大阪万博2025のパビリオン建築が遺す”レガシー”とは?設計者たちが挑んだ課題と次なる活躍

2025年12月1日、大阪・関西万博の開催がいよいよ間近に迫る中、注目すべき課題が浮かび上がってきた。わずか半年間の開催期間という制限の中で、建材高騰や環境配慮、そして酷暑への対応などを乗り越えて設計・建設されたパビリオンたち。これらの建築は、単なる一時的なイベント施設ではなく、その後の活用や再利用を見据えた設計が進められている。世界的な建築家たちが集結し、革新的な技術と創意工夫を詰め込んだ万博パビリオンのその後について、詳しく見ていこう。

半年で完成させた革新的建築群が抱える複合的な課題

大阪・関西万博は「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、世界中の建築家やクリエイターが集結するプロジェクトだ。藤本壮介氏が設計した世界最大の木造建築・大屋根リングをはじめ、隈研吾建築都市設計事務所やSANNAなど国内外の著名な建築家たちが、8つのシグネチャーパビリオンを手がけている。

しかし、これらの建築が完成するまでの過程は、多くの困難に直面していた。第一に挙げられるのは、わずか半年という短い建設期間だ。通常の建築プロジェクトでは考えられないほどのタイトなスケジュールの中で、複雑で革新的な設計を実現させる必要があった。設計者たちは、施工効率を最大化するための工夫や、プレハブ化・モジュール化などの先進的な建設手法を駆使して、この難題に取り組んだ。

第二の課題が、建材費の高騰である。世界的なインフレーションと建設需要の増加により、鋼材やアルミニウムなどの建材価格が大きく上昇している。限られた予算の中で、最大限の品質と革新性を両立させることは、設計者たちにとって大きなチャレンジとなった。その結果、従来の建築よりも環境に配慮した材料選択が行われるようになった。例えば、スイスパビリオンは、ドイツを拠点とする設計事務所マヌエル・ヘルツ・アーキテクツが手がけ、軽量性と持続可能性を追求した革新的なデザインが特徴とされている。

第三の課題として挙げられるのが、大阪の酷暑への対応だ。夏場の厳しい気候条件の中で、訪問者の快適性を確保しながら、建材の劣化を防ぐ必要がある。設計者たちは、通風設計や遮熱材の活用、開放的な空間構成など、パッシブクーリングの手法を積極的に取り入れた。SANAA が設計した「Better Co-Being」パビリオンは、屋根も壁もない高さ11mの開放的な建築として設計され、「いのちを響き合わせる」というテーマと共に、自然な通風による快適性を実現している。

万博終了後を見据えた”サーキュラーデザイン”の実践

注目すべきは、これらのパビリオンが万博終了後の再利用を前提に設計されているという点だ。従来の万博では、開催後に多くの建築物が解体され、廃棄されることが問題視されてきた。しかし今回の大阪・関西万博では、サーキュラルエコノミーの観点から、パビリオンの再利用や移設を計画的に進めている。

その具体的な例が、万博パビリオンのセルが沖縄の中城中学校に移設されるというプロジェクトだ。このプロジェクトでは、万博で使用された建築部材を、教育施設として再活用するための検討が進められている。建材の再利用には、コストの削減とともに、環境負荷の低減という大きなメリットがある。

しかし、移設にあたっては複数の課題を乗り越える必要があった。建材の耐久性はどの程度か、輸送・再施工の過程で品質を維持できるか、そして建設コストをいかに抑制するか——こうした実務的な課題に対して、設計者たちは創意工夫を凝らして対応している。

例えば、異なる気候条件への適応が必要になる。大阪の気候と沖縄の気候は大きく異なり、特に塩害対策などが重要になってくる。建材の選択時点から、こうした将来の再利用シナリオを想定した設計がなされているのだ。

設計者たちの「アフター万博」での新たな役割

万博終了後、設計者たちの役割は終わるわけではない。レガシーをいかに継承し、活かしていくかが新たな課題となる。建築家たちは、単なる設計者の立場から、社会のあり方を考える思想的リーダーへと立場を転換させることが求められている。

豊田啓介氏が設計した「null²」パビリオンは、落合陽一氏のプロデュースの下、「いのちを磨く」というテーマで建物自体が伸縮を繰り返す独特な建築が実現された。このような先進的な建築手法は、万博終了後も、日本の建築業界全体への知見として蓄積されていく。

また、徳島県では「万博レガシー継承へ感謝展」が開催されるなど、各地で万博の遺産を次世代へ引き継ぐ取り組みが進められている。これらの取り組みを通じて、地域社会と建築の関係性が深まり、より持続可能で魅力的な地域社会の形成へとつながっていくことが期待されている。

世界的建築家が集結した海外パビリオンの役割

海外パビリオンも同様に、大きな注目を集めている。リナ・ゴットメが設計した「バーレーン館」は、「海をつなぐ」をテーマとし、伝統的な船の製造技術に日本の木組の技術も融合させたパビリオンとなっている。高さ13mから17mに達する4層構造のこのパビリオンは、単なる展示施設ではなく、異文化間の建築知識交流の象徴となっている。

こうした海外パビリオンの設計には、各国の文化的背景と建築家の思想が融合した造形美と空間体験が求められる。同時に、日本の建築技術やものづくりの哲学が世界に発信される機会となっているのだ。

サステナビリティと技術革新の融合

今回の万博で強調されているのは、環境配慮と先進技術の融合である。従来の万博は、華やかさと先進性を競う場でもあったが、時代の変化に伴い、いかに環境負荷を最小化しながら革新性を実現するかが問われるようになった。

例えば、建築面積61,035.55㎡に達する大屋根リングは、木造・鉄骨造の混合構造で実現された。木材の活用は、カーボンニュートラルの実現に向けた重要な選択であり、同時に日本の林業の活性化にも貢献している。

永山祐子氏が設計した「ウーマンズ パビリオン」や、石黒浩氏がプロデュースした「いのちの未来」など、各パビリオンは異なるテーマの下で、多様なアプローチを展開している。これらの建築を通じて、訪問者たちは、未来社会のあり方について深く思考する機会を得ることになるだろう。

地域社会への波及効果と持続的な発展

万博パビリオンの再利用や移設は、単なる建築物の物理的な移動ではなく、地域社会への知識やノウハウの継承でもある。沖縄の中城中学校への移設を通じて、現地の建設業者や教育関係者は、先進的な建築技術や施工方法を学ぶ機会を得る。

このプロセスを通じて、日本全国の地域が、万博を通じた建築・ものづくり文化の恩恵を受けることになる。短期的には万博という大イベントの盛り上がりが見られるが、その先の数十年にわたって、レガシーとしての価値がじわじわと地域に浸透していくのだ。

大阪・関西万博のパビリオン建築たちが直面した課題——短い工期、建材高騰、気候条件への対応——は、実は現代日本の建築界が直面している根本的な課題でもある。今回の万博での実践例は、これらの課題に対する貴重な回答例となり、今後の日本の建築業界全体に大きな影響を与えることになるだろう。

設計者たちのアフター万博での活躍に期待が集まる中、建築を通じた社会貢献のあり方が、改めて問い直されている。

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