「世界都市ランキング」で東京が初の世界2位に躍進 ロンドンに次ぐ評価、その理由とは

森記念財団 都市戦略研究所が公表した「世界の都市総合力ランキング(GPCI-2025)」で、東京が初めて総合2位となり、長年2位の座を守ってきたニューヨークを抜いたことが分かりました。1位はロンドンで、こちらは2012年からトップの座を維持しています。日本からは東京のほか、大阪が18位、福岡が40位にランクインし、日本の主要都市の存在感が改めて示されました。

世界の都市総合力ランキング(GPCI)とは?

「世界の都市総合力ランキング(GPCI)」は、世界の主要都市を対象に、都市としての総合力を多面的に評価し、順位付けしたものです。単に経済規模だけでなく、住みやすさや文化的な魅力、環境、交通など、都市で暮らし働くうえで重要となる要素を幅広く測る点が特徴です。

GPCIでは、都市の力を次の6分野で評価しています。

  • 経済:企業の集積、ビジネス環境、市場規模など
  • 研究・開発:大学・研究機関、研究費、研究者の数など
  • 文化・交流:観光、イベント、文化施設、多様性や受け入れ度合いなど
  • 居住:生活コスト、安全性、教育、医療、住環境の質など
  • 環境:自然環境、気候、環境政策、緑地の充実度など
  • 交通・アクセス:都市内交通の利便性、国際線の就航状況、アクセスの良さなど

最新のGPCI-2025では、これら6分野に加え、特に国際金融センターとしての競争力を見るための「金融」分野も別途評価されています。これにより、経済だけでは測りきれない都市の魅力や実力が、より立体的に把握できる仕組みになっています。

2025年版ランキングのトップ3 ロンドン・東京・ニューヨーク

GPCI-2025の総合ランキング上位3都市は、次のような結果となりました。

  • 1位:ロンドン
  • 2位:東京
  • 3位:ニューヨーク

ロンドンは、2012年からトップの座を継続しており、今回も総合1位を維持しました。一方で、総合スコア自体は下がっているものの、文化・交流分野と交通・アクセス分野で1位、経済と研究・開発分野で2位を保つなど、依然として圧倒的な国際都市としての存在感を見せています。

これまで2位だったニューヨークは、3位に後退しました。2012年から守ってきた2位の座を、今回初めて東京に明け渡す形となりました。

東京がニューヨークを抜き「世界2位」になれた理由

東京は、2016年から9年間にわたって3位を維持してきましたが、ここ数年でスコアを大きく伸ばし、ついにニューヨークを追い抜いて2位に浮上しました。注目すべきは、単に経済力が強化されたのではなく、ソフトパワーにあたる分野が大きく伸びた点です。

「居住」分野で世界1位に 安全で暮らしやすい都市・東京

今回のランキングで最も象徴的なのが、東京が「居住」分野で1位を獲得したことです。治安の良さや生活インフラの安定性、公共交通機関の正確さなど、東京の日常を支える要素が高く評価されました。

東京は、犯罪発生率が低く、「落とした財布が戻ってくる街」として海外メディアでもたびたび紹介されます。また、街の清潔さ、ゴミの少なさ、時間通りに運行する鉄道網など、「安心して暮らせる都市環境」が世界的な強みとして認識されています。

住宅や物価の面での課題も指摘される一方で、医療・教育機関へのアクセス、日常生活での利便性、生活全体のバランスといった観点から見ると、トータルで「暮らしやすい」と評価されたことが、今回の1位につながったといえます。

「文化・交流」分野は2位に躍進 ナイトライフや食の魅力が評価

東京は、文化・交流分野で初の2位となり、「ナイトライフの充実度」で1位を獲得しました。夜遅くまで楽しめる飲食店、イベント、イルミネーション、エンターテインメントなど、夜の時間帯の楽しみ方の幅広さが評価を押し上げました。

東京都心では、都庁舎を使ったプロジェクションマッピングといったナイトタイム観光の取り組みが行われており、近年は「夜の観光コンテンツ」を積極的に打ち出しています。これに加え、世界的にも人気の高い寿司や和食をはじめ、世界中の料理を楽しめるレストランが集まる「食の都」としての側面も、東京の魅力を一段と強めています。

さらに、アニメや漫画といったポップカルチャー、歌舞伎や相撲などの伝統芸能、現代アートや音楽フェスなど、古くからの文化と新しいカルチャーが共存している点も、海外から高い注目を集めています。観光客にとって「一度では回りきれないほど多彩な都市」として映っていることが、文化・交流分野での躍進につながりました。

「環境」分野も順位アップ 快適でクリーンな都市を目指して

東京は、環境分野の順位も7位に上昇しました。世界的に環境やサステナビリティが重視される中で、都市として環境負荷を減らし、緑地や公共空間を整備しようとする取り組みが、着実に成果を上げつつあると評価された形です。

ロンドンが「緑地の充実度」で1位を獲得する一方、東京も公園や水辺空間の整備、街路樹や屋上緑化などを通じて、コンクリート一色ではない都市環境を目指しています。また、公共交通の利用促進や省エネ技術の普及なども、長期的な視点から評価につながっていると考えられます。

