日本と異なる「イギリスのボーディングスクール」という選択肢
イギリスのボーディングスクール(寮制の学校)は、日本の「学力至上主義」とは一線を画した教育スタイルを持つ学校として、ここ数年とても注目を集めています。
日本の保護者のあいだでも関心が高まっており、「受験」「偏差値」だけにとらわれない学びを求めて、留学先としてイギリスを選ぶ家庭が着実に増えています。
ボーディングスクールとは何か
ボーディングスクールとは、子どもがキャンパス内の寮で生活をしながら学ぶ、全寮制または寮を併設した学校のことを指します。
授業だけでなく、食事・クラブ活動・自習・週末の過ごし方まで、ほぼすべてが学校の中で完結するのが大きな特徴です。
イギリスには長い歴史を持つ名門パブリックスクール(英国式の伝統的な私立校)が多く存在し、その多くがボーディングスクールとして運営されています。
エリート教育の場というイメージがありますが、近年は共学化やカリキュラムの多様化が進み、日本を含む海外からの留学生も数多く受け入れています。
「塾いらず」の学校完結型学習
イギリスのボーディングスクールは、「学校だけで学習が完結する」という点で、日本の一般的な中高一貫校とは大きく異なります。
夕食後には自習時間がきちんと設定され、教員やチューターが寮に来て質問対応をしたり、学習状況をきめ細かく見守ったりする仕組みが整っています。
そのため、日本で一般的な「放課後に学習塾へ通う」というスタイルは必要なく、学校のカリキュラムと寮生活の中で学習と生活が一体化しているのが特徴です。
宿題や試験勉強、進路相談までがすべて学校内で行われるため、保護者が細かく塾や習い事を選ぶ負担が少ないという声も多く聞かれます。
日本の「学力至上主義」との違い
日本の多くの学校では、高校・大学入試に向けたテスト対策や偏差値による序列が重視されがちで、「学力=テストの点数」と捉えられる場面も少なくありません。
一方で、イギリスのボーディングスクールでは、学力はもちろん大切にしつつも、「人格形成」「リーダーシップ」「コミュニケーション能力」など、より幅広い力の育成が重視されます。
授業ではディスカッションやエッセイを書く課題が多く、暗記だけでなく「自分の考えを言葉で伝える力」が繰り返し求められます。
また、スポーツや音楽、演劇、ボランティア活動など課外活動への参加も内申評価や大学出願で重視されるため、「勉強以外に何をしてきたか」も同じくらい問われます。
年間800万〜1000万円超の学費とその内訳
イギリスのボーディングスクールの学費は、年間でおおよそ800万〜1000万円超とされており、日本の私立中高や国内ボーディング校と比べても高額です。
この費用には授業料だけでなく、寮費、食費、学校内の基本的な活動費などが含まれるのが一般的です。
学校によっては、制服・教材費や試験料、課外活動の遠征費、留学生向けサポート費用などが別途必要になるケースもあります。
それでも多くの家庭が選択する背景には、「教育の質」「進学実績」「世界中に広がる人脈」といった、見えにくい価値への期待があります。
高額でも人気が続く理由
高額な学費にもかかわらず人気が続く理由としては、イギリスのボーディングスクールから世界の名門大学への進学ルートが明確に開かれていることが挙げられます。
AレベルやIB(国際バカロレア)といった国際的に評価される資格を学校内で取得できることは、将来の進学やキャリアに直結する大きな魅力となっています。
さらに、学習・生活の両面で生徒一人ひとりをサポートするチューター制度やハウスマスター(寮監)制度が整っており、海外からの留学生にとっても安心できる環境が整備されています。
留学生向けの英語サポートや、大学出願に向けた個別指導なども充実しており、「費用はかかるが、それに見合うサポートがある」という評価がされています。
英国式教育のカリキュラムの特徴
イギリスの中等教育では、GCSE(16歳前後で受ける全国試験)を経て、AレベルやIBなどのカリキュラムに進むのが一般的な流れです。
Aレベルでは3〜4科目に絞って深く学ぶのに対し、IBは6教科を幅広く学びながら論文や課外活動にも取り組む、より総合的なプログラムとなっています。
こうしたカリキュラムは、ただ成績を競うだけではなく、「自分が何を学びたいのか」「どんな進路を選びたいのか」を早い段階から考える教育でもあります。
特にAレベルは、オックスフォード大学やケンブリッジ大学をはじめとする英国の名門大学出願の標準的な資格として扱われており、進学上の強い武器となります。
ボーディングスクールでの1日の生活
ボーディングスクールの1日は、朝の点呼や朝食から始まり、午前〜午後にかけて授業、放課後はクラブ活動やスポーツという流れが一般的です。
夕食後は、寮に戻って「プレップ」と呼ばれる自習時間が設けられ、ここで宿題や課題に取り組みます。
自習時間には教員やチューターが巡回し、質問に答えたり学習の進み具合をチェックしたりするため、「分からないまま放置される」という不安が少ない環境です。
週末には、校外への小旅行やボランティア活動、文化イベントなどが企画されることも多く、生活そのものが学びの場になっています。
寮生活が育てる「非認知能力」
寮生活では、同年代の生徒と24時間近く生活を共にするため、自己管理力や他者への配慮、問題解決力など、テストでは測れない「非認知能力」が自然と鍛えられます。
洗濯や時間管理、部屋の片づけなど、家庭では親が手伝いがちなことも自分でこなす必要があり、自立心が早い段階で育つのも特徴です。
