琵琶湖に「冬の使者」コハクチョウが今季も初飛来――湖を彩る命の物語
秋が深まり、朝晩の冷え込みがはっきりと感じられるようになると、日本各地の湖沼には冬の使者と呼ばれる渡り鳥たちが姿を見せ始めます。2025年10月9日、琵琶湖では今年もコハクチョウが例年通りの時期に初飛来し、湖畔はやさしいにぎわいに包まれました。
コハクチョウ――壮大な渡りの旅を終えて
コハクチョウ(小白鳥)は、シベリアなどのはるか北の繁殖地から千キロ単位の距離を旅し、日本各地の湖や湿地へと越冬のためにやってきます。長い距離を飛びきった健気な姿は「冬の使者」と呼ばれ、人々の暮らしに季節の移ろいを告げてくれます。琵琶湖は、その壮大な旅のゴールのひとつであり、毎年600羽前後がピーク時には確認されます。
今年も予定通りの初飛来
2025年10月9日、琵琶湖湖北町の湖岸でコハクチョウ6羽の初飛来が地元の愛好家や湖北野鳥センター職員により確認されました。今年の初飛来は昨年より1日ほど早かったとのことで、近年稀にみる厳しい夏の暑さとは裏腹に、冬鳥たちの時は安定した歩みで進んでいるようです。
初飛来日は、バードウォッチャーや地元のこどもたち、散策の人々にとっても“記念日”のようなもの。例年通りの顔ぶれに出会えるだけでなく、年によっては新たな個体の姿も確認され、毎年小さな発見と感動があります。
- 琵琶湖に集うコハクチョウは、湖北、湖西、湖南(守山市・草津市)などに広く分布します。
- ピーク時には最大600羽ほどが確認され、3月中旬まで滞在します。
全国に広がる「白鳥前線」――瓢湖や安曇野にも
同じ頃、新潟県の名所・瓢湖でも1000羽以上の白鳥が到着しています。瓢湖は国の天然記念物にも指定され、冬の風物詩を楽しもうと訪れる人が後を絶ちません。
また、長野県の安曇野や県内各地へも、約4000キロ離れたシベリアからコハクチョウが初飛来。テレビや新聞でもその様子が大きく報道されています。今年も例年を上回る姿が確認され、「冬支度を始めましょう」と優しく語りかけるような光景が広がっています。
湖北野鳥センター――1000年続く水鳥の楽園
琵琶湖湖北エリアの湖北野鳥センターは、まさに「水鳥の楽園」と呼ばれる観察拠点です。ここでは一年を通じて様々な渡り鳥が観測され、湖北地域でしか見られない珍しい個体や、例えばメディアでも「アイドル」としてたびたび紹介される古参の白鳥も訪れます。
- 観察用の望遠鏡や双眼鏡が常設され、初心者でも野鳥観察が楽しめます。
- 2kmに渡って湖岸が整備され、琵琶湖に生息する鳥のおよそ70%が観察できます。
- 琵琶湖水鳥・湿地センターでは、鳥たちのライブ映像や生態展示も体験できます。
こうした自然観察施設の取り組みが、水鳥たちを守り、未来の世代にも琵琶湖の豊かな生態系を伝える上で大きな役割を果たしています。湖岸のヨシ原やアカメヤナギの林、遠浅の湖面――そんな原風景の中で、白鳥たちは羽を休め、湖は生命の輝きであふれます。
白鳥と琵琶湖をとりまく課題と未来
一方で、白鳥をとりまく環境は決して安泰とは言えません。近年の日本列島は天候不順や猛暑、大雨の影響を受けることが増えています。琵琶湖やその流入河川でも生態系の変化や水質管理、外来種問題などに直面しており、コハクチョウたちの安定した飛来を支えるためにも、多方面からの調査や保護活動が求められています。
湖北野鳥センターをはじめとする地域の団体や多くのボランティアたちが、継続的なモニタリングや市民参加の観察イベントを開催しています。それらは、単なる観光資源としてだけではなく、「自然とともに生きる暮らし」を支える大切な文化として根付いています。
また、コハクチョウの観察は、SDGsの「陸の豊かさも守ろう」や「気候変動に具体的な対策を」にも関わる学びの題材となり、世代を超えて命の大切さを考えるきっかけとなっています。
見に行きたい方へのアドバイス
- 琵琶湖湖北エリアは特にコハクチョウの飛来数が多く、観察におすすめです。
- 湖北野鳥センター(長浜市)や湖北水鳥公園の湖岸では、穏やかな湖面に浮かぶ白鳥たちの群れをじっくり眺められます。
- 特に早朝や夕方は鳥たちの活動が活発で、美しい写真も撮りやすい時間帯です。
- 防寒対策を忘れずに、マナーを守って観察しましょう。双眼鏡があると尚良し。
また、バードウォッチング初心者でも、観察室スタッフがやさしくサポートしてくれるので、気軽に体験することができます。子どもと一緒の家族連れにも大人気です。
琵琶湖の冬――命の光と共に
秋深まる琵琶湖に、コハクチョウたちの訪れがまた一歩、冬の足音を近づけてくれました。遥かな旅を終えた白鳥たちは、これからおよそ半年を琵琶湖で過ごします。
水鳥の舞う風景は、古くから滋賀・琵琶湖の原風景そのもの。千年以上前から絶えることなく繰り返されてきた命の営みが、私たちに“自然とともにある暮らし”の大切さを静かに語りかけてくれます。
今年も無事に羽を休める「冬の使者」の姿と共に、琵琶湖はまた一つ美しい季節を迎えます。ぜひ、一度その眼で、この時間の流れと命の躍動を感じてみてください。