経済分野では順位を下げながらも、総合力は向上

一方で、東京は経済分野の順位自体は低下しています。企業の収益力や賃金水準などの面では、依然としてニューヨークなどに比べて課題があるとされます。特に、物価と収入のバランスに関する指標などでは、厳しい評価が見られる項目もあります。

それでもなお、総合スコアとしては昨年に続き大きな伸びを示し、ニューヨークを抜いて2位に浮上したことは、東京が「経済力一辺倒の都市」ではなく、暮らしや文化・環境も含めた総合的な魅力で評価されたことを示しています。

つまり、今回の順位上昇は、「ハードな経済力」よりも、ソフトパワーの強化が原動力になった、と言うことができます。

3位に後退したニューヨーク 住みやすさや環境で苦戦

ニューヨークは、GPCI-2025で全都市の中で最もスコアの下落が大きい都市となり、2位から3位に後退しました。特に、「居住」分野と「環境」分野での評価が大きく落ち込んでいます。

居住分野では、「物価水準の低さ」の項目が最下位となるなど、生活コストの高さが深刻な課題として浮き彫りになっています。また、環境分野では、「気温の快適性」が悪化したとされ、気候変動の影響なども含め、長期的な住みやすさに不安があると見なされています。

一方で、ニューヨークは依然として「上場株式時価総額」や「研究開発費」で世界トップを走っており、経済分野と研究・開発分野では1位を維持しています。金融・ビジネス・イノベーションの中心地としての地位は揺らいでいませんが、「暮らしや環境」といった側面が総合評価を押し下げた形となりました。

1位ロンドンの強さ 文化と交通で不動の地位

ロンドンは、総合スコアとしては下がりながらも、2012年からの1位を維持しました。文化・交流分野と交通・アクセス分野で1位を維持していることが、大きな支えとなっています。

世界中から旅行者やビジネスパーソンが訪れるロンドンは、ミュージカルや美術館、歴史的建造物と現代的な文化施設が共存する文化都市であると同時に、国際線が多数発着する空港を多く抱える交通の要衝でもあります。

一方で、居住分野や環境分野の順位は下がっており、ロンドンもまた、大都市ならではの「住みやすさ」と「環境」の課題を抱えていることが分かります。それでもなおトップを維持できていることは、「都市としての総合力」が依然として群を抜いていることを意味します。

大阪18位・福岡40位 日本の地方中枢都市も存在感

今回の世界都市ランキングでは、東京だけでなく、大阪が18位、福岡が40位にそれぞれランクインしました(報道各社による要約)。日本の都市は、東京一極集中が指摘される一方で、大阪や福岡といった都市も、アジアや世界の中で一定のプレゼンスを保っていることがうかがえます。

大阪は、商都としての歴史や、食文化・エンターテインメントの豊かさで知られています。万博の開催準備やインフラ整備なども進んでおり、今後の評価にも注目が集まります。

福岡は、アジアに近い地理的な利点と、コンパクトで暮らしやすい都市構造から、スタートアップや若い世代に人気のある都市として評価されています。海外からの直行便も増えており、国際的なビジネスと生活の拠点としてのポテンシャルが注目されています。

「ソフトパワー」が都市競争力のカギに

今回の結果から見えてくるのは、都市の競争力を左右するのが、もはや経済力だけではないということです。治安の良さ、暮らしやすさ、文化・エンターテインメント、環境への配慮といったソフトパワーが、都市評価の中で以前にも増して重要になってきています。

東京は、経済分野で順位を落としながらも、居住・文化・環境といった分野を伸ばすことで、総合2位に浮上しました。これは、都市が「人にとって魅力的かどうか」が、世界の人材や企業を引きつけるうえで、決定的な意味を持つようになってきたことを示しています。

東京2020大会や世界陸上、デフリンピックなどの国際イベントを通じて示されたように、東京は多様な人々を受け入れ、その可能性を引き出す「場」としての力を高めてきました。こうした取り組みが、今回のランキングにも反映されていると見ることができます。

これからの東京に求められるもの

今回、東京は世界都市ランキングで歴史的な「初の2位」を達成しましたが、これで終わりではありません。今後も、誰もが暮らしやすく、訪れたいと思える都市であり続けることが求められます。

特に、賃金水準や生活コスト、住宅問題など、日々の生活に直結する課題への対応は欠かせません。また、多様なバックグラウンドを持つ人々が共に暮らし、働き、学ぶことができる環境づくりも、国際都市としての成長にとって重要なテーマです。

一方で、治安の良さや清潔さ、交通の利便性、豊かな食文化、伝統とポップカルチャーが交差する独自の魅力など、東京がすでに持っている強みをさらに磨き上げていくことも大切です。世界ランキング2位という結果は、その方向性が世界から評価された証ともいえます。

今後、世界の都市間競争は、デジタル化や気候変動、人口構造の変化など、さまざまな要因を背景に、さらに激しさを増していくとみられます。そのなかで、東京がどのように自らの強みを活かしながら、弱みを克服していくのか。今回の結果は、そのスタートラインに立ったことを示す出来事と言えるでしょう。

参考元