天皇陛下と雅子さまが紡ぐ友好の証 モンゴル公式訪問と伝統菓子「アーロール」の物語

はじめに――歴史的な親善の旅路

2025年7月6日から13日、天皇陛下と雅子さまはモンゴルを公式に訪問されました。歴代天皇としては初となるこの訪問は、両国の友好と親善を深める重要な節目となりました。到着直後、陛下と雅子さまがモンゴルの伝統的なお菓子「アーロール」を召し上がる姿は、モンゴル国民への敬意と歓迎の心を象徴する瞬間でした。

天皇陛下が公式の場で飲食物を口にされ、その様子を公開するのは極めて珍しく、現地や日本の報道だけでなく、市民の間にも広く驚きと感動が広がりました。今回の公式訪問は、単なる外交儀礼を超えた、心と心の通う交流であったのです。

チンギス・ハーン国際空港での歓迎――「アーロール」と伝統の心

  • 日本時間7月6日午後4時前、チンギス・ハーン国際空港に到着した両陛下を、民族衣装に身を包んだモンゴルの女性たちが出迎えました。
  • 歓迎の印として、銀の器に美しく盛られた「アーロール」が陛下と雅子さまに手渡されました。
  • 公式行事ではほとんど例のない“食べ物を召し上がる”シーンが、現地メディアにも大きく報じられ、両国の市民にとって歴史的な場面となりました。

モンゴルで歓迎の場に登場する「アーロール」は、遊牧民の知恵と歴史が詰まった伝統菓子。陛下は「おいしかった」と笑顔をのぞかせ、そのまま歓迎式典や晩餐会など公務に臨まれました。モンゴルの人々と日本の架け橋となるような、おふたりの自然なふれあいが各所で語り草となりました。

伝統菓子「アーロール」とは――遊牧民文化の象徴

アーロールは、モンゴルの大草原で暮らす遊牧民が大切に守ってきた発酵乳製品をもとにしたお菓子です。牛、ヤギ、羊などの乳を発酵させ、脱水し、乾燥させて作られるもので、保存性に優れた「乾燥チーズ」ともいえます。硬めの食感ですが、噛むほどに乳由来のほのかな甘みと酸味が広がります。

  • 厳しい気候のもとで培われた保存性と栄養価の高さが特徴
  • 日常のおやつや、おもてなしの場でも愛されるモンゴルの国民的食品
  • 遊牧を支えてきた知恵が形を変え、現代でも大切に受け継がれている

今回の公式訪問で陛下が実際にこのアーロールをお召し上がりになったことは、モンゴルの伝統文化を深く尊重された証であり、現地の人々にとっても大きな誇りとなりました。

歓迎の雨と笑顔――モンゴル現地での温かいもてなし

ウランバートルへの到着時には、モンゴルの伝統的な言い伝え――「来客時の雨は吉兆」という風習が語られた通り、小雨が降りました。モンゴル国民はこれを「幸先の良いスタート」と受け止め、両陛下の来訪に一層の喜びを感じていました。

陛下と雅子さまは、公式の歓迎式典だけでなく、晩餐会や文化交流の場で、各層の人々と活発に交流を重ねました。和やかな雰囲気、心からの歓迎に包まれた訪問となりました。

「頂戴しない」選択の背景──馬乳酒への配慮

今回の滞在で一部報道は、「馬乳酒(アイラグ)」を陛下は召し上がらなかったことにも触れています。これは健康上の理由や従来の皇室の儀礼を考慮されたためとされ、公務の厳粛さ・中立性を守る配慮でありました。

モンゴルの主な歓迎儀式では馬乳酒が供されるのが一般的ですが、今回、天皇陛下が「アーロール」を口にされたことは、モンゴル側のきめ細かい配慮と、日本からの特別な尊重の心につなげられたものといえます。

遊牧民のゲルに“泊まる”特別体験──自然と共生する知恵

今回の訪問とは別に、日本からの観光客も増えているのが「モンゴル遊牧民のゲル(移動式住居)宿泊体験」です。広大な草原と雄大な自然のなかで、伝統的なゲルに泊まり、実際の遊牧民の暮らしや文化に触れることができるこの体験型ツアーは、自然と共生するモンゴル人の知恵や価値観に触れる絶好の機会となっています。

  • ゲルでの生活は、季節ごとの移動や動物の世話、自然と共に生きる知恵が凝縮されている
  • 家族や隣人とのあたたかな交流を通じ、シンプルな生活の中に豊かさを見出せる
  • アーロールや馬乳酒、伝統料理も体験できるコースが多く、文化の奥深さを実感できる

環境に寄り添った生き方が現代でも色褪せず息づいているモンゴル。そんな地で、天皇陛下と雅子さまが国民的行事として受け入れられたことは、日本とモンゴル両国にとって、ひとつの大きな文化的意義をもたらしました。

両国の未来を見据えて――心と心を結ぶ旅のメッセージ

今回、天皇陛下と雅子さまによるモンゴル公式訪問は、形式的な外交儀礼を大きく超えた、人と人が深く理解し合う旅でした。モンゴル伝統の象徴であるアーロールを笑顔で召し上がるおふたりの姿は、日本から遠く離れた草原にもしっかりと、友情と相互尊重の種をまきました。

両国の交流は、これからも教育、経済、文化の分野へとさらに広がっていくことでしょう。遊牧民の知恵と現代社会の融合、自然と共生する姿勢は、私たちすべてに新しい気づきを与えてくれます。

人の心と心が交差し、国境を越えて互いを支え合う。天皇陛下と雅子さまのモンゴル訪問は、そんな希望に満ちた未来へのきっかけとなりました。

おわりに

遠くの地に暮らす人々と手を取り合い、過去・現在・未来の架け橋となった天皇陛下と雅子さま。この旅で交わされた笑顔や「アーロール」という伝統のお菓子の物語は、日本とモンゴル両国の心に忘れがたく、温かい記憶として刻まれることでしょう。

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