2026年のトレンドカラーは「クラウド ダンサー」。パントンが選んだ“白”の意味とは?
デザインやファッションの世界で大きな影響力を持つ、世界有数の色彩専門機関「パントン(PANTONE)」が、2026年の「カラー・オブ・ザ・イヤー(Color of the Year)」を発表しました。その名も「クラウド ダンサー(Cloud Dancer)」。PANTONE 11-4201という番号が割り当てられた、柔らかく、温かみのある白です。
この発表は、2025年12月5日(金)に世界中で一斉に行われ、デザイン、ファッション、インテリア、マーケティングなど、さまざまな分野で大きな注目を集めています。今回は、この「クラウド ダンサー」が選ばれた背景や、その色が持つ意味、そして発表後に起きた議論について、わかりやすくご紹介します。
「クラウド ダンサー」とはどんな色?
クラウド ダンサーは、真っ白というよりも、雲のようにふんわりと柔らかい、空気感のある白です。殺風景な白ではなく、肌触りの良さや、心地よい温かさを感じさせるニュートラルな白。まるで朝の光に照らされた雲の上で、軽やかに踊っているようなイメージから名付けられました。
パントンはこの色について、「心を落ち着かせる力」の象徴だと説明しています。リラックスと集中を促し、心を解き放って創造性を育む色。情報過多やデジタルノイズに囲まれた現代社会において、「穏やかさと明晰さ、そして創造のための余白」をもたらす色として選ばれました。
パントン・カラー・インスティテュートのエグゼクティブ・ディレクター、リアトリス・アイズマン氏は、「クラウド ダンサーは、新たなスタートを切るための真っさらなキャンバスです。それは、新たな道筋や新しい思考を開くための招待状でもあります」と語っています。
パントン史上初の「白」が選ばれた意味
パントンの「カラー・オブ・ザ・イヤー」は、1999年のセルリアンブルーから始まり、毎年、その時代の気分やトレンドを反映した色が選ばれてきました。2020年は安らぎをもたらす「クラシックブルー」、2022年は創造力を刺激する「ベリーペリ」、2024年はやさしい「ピーチ ファズ」、2025年は落ち着いた「モカ ムース」といった具合です。
しかし、2026年の「クラウド ダンサー」は、このプログラムの歴史で初めて、白の色が選ばれたという点で、大きな意味を持っています。パントンは、「これは単なる色の欠如ではなく、深遠な声明です」と強調。白は「白紙の状態、新しい章、そして集団的な安堵のため息」を表していると説明しています。
情報過多、デジタルノイズ、世界的な不確実性が続く今、人々が求めるのは、シンプルさと平和。クラウド ダンサーの選定は、そうした時代の空気をそのまま色にした、パントンのメッセージともいえるでしょう。
「クワイエット・ラグジュアリー」や「マインドフルネス」の流れと一致
クラウド ダンサーの選定は、近年のトレンドとも深くつながっています。ファッションの世界では、「クワイエット・ラグジュアリー(静かな贅沢)」という、派手さではなく、素材やシルエットの洗練さを重視するムードが広がっています。クラウド ダンサーは、パリッとしたシャツ、流れるようなシルクのドレス、着心地の良いカシミヤなど、洗練されたシンプルさと時代を超越したエレガンスを体現する色です。
また、マインドフルネスやデジタルデトックス、メンタルウェルネスへの関心が高まる中、家や心を整理し、静寂な空間をつくることが求められています。クラウド ダンサーは、そうしたライフスタイルのシフトを色で表現したものともいえるでしょう。
白が選ばれたことで起きた議論
この発表後、SNSを中心にさまざまな反応が寄せられました。多くのデザインやファッション関係者は、「時代を捉えた色だ」「シンプルで美しい」と称賛。一方で、一部からは「白が“トレンドカラー”?」という驚きや、「白って“色”なの?」という疑問も出ました。
さらに、一部の海外メディアやネットユーザーの間では、「白が選ばれたのは“人種的”な意図がある」という誤解や、過剰な解釈も見られました。これに対してパントンは、「肌の色は今回の選定にまったく影響していません」と明確に否定。色選びは、時代の気分、文化、デザイン、ファッション、エンターテインメントなど、世界的なトレンドの分析に基づいていると説明しています。
パントン・カラー・インスティュートの社長、ローリー・プレスマン氏も、「最近の選定でも同様の質問を受けている」と付け加え、色選びが人種的なメッセージではなく、あくまで“色”としての意味と、時代の空気を重視していることを強調しました。
クラウド ダンサーの使い方とコーディネートのヒント
では、このクラウド ダンサーを、私たちの生活にどう取り入れたらよいでしょうか?パントンが提案する、主な使い方のポイントをご紹介します。
- モノクロマティックな静けさ:クラウド ダンサーを、他の白やクリーム、ソフトグレーと重ねて使うことで、深みと洗練された外観に。インテリアでは、壁やカーテン、ソファなどに取り入れると、清潔感と落ち着きのある空間に。
- アーシーなグラウンディング:テラコッタ、セージグリーン、温かみのあるブラウンなど、ナチュラルな色と組み合わせると、自然とつながった、地に足のついた雰囲気に。ファッションでは、ベージュやブラウンのパンツやスカートと合わせて。
- ハイコントラスト:深いチャコール、ミッドナイトブルー、黒などと組み合わせると、ドラマチックでモダンな印象に。ビジネスシーンやフォーマルな装いにぴったりです。
- ソフトパステル:淡いラベンダーやベビーブルー、ブラッシュピンクなど、やさしいパステルと組み合わせると、夢のような幻想的な雰囲気に。春や夏のファッション、アクセサリーに最適です。
2026年は「白」から始まる新しい章
パントンの「カラー・オブ・ザ・イヤー」は、単なる色のトレンドではなく、その時代の気分や、人々が求めている価値観を色で表現するものです。2026年のクラウド ダンサーは、「静寂の瞬間を見つけ、シンプルさの中にある美しさを評価し、人生の課題を軽やかに踊り抜ける」ためのリマインダー。外の世界の騒音から一歩引いて、内なる平和や明晰さを大切にする、そんな一年になるかもしれません。
来年以降、ファッションブランドのコレクション、インテリア雑誌、商品パッケージ、広告など、さまざまな場面で「クラウド ダンサー」の白が登場するでしょう。そのたびに、「なぜ今、白なのか?」というパントンのメッセージを感じ取ってみてください。2026年は、白という“余白”から、新しい始まりが生まれる年になるかもしれません。


