ダウンタウン松本人志、配信サービス「DOWNTOWN+」で本格復帰 お笑いとメディアのかたちをどう変えるのか
お笑いコンビダウンタウンの松本人志さんが、独自の有料配信サービス「DOWNTOWN+(ダウンタウンプラス)」を立ち上げ、本格的に活動を再開しました。加入者数は早くも50万人を突破し、ネット上だけでなく芸能界からも大きな注目を集めています。
この動きは、テレビではなく“自前のプラットフォーム”を選んだ復帰として、賛否を含めたさまざまな議論を呼んでいます。
活動休止から約1年10カ月 松本人志が選んだ「戻り方」
松本さんは、週刊誌報道とそれに伴う裁判に集中するため、2023年末から芸能活動を休止していました。
その間、テレビやラジオなど表舞台から姿を消し、約1年10カ月にわたり沈黙が続いていました。
転機となったのは、2024年12月に配信されたインタビューです。そこで松本さんは、復帰の場を従来のテレビ番組ではなく、「ダウンタウンチャンネル(仮)」という独自プラットフォームで構想していることを明かしていました。
この構想が、2025年秋になって具体的なサービスとして一気に動き出します。
「DOWNTOWN+」誕生までの流れ
所属事務所の吉本興業は、お笑いコンテンツの制作費をまかなうためのファンドを設立し、企業からの出資を受けて数十億円規模の資金を調達しました。
この資金を元手に、ダウンタウンを中心とした定額制動画配信サービスを2025年夏までに始める方針が示され、準備が進められてきました。
その過程で、相方の浜田雅功さんは2025年3月以降、体調不良を理由に休養に入ります。
コンビとして2人そろっての復活は先送りになったものの、松本さん単独でプロジェクトを前に進める形となりました。
- 2025年8月20日:吉本興業が「ダウンタウンチャンネル(仮)」を11月1日に開始すると発表
- 2025年10月2日:正式名称を「DOWNTOWN+(ダウンタウンプラス)」と発表
- 2025年10月24日:公式サイトで申し込み受付スタート
- 2025年10月31日:専用アプリの配布を開始
- 2025年11月1日:配信サービス本格スタート、生配信「LIVE+」を実施
加入者50万人超え 異例のスタートダッシュ
「DOWNTOWN+」は、サービス開始前から大きな関心を集めていました。受け付け開始からわずか20日間で、加入者数が50万人を突破したと報じられています。
月額1,100円・年額11,000円という料金設定にもかかわらず、このペースで登録者が増えたことは、ダウンタウンの根強い人気と、松本さんの“復活の場”に対する期待の大きさを物語っています。
サービス初日、2025年11月1日の生配信は、配信開始と同時にX(旧Twitter)のトレンドでも「#ダウンタウンプラス」が1位になるなど、ネット上を席巻しました。
ファンからは「声が聞けた」「ナマ松本人志2年ぶりは衝撃」といったコメントが相次ぎ、約1年10カ月ぶりの姿に多くの反響が寄せられました。
初回生配信で語られた「復活」と「感謝」
初回コンテンツとなったのは、生配信番組「LIVE+」です。
スタジオには、年額プラン会員の中から抽選で選ばれた観客が招待され、観客席から温かい拍手が送られるなかで松本さんが登場しました。
配信の冒頭、松本さんは「松本、動きました」と第一声を発し、「日本のお笑いがしんどいと聞きまして、私、復活することにしました」と、らしい言葉で復帰を宣言しました。
その表情には、約1年10カ月ぶりに観客の前に立つ緊張と安堵がにじんでいたと伝えられています。
さらに松本さんは、
「テレビスタッフにもすごく迷惑をかけたと思うし、これ以上迷惑をかけられない。だからこそ、この場を作った。」
と語り、あえてテレビではなく自らのプラットフォームを選んだ理由を説明しました。
裁判の行方も含め社会的な視線が厳しい中で、地上波への即時復帰ではなく、自分の責任でコントロールできる場所から始める――その決断の背景には、テレビ関係者への配慮と、自身への批判も引き受ける覚悟がうかがえます。
同時に、
「この場を芸人が自由に発信できる場にしたい」「そんな人もいっぱい出られるようなプラットフォームができたと思っている。今、僕が思うのは感謝です」
と語り、DOWNTOWN+を「自分だけの復帰の場所」ではなく、芸人たちが自由に挑戦できる場として育てていきたいという思いも明かしました。
DOWNTOWN+のサービス内容と特徴
「DOWNTOWN+」は、ダウンタウンや松本人志さんに関連するコンテンツを中心に配信する有料の定額制サービスです。
月額または年額の料金を支払うことで、配信作品を見放題で楽しむことができます。
主な特徴として、次のような点が挙げられています。
- ダウンタウン、松本人志、関連芸人によるオリジナル企画・新作番組を配信
- 一部の過去番組やダウンタウン関連作品も順次アーカイブ配信予定
- 月曜には過去作品、水曜・金曜には新作を更新する編成
- 月1回、松本人志による生配信を実施
- スタジオ観覧に会員抽選で招待される企画も用意
生配信では、視聴者コメントとのやり取りなども取り入れながら、従来のテレビバラエティとは違った距離感で笑いを届けることを目指しているとされています。
松本さんは、この場を「お笑いの自由空間」と表現し、芸人がテレビの枠組みに縛られず、新しい発想に挑戦できるフィールドにしたい考えです。
「簡単に活動する場を追い落としていいのか?」 古市憲寿氏の視点
こうした松本さんの復帰とDOWNTOWN+のスタートについては、メディアやコメンテーターの間でも議論が起きています。
