揺れるDCユニバース――スーパーマン新フランチャイズと劇場公開をめぐる攻防
DCコミックス原作映画の新たな統一世界観としてスタートした「DCユニバース(DCU)」は、その第1作目となる映画『スーパーマン』を皮切りに、長期的なフランチャイズ展開が期待されていました。ジェームズ・ガンが指揮を執るこの新体制は、かつてのDCEUからの“仕切り直し”として大きな注目を集めていますが、一方で企業戦略や配給プラットフォームをめぐる思惑の違いが表面化し、「新スーパーマン・フランチャイズは早くも頓挫したのではないか」といった厳しい論調のニュースも出ています。
本記事では、「新スーパーマン・フランチャイズはもう終わった」と語られる背景、ジェームズ・ガンとNetflixのテッド・サランドスが映画館をめぐって対立していると報じられる構図、そしてワーナー・ブラザース買収話とジェームズ・ガンの契約期間報道が、DCユニバースにどのような影を落としているのかを、現時点で公表されている事実をもとに整理して解説します。
DCユニバース新章の出発点――2025年版『スーパーマン』
まず押さえておきたいのは、2025年版『スーパーマン』がDCユニバース第1作として正式に位置づけられているという事実です。ジェームズ・ガンが脚本・監督を務めるこの映画は、DCコミックスを原作とする新たなスーパーヒーロー映画であり、従来の「マン・オブ・スティール」路線からのリブート作品となります。
作品は新DCユニバース(DCU)の第1章「ゴッズ・アンド・モンスターズ」の幕開けとなる映画で、日本とアメリカで2025年7月11日に同時公開されました。主演にはデヴィッド・コレンスウェットが新たなスーパーマン/クラーク・ケントとして起用され、ロイス・レーン役にはレイチェル・ブロスナハンがキャスティングされています。
DCスタジオ共同代表のガンとピーター・サフランは就任後、8〜10年スパンの計画で新DCユニバースを構築すると説明しており、この『スーパーマン』はその“ゼロ年目”とも言える象徴的な作品でした。
なぜ「新スーパーマン・フランチャイズはすでに死んだ」と言われるのか
一部の海外メディアでは、「New Superman Franchise Is Already Dead, Thanks To Corporate Greed(企業の強欲のせいで、新スーパーマン・フランチャイズはすでに死んでいる)」という刺激的な見出しの記事が注目を集めています。この論調の背景には、大きく分けて次のようなポイントがあります。
- ワーナー・ブラザース・ディスカバリーの企業戦略への不信感
- 短期的な収益重視による企画の整理・中止
- 劇場と配信のバランスをめぐる迷走
ワーナー・ブラザース・ディスカバリーは、DC映画群を大規模に整理し、複数の企画を中止・再構築してきました。実際に、DC作品の中にはタイトル未発表の映画が製作中止となった案件もあり、このような動きが「長期的ビジョンよりも、その時々の財務状況や株主へのアピールが優先されているのではないか」という批判につながっています。
さらに、かつて構想されていた黒人版スーパーマン企画がストップしたことも報じられており、新体制下での企画整理の一環とはいえ、ファンの間には「せっかくの多様なビジョンが企業の都合で消されている」という不満も生まれています。
こうした過去の経緯から、「ガン版『スーパーマン』がどれだけ成功しても、会社の判断次第でフランチャイズ自体が途中で止まるのではないか」と懐疑的に見る向きがあり、「フランチャイズはもう死んだ」といった強い言葉で表現されているのです。ただし、これはあくまで評論・論評ベースの言い回しであり、公式に「スーパーマン・フランチャイズ終了」が発表された事実は現時点ではありません。
ジェームズ・ガンとNetflixテッド・サランドス――「映画館」をめぐる温度差
次に、「DCUのジェームズ・ガンとNetflixのテッド・サランドスは映画館をめぐって対立している」と報じられている点を見ていきます。この報道は、より広い文脈としてのハリウッド全体の配給戦略の変化を背景にしています。
Netflixは、サランドス共同CEOのもとで、基本的には自社配信プラットフォームを主戦場としてきました。一部の話題作を限定的に劇場公開することはありますが、ビジネスの中心はあくまでストリーミングです。一方で、ガンはDCスタジオのトップとして、新DCユニバース作品を映画館公開と連動した大規模フランチャイズとして展開しようとしています。
実際、『スーパーマン』は日米同時で劇場公開された上で、その後にデジタル配信へと展開するという、従来型の“シアター・ファースト”戦略を取っています。ワーナー・ブラザースは自社の劇場公開ラインを重視しており、劇場公開をほとんど行わないNetflixのモデルとは根本的なビジネス思想が異なります。
配給やウィンドウ戦略(劇場公開から配信開始までの期間)をめぐって、映画館の価値をどう位置付けるかという点で、ガンとサランドスのスタンスに差があることは容易に想像できます。その“温度差”が、「映画館をめぐる対立」といった見出しで語られているのです。ただし、両者が具体的にどのような発言をし、どこまで意見が食い違っているのかについては、報道内容や論評によってトーンが異なります。
Netflixによるワーナー・ブラザース買収報道とジェームズ・ガンの契約期間
