄拳」シリーズの“顔”とも言える存在であり、長年にわたって同シリーズを牽引してきた原田氏の退職は、ゲーム業界だけでなく、多くのファンにとっても大きなニュースとなっています。

「鉄拳」30周年という大きな節目での退職

原田氏は、退職のタイミングについて「長く携わってきた『鉄拳』シリーズが30周年という大きな節目を迎え、ひとつの区切りとして最もふさわしい時期であると考えた」と説明しています。

「鉄拳」シリーズの第1作は1994年12月9日に発売されており、2024年末から2025年にかけてシリーズは30周年という記念すべき節目を迎えました。その節目のタイミングで、自身のキャリアにひとまず区切りをつけるという形になります。

バンダイナムコおよび公式X(旧Twitter)アカウントからも、原田氏の退職について正式な発表が行われ、「長きにわたり、『鉄拳』シリーズをはじめとする数々のプロジェクトを牽引してきたことへの感謝」とともに、30周年の終わりにあわせた報告であることが伝えられました。

4〜5年かけて進められていた綿密な引き継ぎ

突然の決断という印象を受ける人もいるかもしれませんが、原田氏によると、今回の退職はここ4〜5年ほどの時間をかけて準備されてきたものだといいます。

原田氏は、これまで自らが担ってきた

  • ゲーム開発における各種業務
  • 「鉄拳」シリーズのストーリー
  • 世界観やキャラクター設定
  • プロジェクト全体に関する責務

といった要素を、チームメンバーへ段階的に引き継いできたと説明しています。

そのうえで、シリーズ30周年というタイミングで「ひとつの区切り」を迎えたことから、今回の発表に至ったとしています。

決断の背景にあった、身近な人々との別れ

退職に至る心境の変化について、原田氏は、ここ数年の間に友人との死別や、尊敬する先輩たちの引退・逝去を経験したことが大きかったと語っています。

そうした出来事を通じて、「開発者として残された時間」について深く考えるようになり、自身のキャリアの在り方や、今後、何に力を注いでいくべきかを見つめ直す契機になったとのことです。

単なる人事的な区切りではなく、ライフステージや人生観の変化と重なった決断であることがうかがえます。

PS生みの親・久夛良木健氏にも相談して決断

今回の決断にあたって、原田氏は「PlayStation生みの親」として知られる久夛良木健氏にも相談していたことを明かしています。

久夛良木氏からは、助言や励ましの言葉を受け取ったといい、その言葉が今回の決断を静かに後押ししたといいます。

原田氏は久夛良木氏を「もう一人の父のように敬愛している」とも語っており、その存在の大きさと信頼関係の深さが、キャリアの大きな岐路においても心の支えとなったことがうかがえます。

「鉄拳」チームへの想いと、コミュニティへの感謝

「鉄拳」公式Xアカウントは、原田氏の退職に触れながら、原田氏がこれまで築いてきたビジョンと精神を今後もチームが受け継いでいくと表明しています。

特に、「鉄拳」シリーズにおいて原田氏が大切にしてきたのが、ファンやプレイヤーとの「コミュニティとの対話の精神」です。公式側は、その姿勢をこれからも変わらない方針として維持していくとしています。

また、退職発表にあたって原田氏は、世界中のプレイヤーコミュニティや、長年ともに作品を作り上げてきた関係者に対し、深い感謝の言葉を述べています。

「鉄拳8」など今後の開発体制への影響は?

