平賀源内が時代を翔ける――大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』44話に見る「生存説」と江戸の夢の軌跡
はじめに
2025年大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(NHK)は、江戸時代の文化的巨星「蔦屋重三郎」通称・蔦重(つたじゅう)を中心に、近世日本のクリエイターたちの群像と波瀾のドラマを描いて新鮮な話題を呼んでいます。とりわけ第44話では、安田顕演じる発明家・平賀源内の“生存説”や「紙風船で蝦夷に渡った」という伝説的エピソードが中心に据えられ、現代視聴者にも大きなインパクトを与えています。ここでは最新エピソードの主題や登場人物たちの心情、そして江戸の創造力と夢が交錯する瞬間までを丁寧にたどります。
平賀源内――多才な異才の生涯
平賀源内(ひらが げんない、1728~1780)は、江戸時代中期の発明家・蘭学者・戯作者であり、「日本のダ・ヴィンチ」とも呼ばれる異才です。
彼が生きた時代、学問や文化は長く支配層のものでしたが、源内は身分や格式を超えて多くの分野で革新を起こしました。代表作とされる「エレキテル」(静電気発生機)や「寒暖計」、そして薬剤の開発事業のみならず、戯作や鉱山事業、芝居の作劇にも精力的に取り組んだことで知られています。
源内の人生を語るに欠かせないのは、「常識の枠」に収まらない行動力と好奇心です。西洋技術を独学で吸収し、国内に紹介するだけでなく、自ら実験や翻訳を行って新しい時代の息吹を日本にもたらしました。
時にその活動ぶりは江戸の町人からも奇人扱いされるほど。しかし、彼の目指すものは「未来の日本」にほかなりませんでした。
『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』44話――紙風船で蝦夷へ
44話で大きな注目を集めたのは、「平賀源内生存説」と「紙風船で蝦夷へ渡航した」という考察です。ドラマでは、主人公・蔦重(横浜流星)が源内の生存の手掛かりを探る中、共闘を持ちかける謎の人物が現れます。幕末、江戸も終焉を迎えつつあるなかで生きる者たちの「夢」に、源内の影が色濃く重なります。
ドラマ内で描かれる源内の「蝦夷渡航」風説は、江戸の人々、その想像力の豊かさと時代の閉塞感のただなかで広まったものでした。源内の型破りな人生ゆえ、「実は死なずに北の果てへ消えたのでは」といったロマンあふれる伝説が生み出されたのです。
蔦重はその“真相”を追い求め、源内という人物がもたらした影響――自由奔放な発想力と未来への情熱、そして「時代を変える者」の宿命に迫ります。
源内生存説と江戸のミステリー
平賀源内については、その晩年に殺人事件に巻き込まれ投獄、そして獄死したとされるのが定説です。しかし一方、源内には“不滅”の伝説も複数存在します。
そのひとつが「実は死を偽装し、蝦夷地(現在の北海道)や異国に逃れたのではないか」という説です。
- 江戸時代中期、蝦夷地は本州の人々にとって未知のフロンティアであり、“夢”や“冒険”の象徴でした。
- 「紙風船で空を飛び海を越えた」というモチーフは、当時すでに西洋の気球・飛行への憧れも相まって、庶民の想像力を刺激しました。
- ドラマ44話では、その夢想・伝説が現実となるかのように描かれ、蔦重がそこに強い共感を寄せる場面が印象的でした。
また、ドラマを通して浮かび上がるのは「伝説」と「現実」の間に揺れる江戸庶民の心理です。権威や因習に苦しむ蔦重や源内にとって、“生存説”は再起と希望の象徴でもありました。
蔦重と源内が結ぶ夢のバトン
主人公・蔦重も、平賀源内の生き方や発想力を否応なしに自分の中へ取り込んでいきます。44話では、蔦重が源内の生存を信じ、共闘を持ちかけられるというサスペンスフルな展開が描かれます。
- 蔦重は、江戸文化の集大成ともいうべき出版業を担い、「天才たちの才能」を世に届ける役目を自覚しています。
- 源内の“生存”が示唆するのは、既定路線に抗い続けるクリエイターの不屈の魂――すなわち「夢をつなげる者」としての矜持です。
- 蔦重が追うものは“栄華”だけでなく、前例にとらわれない自由な発想と革新。それを象徴するのが源内自身だったのです。
ドラマの注目ポイント――歌麿・蔦重の葛藤
物語を彩るもう一つの山場は、染谷将太演じる浮世絵師・歌麿と蔦重による芸術的葛藤です。ドラマ44話では、蔦重と歌麿が苦心して完成した一枚の絵を、歌麿みずから破り捨てる――そんな迫真のシーンが話題となりました。
- 「暗黒演技がうますぎ」とSNSでも称賛の声が上がる染谷将太の演技。歌麿の苦悩と、芸術家としての矜持がリアルに浮かび上がります。
- 蔦重は、歌麿の心中を理解し支えようと奔走。一方で、商業主義との葛藤や、新しい時代への移行期における“表現の自由”が物語に大きく影を落とします。
- この二人の“反発と共鳴”は、江戸文化が大衆化の道を歩む過程そのもの。源内の“伝説”と重なる部分も多く、未来への希望と苦悩が濃密に絡み合っています。
44話を支えるキャストと演出
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』の第44話は、安田顕(平賀源内役)、横浜流星(蔦重役)、染谷将太(歌麿役)という豪華キャストの熱演により、歴史の“if”を鮮やかに具現化しています。
脚本家の筆致は江戸の暗部や光、創造する力の尊さを丁寧に描き、観る者それぞれが「自分の夢」をふと思い起こさせる仕掛けとなっています。
また、江戸期の町並みや衣装、出版物なども細部までリアルに再現され、歴史ドラマとしての「時代考証」の精度の高さも称賛されています。とくに源内の小道具である紙風船やエレキテルは、ドラマの中で異彩を放つ存在感を示しています。
現代に受け継がれる源内のメッセージ
44話が映し出した平賀源内像――それは江戸時代の単なる“異能者”というだけでなく、今を生きる私たちにまで響くメッセージに満ちています。
- 「不可能を可能に変える」――新しい技術や発想に挑戦する勇気。
- 「周囲に理解されなくとも夢を追う」――常識への挑戦者としての根性。
- 「芸術や出版を通して時代の流れを変える」――クリエイター精神の原点。
こうした源内スピリットは、現代においてもイノベーションや創造的仕事を志す人々の大きな指針となっています。
あとがき――残り4話、「夢」の最終章へ
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』は、まもなくクライマックスを迎えます。第44話の余韻を引き継ぎ、残された4話では、蔦重・歌麿、そして幻のように現れる平賀源内の“生き様”が、どのように「江戸の栄華」と「新たな時代」へバトンされるのか――期待は高まるばかりです。
江戸を駆け抜け、時代を飛び越えた人物たちの「夢」と「意志」。そのほとばしる力は、ドラマを通じて現代人にも深い感動をもたらします。もし今、あなた自身が何か新しいことに挑もうとしているなら、源内や蔦重の“無謀とも思える勇気”を胸に刻み、彼らの物語に背中を押してもらうのも良いのではないでしょうか。