さまざまな国・文化背景を持つ友人との共同生活を通じて、価値観の違いを理解し合う力や、多様性を受け入れる姿勢も身につきます。
こうした経験は、今後ますます国際化が進む社会で生きていくうえで、大きな財産になると考えられています。
日本人家庭から見たメリット
日本の家庭から見ると、イギリスのボーディングスクールには次のようなメリットが挙げられます。
- 英語力とアカデミックスキルを早い段階から本格的に伸ばせること。
- 世界中の名門大学に直接出願できる資格(Aレベル・IB)を取得しやすいこと。
- 学力だけでなく、自立心やリーダーシップ、コミュニケーション能力をバランスよく育てられること。
- 塾通いに依存しない「学校完結型」の学習環境で、保護者の管理負担が比較的少ないこと。
特に、大学進学のステージではなく「中学・高校の段階から海外で学ばせたい」と考える家庭にとって、ボーディングスクールは有力な選択肢となっています。
近年は、日本のインターナショナルスクールや国内ボーディング校と組み合わせて進路を設計するケースも見られます。
日本人留学生の増加という現状
ある調査では、イギリスのボーディングスクールに通う日本人の数は、この10年で約500人増え、2025年時点で1350人超に達したとされています。
以前は、大学進学の段階で初めて海外を目指すケースが主流でしたが、現在は中等教育から海外に出る生徒が着実に増えています。
背景には、日本社会全体で「英語力」や「国際感覚」が重視されるようになったことに加え、日本の受験競争や画一的な教育スタイルへの不安や違和感も指摘されています。
保護者の中には、「日本の教育だけでは将来が心配」「子どもにもっと広い世界を見せたい」という思いから、ボーディングスクール進学を検討する人も少なくありません。
名門パブリックスクールに通う保護者の本音
英国の名門パブリックスクールに子どもを通わせる保護者からは、「教育の質と環境には満足しているが、親としての覚悟や負担も小さくない」という率直な声が聞かれます。
子どもが日本から遠く離れた環境で暮らすことになるため、精神的な心配や、緊急時にすぐに駆けつけられないもどかしさを感じることもあるようです。
一方で、「子どもが短期間で驚くほど成長した」「自分の意見をはっきり言えるようになった」「世界中に友人ができた」といった前向きな実感を語る保護者も多くいます。
酸いも甘いも含めて、「子どもにとっての大きな人生経験」として捉え、家族全体で支えていく覚悟が求められていることがわかります。
進学実績とキャリアへのつながり
多くのボーディングスクールでは、オックスフォード大学やケンブリッジ大学、ロンドン大学群のほか、米国・カナダ・欧州・アジアの有名大学への進学実績を積み重ねています。
大学進学指導専任のカウンセラーが常駐している学校も多く、出願戦略の相談や面接対策、小論文の指導など、きめ細かいサポートが行われています。
卒業生ネットワークも非常に強く、先輩たちが大学生活やキャリアについてアドバイスをしたり、インターンシップの機会を紹介したりする例もあります。
こうした「見えない資産」は、長期的なキャリア形成において大きな差を生むことがあると評価されています。
入学前に必ず確認したいポイント
イギリスのボーディングスクールを検討する際には、魅力だけでなく、事前に確認しておきたい重要なポイントもいくつかあります。
- 英語力の条件(英語試験スコアの目安や入学前コースの有無)。
- 学校のタイプ(男子校・女子校・共学)、寮の雰囲気やサポート体制。
- カリキュラムの違い(Aレベル・IB・BTECなど)と、将来の進学先との相性。
- 学費以外にかかる費用や、奨学金・助成制度の有無。
- 留学生向けのガーディアン制度や、日本語で相談できる窓口の有無。
また、実際に学校を訪問したりオンライン説明会に参加したりして、「学校の空気感」「生徒や教職員の雰囲気」を自分の目で確かめることも大切です。
パンフレットやランキングだけでは分からない部分が多いため、情報収集と現地の確認を丁寧に重ねることが安心につながります。
子どもと保護者双方の覚悟
ボーディングスクールでの生活は、子どもにとって大きなチャンスであると同時に、決して楽な道ばかりではありません。
言語の壁や文化の違い、学習量の多さなど、乗り越えるべきハードルは少なくなく、本人の「頑張りたい」という意志が欠かせません。
保護者側も、定期的な連絡や休暇中の受け入れ、緊急時の対応など、物理的な距離を超えたサポートが求められます。
「子どもを海外に送ればすべて解決する」という発想ではなく、家族でじっくり話し合いながら、お互いの覚悟と期待をすり合わせていくことが大切です。
イギリスのボーディングスクールが示す新しい選択
イギリスのボーディングスクールは、日本の「学力至上主義」とは少し異なる価値観に基づいた教育モデルとして、多くの家庭に新しい選択肢を提示しています。
学費というハードルは高いものの、「学力」「人間性」「国際性」をバランスよく育てたいと願う保護者にとって、真剣に検討する価値のある環境だと言えます。
今後も、日本からイギリスのボーディングスクールを目指す子どもたちは増えていくとみられ、英国式教育の「リアル」がますます注目されることになりそうです。
一人ひとりの子どもにとって最適な進路を考えるうえで、「イギリス」というキーワードは、これからますます重要な意味を持っていくでしょう。