社会学者の古市憲寿さんは、テレビ番組で松本さんの活動再開に触れ、「簡単に活動する場を追い落としていいのか?」という趣旨のコメントを述べたと報じられています(東スポWEB報道による)。
ここには、問題を起こした、あるいは批判を受けたタレントの“復帰のあり方”に対する、より広い社会的な問いも含まれています。
古市さんの発言は、「一度批判を受けた人物に対して、社会はどこまで活動の場を制限すべきなのか」というテーマにつながるものです。
裁判が続く中での復帰に違和感を持つ人もいれば、法的な決着を待たずに“存在そのもの”を排除する風潮に疑問を抱く人もいます。
松本さんがテレビではなく自前の配信プラットフォームを選んだことは、そうした議論の真ん中に立つ選択といえるでしょう。
「天才」「気持ち悪い」――賛否を呼ぶ最新企画と配信ならではの攻め方
DOWNTOWN+で展開されている最新企画の中には、ネット上で「天才」と絶賛される一方、「気持ち悪い」と拒否反応を示す声も出るような、際どいアイデアもあると伝えられています。
詳細な企画内容は記事によって異なりますが、従来の地上波バラエティでは放送コードやスポンサーの意向から難しかったような表現に挑戦していることが、賛否の背景にあります。
配信プラットフォームは、視聴者が自らお金を払ってアクセスする場所という性質上、「見たくない人は見ない」という切り分けがテレビよりもしやすいメディアです。
その代わり、表現の責任はより直接的に制作者・出演者自身に返ってくることにもなります。
この環境を生かし、ギリギリの笑いや実験的な企画に踏み込むことで、「天才的な攻め方」と「気持ち悪さ」が紙一重で共存するコンテンツが生まれている、と言えるでしょう。
ネット配信と地上波バラエティの「道が分かれた」2025年
DOWNTOWN+の始動は、単に一人の人気芸人の復活にとどまらず、「お笑いがどこで、どう届けられるのか」という構造の変化を象徴する出来事として見られています。
これまで、日本のお笑いの主戦場は長らく地上波テレビでした。
しかし近年は、YouTubeや各種動画配信サービス、サブスクリプション型の専門チャンネルなど、笑いを届ける場が多様化しています。
2025年にダウンタウンほどの象徴的存在が、地上波ではなく独自配信サービスを復帰の軸に選んだことは、「ネット配信と地上波バラエティの道が分かれた」と表現されるほど、大きな意味を持ちます。
- テレビ:マスメディアとして、家族や幅広い世代が“なんとなく一緒に見る”場
- 配信:ファンが能動的にアクセスし、対価を払って“好きな笑いを選び取る”場
DOWNTOWN+は、この「選び取る笑い」の代表例として立ち上がりました。
そこでは、表現の自由度やファンとの距離感、収益モデルまで、テレビとはまったく異なるルールが働きます。
今回の動きによって、今後ほかの人気芸人たちが同様の自前プラットフォームを志向するのか、それともテレビとのハイブリッドを模索するのか――お笑い界全体の流れにも影響を与える可能性があります。
「伝説の音楽番組」復活への期待も DOWNTOWN+が背負う“記憶”
DOWNTOWN+の加入者が急増する中で、芸能界からは「伝説の音楽番組の復活配信」への期待も語られています。
ダウンタウンはこれまで、音楽とバラエティを掛け合わせた人気番組を数多く手がけてきました。
そうした番組が権利関係などをクリアしたうえで、DOWNTOWN+でアーカイブ配信されるのではないか、という“待望論”が生まれているのです。
実際、サービスの案内でも、ダウンタウン関連の過去作品を一挙配信・順次配信していく方針が示されています。
視聴者にとっては、かつての深夜バラエティや音楽番組を再び楽しめる場になるかもしれませんし、若い世代にとっては「伝説」とされる番組を初めて体験できる機会にもなります。
懐かしいコンテンツの“再会”に加え、新作との見比べによって、「ダウンタウンの笑いがどう変わり、どう変わっていないのか」を感じ取ることもできるでしょう。
この「過去」と「現在」が一つのサービスの中で交わる点も、DOWNTOWN+ならではの魅力となりつつあります。
「場」をめぐる議論と、お笑いファンに突きつけられた問い
松本人志さんの復帰とDOWNTOWN+の成功は、多くの人が待ち望んだ一方で、依然として賛否を含んだ複雑な感情を呼び起こしています。
古市憲寿さんの「簡単に活動する場を追い落としていいのか?」という問題提起が象徴するように、「誰に、どの程度の発信の場を認めるのか」という、社会全体の価値観が問われているからです。
お笑いは、しばしば“空気を変える存在”として、社会のタブーに触れたり、ギリギリの線を探ったりしてきました。
DOWNTOWN+で展開される企画が「天才」と「気持ち悪い」の間を揺れ動くのは、お笑いが本来持っている大胆さと危うさを、配信という形でさらに先鋭化させているからかもしれません。
視聴者は、単に「面白かった・面白くなかった」と評価するだけでなく、自分はどこまでの表現を許容できるのか、どんな背景を知った上で笑いを受け取るのかを、改めて考える局面に立たされています。
いずれにせよ、「ダウンタウン」が自らの名前を冠した「DOWNTOWN+」という場を立ち上げたことは、日本のお笑い史にとっても大きな節目となりました。
ここから生まれてくる新たな企画や、過去作品の再評価、そしてそれを受け止める私たちの反応のひとつひとつが、これからのお笑いの形を少しずつ形づくっていくことになりそうです。



