紅白初出場「aespa」を巡る“きのこ雲ランプ”騒動とは

韓国のガールズグループaespa(エスパ)が、今年の「NHK紅白歌合戦」に初出場することをめぐり、日本国内で大きな議論が起きています。きっかけは、メンバーがSNSに投稿した「きのこ雲」の形を連想させるランプの写真で、一部から「原爆を想起させるのではないか」という批判の声が上がったことです。この投稿は、紅白出場決定のタイミングとも重なり、NHKの判断や演出方針、さらには日中・日韓関係にまで話題が広がっています。

この記事では、「きのこ雲ランプ」投稿がなぜ問題視されたのか、その背景と経緯、NHKや所属事務所の対応、日本社会の受け止め方、そして今後に向けた課題を、できるだけ分かりやすく丁寧な言葉で整理してお伝えします。感情的な賛否だけでなく、歴史的・文化的な背景や、国際的なポップカルチャーの広がりも踏まえながら、このニュースの意味を考えていきます。

aespaとはどんなグループ?

aespaは、韓国の大手事務所に所属する4人組ガールズグループで、韓国・中国・日本出身のメンバーで構成された多国籍グループです。デビュー当初から「仮想世界(メタバース)」の世界観や映像表現を取り入れたコンセプトで注目され、K-POP第4世代を代表する存在の一つとして世界的な人気を獲得してきました。

日本では、楽曲リリースやライブ、フェス出演などを通じて若い世代を中心にファン層を広げており、東京ドーム公演の開催など、実績と知名度をしっかり積み上げてきました。その中で今回、長年多くのアーティストにとって「夢の舞台」とされてきたNHK紅白歌合戦への初出場が決まり、日本の音楽シーンにおける存在感の大きさが改めて示された形です。

問題となった「きのこ雲ランプ」投稿の内容

今回の騒動の発端は、aespaの中国人メンバー・NINGNING(ニンニン)がSNSに投稿した、卓上ランプの写真でした。写真に映っていたのは、上部が丸く膨らみ、下部が細くくびれた形をしたオブジェ風のランプで、そのシルエットが原爆投下の際に上がる「きのこ雲」を思い起こさせると指摘されました。

投稿のキャプションには、このランプを「かわいいライト」といったニュアンスで紹介するような文言が添えられていたとされ、その表現が「原爆被害を軽んじているのではないか」「被害者への配慮が欠けているのではないか」と、一部の視聴者やネットユーザーの怒りや不安を呼び起こしました。特に、日本にとって原爆被害は今も多くの人にとって極めてセンシティブな記憶であり、「可愛い」という言葉と結びついたことが、強い違和感として受け止められた面があります。

海外販売サイトで「人気商品」とされる背景

問題のランプは、海外のインテリア・雑貨系のオンラインショップなどで、いわゆるデザイン雑貨やユニークな照明として販売されているとされています。商品説明でも、雲や爆発、アートオブジェをモチーフにした「ユニークなライト」として紹介され、ポップカルチャー的なアイテムとして人気を集めている面があるようです。

こうした海外の商品は、製造・販売の段階で必ずしも「原爆」や「核兵器」の歴史的文脈を前提にしておらず、「雲」「爆発のエフェクト」「ゲームや映画に出てきそうなビジュアル」など、視覚的なインパクトのみでデザインされている場合も少なくありません。そのため、利用者側も「かわいい」「おもしろい」といった軽い感覚で購入・投稿している可能性が高く、歴史認識や戦争被害への配慮が十分に共有されていないギャップが、今回の騒動の一因になったと考えられます。

NHKのガイドラインと紅白出場判断

今回の問題を受けて、NHKは国会での質疑を含め、紅白出場アーティストの選定基準やガイドラインについて説明する場を持つことになりました。NHKは、紅白の出場者について「その年の活躍」「世論の支持」「番組の企画・演出にふさわしいか」という複数の観点から総合的に判断していると説明しています。

