300万本のインディーゲームヒットメーカーが語る、Steam時代の限界と新たな挑戦 ― CEDEC2025実況レポート

はじめに ― CEDEC2025に集まったゲーム業界の今

ゲーム業界は日進月歩で進化していますが、2025年に入ってもインディーゲームの可能性と課題は世界中で注目されています。今年も最先端のゲーム制作技術や事例が語られるカンファレンス「CEDEC2025」が盛況のうちに開催され、多くの開発者や関係者が見守る中、インディーゲーム界を代表するプロデューサーが登壇しました。

登壇者は、過去に300万本を売り上げた実績を持つインディーゲームプロデューサー。その実体験から語られるインディーゲームの“理想と現実”、そしていまSteamで感じる“限界”についての発言に、多くのメディアとSNSが大きく反応しています。本記事では、その講演内容や取り上げられた具体的なゲーム「Berserk or Die」の制作秘話、パブリッシングにまつわるエピソードを分かりやすくまとめてご紹介します。

Steamで輝いたヒット作、しかし見えてきた“プロデュースの限界”

  • インディーゲーム シーンの盛り上がり

    Steamでは2020年代中盤にかけて個性豊かなインディーゲームが数多く登場し、ヒット作が次々と生まれました。その象徴ともいえるのが、柴田直氏率いるの作品群です。直近では、PC向けアクションゲーム「Berserk or Die」が登場。数百万本規模の実績を誇るプロデューサーが手掛けた新作として大きな話題に。

  • 300万本ヒット作品の裏側

    登壇したプロデューサーの実績はまさに輝かしいもの。特に一作で300万本というセールスは、国産インディーゲームとしても特筆すべき数字です。インディーだからこそ光るアイディア勝負のゲームが世界でも受け入れられ、いわば“個人や少人数だからこそできる挑戦”が支持された時代背景もありました。

  • しかし、Steamでは新たな壁も

    そんなプロデューサーですら「もうSteamでは今までのプロデュース方法では限界かもしれない」と語ります。その背景には、Steamプラットフォーム内の競争激化、期待値のインフレ、ユーザー層の多様化といった環境変化が挙げられます。ただ作りたいものを作るだけでは届かず、新たな販売戦略やマーケティングが不可欠になってきていると警鐘をならします。

新たなヒット「Berserk or Die」とponcleとの出会い

2025年6月にSteamでリリースされた「Berserk or Die」は、米英欧を中心にPCゲーマーから高い評価を獲得。プレイヤーは戦場に取り残された兵士となり、左右から押し寄せる敵を独自の“キーボード連打”操作でなぎ倒す爽快アクションが最大の魅力です。同時にキーを押せば押すほど攻撃範囲が広がり、華麗な必殺技も発動できます。アクセシビリティ設定も豊富で、コア層からカジュアル層まで幅広く楽しめる点も高い評価を得ました。

元々この作品は「Last Standing」という仮タイトルで2024年1月に開発がスタート。BitSummit Drift 2024での出展をきっかけに英国poncleのルカ・ガランテ氏と出会い、予期せぬパブリッシング契約へと発展。ぱっと見は画像制作依頼と考えていた柴田氏に対し、ルカ氏はその場で具体的なパブリッシング条件を提示。「デベロッパ支援」の色が極めて強い好条件だったことが、ゲーム制作の後押しにつながったと言います。

リリース後は2週間で1万ドルの売上を達成。ゲームバランス調整にもponcle側の提案が多く取り入れられ、“協働”による作品ブラッシュアップが国内外の評価に直結しました。

Steam時代の厳しさと、これからのインディーゲームプロデュース

  • 競争環境の過熱

    Steam上でのヒットは夢のあるものですが、一方で1日に数十本単位で新作が投下される現状では、埋もれてしまうリスクが急増しています。「BitSummit」や「The PC Gaming Show」など展示会でメディアにフックされる幸運も不可欠となり、リリースタイミングや話題作りも重要なファクターです。

  • セルフパブリッシングの悩み

    インディー開発者にとって最大の武器であった「セルフパブリッシング」も、新作の競争やマーケティングコスト、広報活動の困難さが増し、単独で突破するのが難しくなっています。柴田氏も当初は自己流でやろうとしましたが、「何か違う」と感じて委ねたのがponcleという存在でした。

  • パブリッシャーとの協働のメリット

    パブリッシャーとの化学反応により作品の磨き上げや販売戦略が一段進化。Berserk or Dieでのponcleとの協力がその好例ですが、“ただ作るだけ”ではなくいかに見つけてもらうか海外展開や多言語対応など「届ける力」も重視される時代となっています。

BitSummitやThe PC Gaming Showでの受賞とそのインパクト

日本最大級のインディーゲームイベントである「BitSummit」で、開発初期の段階から高い評価を獲得した本作は、その後「The PC Gaming Show」での大々的なプロモーションも成功。ここから世界規模での認知が一気に拡大し、「おもしろさ」はもちろん、その“尖った体験”に多くのメディアが注目しました。

国内メディアだけでなく、多くの海外ゲームメディアやYouTubeなどでも取り上げられ、SteamコミュニティやX(旧Twitter)での盛り上がりが加速。コミュニティサポートの手厚いパブリッシャーの存在も、これからのインディー成功の鍵になることを裏付けています。

ゲーム開発現場のリアル ― アイデアからリリースまで

  • アイディア重視からバランス重視へ

    初期段階では“パッと3~4ヶ月でセルフパブリッシング”の予定だったものが、SNSやメディアでの反響を経て、より作り込み重視に舵を切ります。即応性と市場とのリアルタイムな対話が、現代のゲーム開発現場ならではの動きです。

  • ビジュアル・バランス調整の両立

    ユニークなゲーム体験を演出するため、ドット絵の美術クオリティ向上や、繰り返し遊んでも飽きさせないバランス調整に多くの時間が注がれました。その中でパブリッシャー側からの助言や、実際のバージョンアップによる改善が競争力を強化しています。

インディーゲームの現在地と未来像

300万本タイトルを支えた“作り手の情熱”と“プラットフォームの変化”の攻防は、今も続いています。ゲーム業界の環境変化は日々激しく、Steamのみならず、Epic Games Storeやコンシューマー移植、クラウドゲーミングなど”発表の場”は広がり続けています。

今後もパブリッシャーやコミュニティとの共創、さらにはAI・最新テクノロジーとの融合を経て、インディーゲームの多様な可能性が生まれることでしょう。「届けたい相手に、最適な方法で」を模索する開発者たちの奮闘から目が離せません。

最後に、インディーゲームの魅力・面白さがどんなに時代が変わってもプレイヤーと開発者をつなぐ原点であることを、多くの人が再確認する場となったCEDEC2025。しかし新たな壁の出現は、創造の火をさらに強く燃やす要因にもなっています。

今後の展望 ― “個”と“世界”の狭間で新しいゲーム体験を

Steamの限界を語ったヒットメーカーですが、逆境こそが発明と突破のチャンス。会場でも、次世代のインディーゲームが続々と展示・発表されていました。

インディーゲームの醍醐味は、作り手の声や個性がゲームに色濃く反映されることにあります。大量リリースやマーケティングの波に揉まれながらも、新しい発想を持ったゲームが毎年登場する理由はここにあります。CEDEC2025で示された成功と課題を手がかりに、また新たなインディーゲームが私たちの心を揺さぶる日が訪れることでしょう。

参考元