さらに議論を複雑にしているのが、Netflixによるワーナー・ブラザース買収話に関する報道と、そのタイミングで明らかにされたとされるジェームズ・ガンのDCスタジオ契約期間です。
ガンとサフランがDCスタジオの共同代表に就任したのは2022年後期で、その際に8〜10年を視野に入れた長期計画を立てていることが公表されています。つまり、新DCユニバースはもともと「数年で完結する小さな計画」ではなく、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)に匹敵する長期シリーズとして構想されているのです。
こうした中で、Netflixによるワーナー・ブラザース買収の可能性がささやかれると、「もしNetflix傘下に入った場合、ガンの立場や契約はどうなるのか」「劇場中心から配信中心のモデルへ転換を迫られるのではないか」といった憶測が広がりました。報道の中には、ガンの契約期間が明かされたことで、“出口”が見えたように感じるファンもいるという論調のものもあります。
ここで注意したいのは、現時点で公表されているのは主に「何年スパンを想定した計画か」という情報であり、具体的な契約満了日や条項までが公式に詳細公表されているわけではない点です。したがって、「契約が◯年で切れるから、その時点でDCUは打ち切り」というような断定的な見方は、少なくとも現段階では確定情報ではなく推測の域を出ません。
DCユニバースにとってのスーパーマンの位置づけ
スーパーマンは、DCスタジオにとって依然として最重要級キャラクターと位置づけられています。ガン自身も2022年12月の段階で、「スーパーマンはDCスタジオにとって最大級の優先事項」であり、新作の脚本執筆を進めていることを明言しています。また、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーのデヴィッド・ザスラフCEOも、スーパーマン、バットマン、スーパーガール、ワンダーウーマンをDC戦略の中核とする方針を示しています。
実際、『スーパーマン』公開後には、ワンダーウーマン新作の脚本執筆が進行中であることも明らかになりました。これは、新DCユニバースが単発映画ではなく、複数ヒーローが連なる長期計画として動いている証拠でもあります。
また、一部報道では、ガンが『スーパーマン』の次の作品にあたる新作映画の脚本をすでに進めており、撮影開始も「かなり早くに始める」と話していることが伝えられています。これは、少なくともクリエイティブサイドではスーパーマン中心のDCU展開を続ける意思があることを示すものと言えるでしょう。
「企業の強欲」とは何を指しているのか
冒頭の「Corporate Greed(企業の強欲)」という表現は、主に次のような点に向けられた批判的なレッテルです。
- 短期的なコスト削減や財務改善のための企画中止・縮小
- 株主・市場へのアピールを優先した買収・合併戦略
- クリエイターやファンの期待よりも経営判断を優先してしまう体質
とくにDCの場合、DCEU時代からの路線変更や作品トーンの揺れがたびたび起きてきたため、ファンの間には「また経営判断でシリーズが途中で変わるのでは」という根強い不信感があります。黒人版スーパーマン企画のストップや、タイトル未発表のDC映画の製作中止も、その文脈で「もったいない」「数字だけを見て判断している」と受け止められがちです。
ただし、経営側から見れば、大規模なユニバース構想には多額の投資が必要であり、採算性や全体ポートフォリオの見直しは不可避とも言えます。問題は、その過程がファンやクリエイターから「透明で一貫性がある」と受け取られているかどうかであり、その溝が「Corporate Greed」という厳しい表現となって噴出しているのが今の状況です。
DCユニバースのこれから――「もう終わった」と見るには早い
ここまで見てきたように、新スーパーマン・フランチャイズを取り巻く環境は決して平坦ではありません。企業買収の噂、配信と劇場をめぐる戦略の違い、過去の企画中止の記憶などが重なり、「どうせまた途中で終わるのでは」という悲観論が出やすい状況にあります。
とはいえ、現在わかっている事実だけを見ると、少なくとも次のポイントは押さえられます。
- 2025年版『スーパーマン』は正式にDCユニバース第1作として公開済み
- ガンとサフランは8〜10年スパンの計画でDCUを設計している
- ワンダーウーマン新作など、他の主要ヒーロー企画も動き出している
- ガンはすでに次のスーパーマン関連映画の脚本作業に入っていると報じられている
これらを踏まえると、「企業の強欲のせいで新スーパーマン・フランチャイズはすでに死んだ」というのは、あくまで
・経営リスクへの不安
・過去の迷走への不信感
・買収や配信シフトへの懸念
が合わさった悲観的な見立てや批評であって、現時点で公式に「DCユニバース構想が打ち切られた」という事実があるわけではありません。
ファンとしては不安も尽きませんが、少なくとも今は劇場公開された2025年版『スーパーマン』と、そこから広がるDCユニバース第1章「ゴッズ・アンド・モンスターズ」がどのように展開するのかを見守る段階にあります。Netflixを含む配信プラットフォームとの力関係や、ワーナー・ブラザースの経営判断が今後の行方を左右するのは間違いありませんが、その一方で、ジェームズ・ガン率いるクリエイティブチームがどこまで一貫した物語を紡ぎ出せるのかも、DCユニバースの成否を決める大きな鍵となるでしょう。