また、問題となった投稿については、所属事務所側に確認したうえで、当該メンバーに原爆被害を揶揄する意図はなかったと理解しているとしています。そのうえで、現時点ではaespaの紅白出場予定に変更はなく、出演を取り消すことは考えていないという姿勢を示しており、批判の声と番組制作上の自主判断との間で、難しい舵取りを迫られている状況です。

「説明文の矛盾」と指摘されたNHKの対応

一部メディアは、NHKがaespaの紅白出場の経緯を説明する中で、問題のランプ投稿に関する説明に矛盾や曖昧さがあるのではないかと指摘しています。たとえば、「ただの可愛いライトとして紹介していた」といったニュアンスの説明が、原爆を想起させる形状であることへの認識や配慮の有無とどう整合するのか、という点が論点になりました。

この点については、「投稿時点では本人に歴史的なイメージへの意識が乏しかったのか」「周囲のチェック体制はどうなっていたのか」「問題が指摘された後にどのような説明と対策が取られたのか」といった具体的な情報が、視聴者に十分に伝わっていないことも、不信感やモヤモヤを生む一因となっています。情報発信側が、単に「意図はなかった」とだけ述べるのではなく、その裏付けとなる説明や再発防止策まで丁寧に伝えられるかどうかが、今後の信頼回復にとって重要なポイントと言えます。

ネット署名12万超、出場反対の動き

騒動が拡大する中で、インターネット上では「aespaの紅白出場に反対する」ことを趣旨とした署名運動が立ち上がり、短期間で12万件を超える署名が集まったと報じられています。この数字は、問題を深刻に受け止めた人々が決して少なくないことを示しており、特に被爆地・広島や長崎にゆかりのある人々、戦争体験を家族から聞いている世代などにとっては、看過できない問題として受け止められています。

署名に参加した人たちの間では、「被爆国として、原爆を連想させる表現にもっと敏感であるべきだ」という意見や、「謝罪や説明が不十分なまま、大型音楽番組に起用するべきではない」といった声が目立ちます。一方で、「意図がなかったのであれば、教育と対話で解決を図るべきだ」「個人を過度に攻撃するのは違う」といった意見もあり、社会全体としてどう向き合うべきか、議論が分かれています。

NINGNING個人への批判と日中関係への飛び火

今回の問題は、aespaの中でも特に中国出身メンバーであるNINGNINGに批判が集中する形となりました。そのことから、一部では「日中関係」や「中国の歴史認識」といった政治的な文脈と結びつけて語られるようになり、SNS上では、文化的な議論を超えて、国同士の対立感情を刺激するような投稿も見られるようになっています。

しかし、本来K-POPグループは多国籍メンバーで構成されることも多く、エンターテインメントを通じて国境を超えた交流を促す存在でもあります。その中で、特定の国籍のメンバーだけを過度に攻撃したり、国全体の問題と短絡的に結びつけたりすることは、問題の本質を見誤る危険性があります。今回問われているのは、「歴史的に重い意味を持つモチーフを、グローバルなポップカルチャーの中でどう扱うか」という点であり、個人攻撃や国同士の対立に矮小化してしまうと、建設的な議論から遠ざかってしまいます。

「表現」と「歴史認識」のギャップ

今回の「きのこ雲ランプ」問題は、グローバルに流通するデザインや表現が、国や地域によって全く異なる意味合いを持つという典型的な例でもあります。例えば、ある国では単なる「インパクトのあるビジュアル」として消費されているモチーフが、日本では戦争被害や核兵器の悲惨さを象徴する記憶と深く結びついており、「おしゃれ」「かわいい」といった軽い言葉では扱えない、重い歴史的意味を帯びていることがあります。

