AIがよみがえらせる「渡る世間は鬼ばかり」――“AI橋田壽賀子”とは何者か

国民的ドラマ「渡る世間は鬼ばかり」が、令和の時代に「AI橋田壽賀子」として帰ってきます。BS-TBSは、2025年12月20日・21日に「AI橋田壽賀子 渡る世間は鬼ばかり 令和版」を放送すると発表しました。約6年ぶりの新作となる本作は、すでに放送された第1弾に続くAI活用プロジェクトの第2弾として大きな注目を集めています。「AI橋田壽賀子」ってどういう仕組みなの?という素朴な疑問から、YouTube配信で話題となった新作の反響、そして第2弾でより「橋田脚本」らしさを高める工夫まで、やさしく解説します。

「AI橋田壽賀子」とは? 仕組みをやさしく解説

「AI橋田壽賀子」とは、脚本家・橋田壽賀子さんの膨大な脚本をもとに、AIがその作風や人物像、セリフ回しの特徴などを学習し、「もし橋田さんが今も生きていたら、どんな物語を書くだろうか」を追究するプロジェクトです。第一弾から技術協力しているABeja(ABEJA)は、橋田文化財団と連携し、多数の「渡る世間は鬼ばかり」の脚本をデータ化。そのうえで、

  • 登場人物のキャラクター像
  • 人物同士のコミュニケーションの取り方
  • セリフ独特の言い回し
  • 話の展開や構成のパターン

といった、これまで人間の感覚に依存していた「橋田ドラマの暗黙知」を細かく抽出し、AIモデルに学習させました。 その結果、AIは橋田作品特有の「長回しの会話劇」や「家族同士の本音ぶつけ合い」「説教されているのにどこかほっとするセリフ」などを再現しやすくなっています。

とはいえ、AIがすべてを自動で書いているわけではありません。第2弾となる「令和版」では、AIが生成した脚本案をもとに、人間の脚本家や制作スタッフが内容を調整し、セリフのニュアンスやエピソードの流れを磨き上げています。 つまり、

  • AIが「橋田らしさ」を忠実に再現したたたき台を書く
  • 人間が、現代の価値観や視聴者感覚に合わせて微修正する

という「AIと人間の協働」で作られたドラマなのです。

第1弾「番外編」から第2弾「令和版」へ ― どこが進化したの?

2025年5月には、橋田壽賀子さん生誕100年を記念した特別番組「AI橋田壽賀子企画 渡る世間は鬼ばかり 番外編」が放送されました。 ここで初めて「AI橋田壽賀子」が脚本に挑戦し、

  • 「もし今も橋田先生が生きていたら、現代の家族をどう描くか」
  • 令和の価値観と昭和の家族観がぶつかる親子の葛藤

といったテーマが描かれました。AI脚本という新しい試みに、放送当時から「本当に橋田先生の新作みたい」「セリフが“らしい”」と話題になった一方、「キャラクター同士の距離感」や「微妙な感情の揺れ」をさらに深めてほしいという声もありました。

今回の第2弾「令和版」では、そうした課題を受け、

  • 登場人物同士の距離感や関係性の変化
  • 家族ならではの“甘え”や“遠慮”のグラデーション

といった部分をより細かくAIに学習させることで、「より橋田脚本らしく」なるよう改良が加えられています。 AIは単にセリフの文体を真似るだけでなく、「どのタイミングで誰が本音をぶつけるのか」「誰が仲裁に入るのか」といった人間関係のダイナミクスもデータとして取り込んでいます。これにより、視聴者が長年親しんできた「渡鬼らしい空気感」に、さらに近づけることを目指しているのです。

「渡る世間は鬼ばかり 令和版」あらすじ ― 令和の“幸楽”と“おかくら”の今

「AI橋田壽賀子 渡る世間は鬼ばかり 令和版」は、コロナ禍を乗り越えた後の世界が舞台です。 2019年9月の3時間スペシャル以来、約6年ぶりに「渡鬼」のレギュラーメンバーが集結し、あの家族たちの“今”が描かれます。

田口家と「幸楽」の今

舞台は、まずおなじみの中華料理店「幸楽」から始まります。田口愛(吉村涼)と田口誠(村田雄浩)は、コロナ禍をなんとか乗り越え、忘年会シーズンに向けて忙しい日々を送っています。 大学生になった娘のさくら(安藤美優)も、ときどき店を手伝いに来ています。

そんな中で浮上するのが、義母・久子の「ある決断」。その決断をめぐって、愛は強く反発し、久子に理解を示そうとする誠に激怒。夫婦の間に大きな亀裂が生まれ、大喧嘩に発展してしまいます。「親の老い」「夫婦の役割分担」「嫁と義母の距離感」といった、誰にとっても他人事ではないテーマが、AI脚本によって再び浮かび上がります。

大原家と仕事・子育ての両立

一方、大原葉子(野村真美)の家でも問題が起きています。 夫の透は海外に長期出張中で、葉子は建築士として多忙な日々を送りながら、中学生の双子の姉妹・ゆき(高橋寧音)とみき(高橋乃愛)を育てています。

ところがある時期から、妹のみきの帰宅が急に遅くなり、葉子の不安は募るばかり。仕事と子育ての両立に悩みながら、娘たちの本音にどう向き合うのか――令和のワーキングマザーの葛藤が丁寧に描かれます。ここにも、「放っておくのも愛情」「口出しするのも愛情」という、橋田ドラマらしい視点がAIによって再構成されています。