多くのファンが気になるのは、「鉄拳」シリーズ、特に最新作「鉄拳8」や今後の展開への影響ですが、バンダイナムコおよび公式Xは、

  • シリーズの運営および開発体制に影響が生じないよう準備を進めている
  • 原田氏のビジョンや精神を受け継いだチーム体制がすでに構築されている

と説明しています。

過去4〜5年にわたる引き継ぎ期間を経ていることからも、原田氏の退職後も「鉄拳」プロジェクトが大きく揺らぐことはないよう、周到な体制整備が進められてきたとみられます。

2026年1月「TEKKEN World Tour 2025 Global Finals」が“最後の顔見せ”に

原田氏は2025年末でバンダイナムコを離れますが、2026年1月末に開催される「TEKKEN World Tour 2025 Global Finals」にはゲストとして出演する予定です。

このイベントは、2026年1月31日と2月1日にスウェーデン・マルメで開催される予定であり、開発者として、そしてシリーズの“顔”としての原田氏が、コミュニティの前に立つ最後の大きな場になると案内されています。

本人も、「会社からお願いされていることもあり、ゲストとして顔を出す」と述べており、「鉄拳」ファンにとっては、直接その姿を見届けられる貴重な機会となりそうです。

「最初で最後のDJ風60分ノンストップ鉄拳ミックス」も公開

退職発表と同時に、原田氏は「最初で最後のDJ風60分ノンストップ鉄拳ミックス」を公開したことも明らかになっています。

これは、30年間にわたって「いつかやるよ」と言い続けてきた、トーナメントイベントでのDJプレイの代わりとなる企画だとされており、「鉄拳」シリーズと共に歩んできた長い年月を象徴するような特別なコンテンツとなっています。

原田勝弘氏が手がけてきた代表的な作品

原田氏と言えば「鉄拳」のイメージが非常に強いですが、これまでに手がけてきた作品は多岐にわたります。

  • 鉄拳シリーズ(プロデューサー/チーフディレクターとして長年にわたり指揮)
  • ポッ拳(『ポッ拳 POKKÉN TOURNAMENT』など)
  • サマーレッスン
  • ソウルキャリバーIV
  • Shadow Labyrinthなど

格闘ゲームを中心に、バンダイナムコの看板タイトルの数々に深く関わってきたプロデューサーであり、日本のゲーム業界を代表するクリエイターの一人として広く知られています。

退職後の活動は「追って報告」

気になる今後の活動についてですが、現時点で原田氏は具体的な進路や新プロジェクトについては明言していません

自身の発表の中で、「次の歩みについては、改めて皆様にお伝えいたします」と述べており、今後の詳細は追って公表される見通しです。

長年にわたりゲーム開発の最前線に立ち続けてきた原田氏だけに、今後も何らかの形でゲーム業界やエンターテインメント分野に関わっていくのではないかと、多くのファンや関係者から注目が集まっています。

「鉄拳」と原田勝弘氏が残したもの

1990年代から続く「鉄拳」シリーズは、アーケードから家庭用ゲーム機、そしてeスポーツシーンに至るまで、格闘ゲームの歴史とともに歩んできたタイトルです。

その中で原田氏は、単にゲームを作るだけでなく、

  • プレイヤーコミュニティとの積極的な対話
  • 世界中の大会・イベントへの精力的な参加
  • SNSなどを通じたファンとの距離の近いコミュニケーション

といったスタイルで、「開発者」と「ユーザー」の垣根を低くし、同じ作品を愛する仲間としての関係性を築いてきました。

そうした姿勢は、「鉄拳」シリーズのみならず、近年のゲームコミュニティ全体に影響を与えたと言っても過言ではありません。

今回の退職はひとつの時代の区切りではありますが、原田氏が残した作品、そしてコミュニティとの向き合い方は、今後も「鉄拳」シリーズとそのプレイヤーたちの中に生き続けていくことでしょう。

ファンにとっての“見届ける時間”

2025年末の退職、そして2026年1月の「TEKKEN World Tour 2025 Global Finals」へのゲスト参加まで、もうしばらく時間があります。

この期間は、「鉄拳」とともに歩んできたファンにとって、

  • これまでの30年を振り返る時間
  • 原田氏のメッセージや発信に改めて触れる時間
  • 今後の「鉄拳」シリーズを見守るための心の準備期間

とも言えるかもしれません。

長年シリーズを支えてきた原田氏に敬意を表しつつ、これからの新しい「鉄拳」チームの歩み、そして原田氏自身の「次の一歩」にも、静かに期待を寄せていきたいところです。

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