SNS時代には、このような表現が国境を簡単に飛び越えて共有されるため、発信者自身が意図していなくても、受け手の側で深刻な傷や怒りを呼び起こしてしまう可能性があります。「意図がなかったから問題ない」とするのではなく、「なぜ相手が傷ついたのか」を知ろうとする姿勢と、「知らなかったからこそ、次からはもっと配慮する」という学びの過程が重要です。同時に、受け手の側も、即座に人格や国籍を否定するのではなく、説明や対話の余地を残した批判の仕方を模索する必要があります。

NHKと事務所・アーティストに求められる対応

今回の騒動への対応として、NHKには、出場者選定のプロセスやガイドライン、問題が起きた際の検証体制などを、より透明性をもって示すことが求められています。特に紅白歌合戦は、公共放送が制作する国民的番組であり、多様な視聴者が安心して楽しめる場であることが期待されています。その意味で、歴史や社会問題に関わるセンシティブな表現については、事前のチェックや事後の説明において、民放以上に丁寧さが必要だと考える人も少なくありません。

一方、所属事務所やアーティスト側にも、今回の経緯をしっかりと振り返り、誤解や傷ついた人々への配慮をどう示すかが問われています。単に「意図はなかった」と言葉で伝えるだけでなく、「今後、歴史的に敏感なテーマにどう向き合うか」「どのように学びを共有していくか」といった姿勢が見えれば、少しずつでも信頼回復につながる可能性があります。

視聴者・ファンにできること

視聴者やファンにとっても、このニュースは「エンタメを楽しむ側」としてどのような態度を取るかを考えるきっかけになります。怒りやショックを覚えた人が、その感情を表明すること自体は自然なことですが、その際に、特定の個人を人格否定したり、差別的な言葉で攻撃したりしないことが重要です。冷静な言葉で意見を伝えることや、署名・要望などの手段を通じて、制度や運営に対して改善を求めていくことは、民主的な手続きとして意義があります。

また、ファンの側からも、「なぜ日本でこの表現が問題視されるのか」「原爆や戦争被害の歴史をどう学ぶか」といった点に目を向けることで、推しグループをめぐる出来事を、単なる「炎上」ではなく、自分自身の学びや対話の入り口に変えることができます。エンターテインメントは、人を楽しませるだけでなく、時に社会や歴史について考えるきっかけも与えてくれるものです。

国際的なポップカルチャーと記憶の継承

K-POPをはじめとする国際的なポップカルチャーは、国境や言語の壁を越えて多くの人をつなぎ、共通の話題や楽しみを提供してくれます。一方で、その広がりゆえに、各国・各地域の歴史的な経験や「痛み」とぶつかる場面も増えていきます。今回のaespaを巡る問題は、そうした「グローバルなエンタメ」と「ローカルな記憶」が衝突した事例の一つだと言えます。

被爆体験を直接知る世代が少なくなる中で、原爆や戦争の記憶をどう継承していくかは、日本社会全体の課題です。同時に、世界の人々と文化を共有し合う時代において、自国の歴史や価値観を一方的に押しつけるのではなく、互いに学び合い、相手の背景も理解しようとする姿勢が求められます。aespa騒動を通じて浮かび上がったのは、単なる「一人の投稿の問題」ではなく、そうした大きなテーマでもあります。

今後の紅白とエンタメの課題

今回のニュースを受けて、今後の紅白歌合戦の演出や出演者選定においても、「多様性」と「歴史への配慮」をどう両立させるかが、より強く問われていくことになりそうです。海外アーティストの起用が増える中で、単に人気や話題性だけでなく、文化的背景や表現に対する感度も含めた総合的な判断が欠かせません。

同時に、視聴者側も「完璧な存在」を求めすぎるのではなく、問題が起きたときにどう対話し、どう学び合うかというプロセスを重視することが必要です。aespaの紅白出場を巡る議論は、まだ結論が出たとは言えませんが、この出来事を通じて、日本社会がどのような価値観を大切にし、国際社会とどう向き合っていくのかが、静かに問われています。

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