本間家に降りかかる試練

さらに、長子(藤田朋子)の本間家にも大きな試練が訪れます。 夫・本間英作(岡田浩暉)のクリニックの手伝いと、娘・日向子(大谷玲凪)の料理教室を支えながら、長子は相変わらず家族のために奔走しています。

しかし、忙しさが増した英作は過労気味に。英作の妹・由紀(小林綾子)は、「長子も無理をしているのでは」と心配を募らせます。 そんな矢先、英作が仕事中に突然倒れてしまうのです。 支え合っているようで、どこか無理をしてしまう夫婦。そのバランスが崩れたとき、家族はどう向き合うのかが描かれます。

これらのエピソードは、すべてクリスマス目前の時期に起こります。 互いを想うがゆえにすれ違う家族たちは、再び笑い合うことができるのか――試練を越えた先にある家族の絆を、AIと人間の協働による脚本が温かく見つめます。

懐かしのキャストと成長した子役たち ― 視聴者が驚いた「顔ぶれ」

今回の「令和版」の大きな魅力は、なんといってもおなじみのキャストが再集結していることです。2025年12月20日・21日の放送では、前作「番外編」に出演した

  • 吉村涼(田口愛役)
  • 村田雄浩(田口誠役)
  • 安藤美優(田口さくら役)

に加え、

  • 中田喜子
  • 野村真美
  • 藤田朋子
  • 角野卓造

といったレギュラーメンバーが勢ぞろいします。 2019年の3時間スペシャル以来、約6年ぶりの「渡鬼」ということもあり、長年のファンにとってはまさに「おかえりなさい」と言いたくなる顔ぶれです。

さらに話題となっているのが、子役たちの成長ぶりです。かつて“子ども”として登場していたキャラクターたちが、令和の物語では大学生や中学生となり、家族の中で「親に本音をぶつける側」に回っている姿に、視聴者からは「時の流れを感じる」「自分の子どもと重ねてしまう」といった声が上がっています。

また、料亭「おかくら」の“現在”にも注目が集まっています。長年、家族のドラマが交錯してきた「おかくら」が、令和の時代にどのような場所として描かれるのか。経営のあり方や客層の変化など、時代の移り変わりがどんな形で表現されるのかも見どころのひとつです。

YouTube・SNS配信で若い世代にも大反響

今回の「AI橋田壽賀子 渡る世間は鬼ばかり 令和版」は、テレビ放送に先駆けてBS-TBS公式SNSYouTubeでも関連コンテンツが配信され、大きな反響を呼んでいます。BS-TBS公式チャンネルでは、新作ドラマの紹介動画が公開され、プロジェクト第2弾としての位置づけや、AIと人間が協働して作り上げたことがわかりやすく説明されています。

また、本編の一部やダイジェストがSNS上に順次配信されることで、従来の地上波・BS視聴者だけでなく、YouTubeでドラマを知る若い世代にも作品が届き始めています。 「親が見ていたドラマを、AIが令和版で復活させたと聞いて興味を持った」「昔は一緒にテレビで見ていたけれど、今はスマホで“渡鬼”を見ることになるとは」といった声も多く、親子二世代で楽しめるドラマとして、新たな広がりを見せています。

ABejaは、今回のプロジェクトの目的を、「橋田ドラマの特徴をデータとして残し、文化・作品の継承に役立てること」と説明しています。 これは、単に「懐かしいドラマをAIで復活させる」だけでなく、「名脚本家の作風を次の世代へ伝える」試みでもあります。デジタルアーカイブとAI技術が組み合わさることで、視聴者は再び「渡る世間は鬼ばかり」の世界を味わうことができているのです。

AIと人間の“協働”が描く、変わらない家族ドラマ

BS-TBSは本作について、「コロナ禍を経たそれぞれの家族の『今』の心を、もし橋田壽賀子先生が生きていたらどうドラマに描くのか。AIと人間の協働で作り上げる『渡る世間は鬼ばかり 令和版』にご期待ください」とコメントしています。 AIはあくまで「橋田先生の作風を学んだパートナー」であり、最終的な表現は人間の作り手が責任を持って仕上げる――そのスタンスが、作品全体の温かみを支えています。

ドラマの中で描かれるのは、

  • 親の老いと介護への不安
  • 働く母親の葛藤
  • 夫婦の役割分担とすれ違い
  • 子どもの自立と親の寂しさ

といった、いつの時代も変わらない家族のテーマです。ただしそこには、コロナ禍を経験した令和の価値観や、共働き・グローバル化・SNS時代といった新しい生活背景が織り込まれています。 そうした「今のリアル」を、橋田壽賀子さんの目線でどう切り取るのか――その問いに、AIと人間が一緒に答えたのが今回のプロジェクトだと言えるでしょう。

「渡る世間は鬼ばかり」というタイトルには、「世間は厳しいが、人の情けもまたそこにある」という意味が込められてきました。令和の時代も、仕事、家族、人間関係は決して楽ではありません。それでも、誰かを思いやる気持ちや、小さな“ただいま”“おかえり”の積み重ねがあれば、人はきっと前を向いて生きていける――

そうした変わらないメッセージを、最新のAI技術とともにもう一度届けようとする「AI橋田壽賀子」。懐かしさと新しさが同居するこの試みは、ドラマ制作のあり方だけでなく、文化の継承の形にも新しい可能性を示しています。

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