歌舵伎の殿堂で映画が上映される歴史的瞬間 「国宝」歌舞伎座大晦日特別上映会が実現した背景
2025年を代表する映画『国宝』が、12月31日に歌舞伎座で特別上映会を開催しました。これは映画業界と歌舞伎業界のライバル関係にある東宝と松竹が手を組んだ、極めて異例の試みです。なぜこのような歴史的なイベントが実現したのか、その背景と意義を探ります。
異例の強強タッグが実現した理由
映画『国宝』は、李相日監督がメガホンを取り、吉沢亮と横浜流星が主演する歌舞伎の世界を舞台にした映画です。12月30日までの公開208日間で観客動員約1309万8000人、興行収入184.7億円を突破し、邦画実写歴代1位となる歴史的快挙を達成しました。
この映画の歌舞伎座での上映は、松竹と東宝の主催により実現しました。松竹は歌舞伎座を所有する企業であり、東宝は『国宝』の配給を担当する企業です。本来であれば、このような大きな映画化作品では、配給会社と劇場所有会社が異なる企業の場合、実現困難なケースが多いです。しかし『国宝』の社会的影響力の大きさが、この異例の協力を可能にしたと考えられます。
実は、このイベントは極めて象徴的な出来事でした。寺島しのぶは登壇時に「この東宝の映画が、まさか師走の31日に、松竹の管轄である場所で上映できる。この奇跡を体験できたことは、一生忘れないだろうなと思います」とコメントしており、業界関係者も歴史的な瞬間として認識していることがうかがえます。
歌舞伎ブームを生み出した『国宝』の影響力
『国宝』は、2025年に空前の社会現象を巻き起こしました。原作者の吉田修一氏が「100年に1本の壮大な芸道映画」と称賛した本作は、多くの新たな観客を歌舞伎の世界へ導きました。
映画のストーリーは、ヤクザの息子・喜久雄が歌舞伎の世界に入り、梨園の御曹司・俊介などの人々との愛憎に揉まれ、ときに地に落ちながらも、「人間国宝」と呼ばれる役者となるまでを描いたものです。このドラマティックな展開が、これまで歌舞伎に関心を持たなかった層にも強い興味を喚起したのです。
歌舞伎関係者も、明らかに新たな観客が増えたことを実感しているといいます。そのため最近の公演では、『国宝』に登場した演目が選ばれることが増えているとのことです。この映画が単なるエンターテインメント作品ではなく、伝統芸能の振興に大きく貢献する存在となっていることが分かります。
歌舞伎座大晦日特別上映会の意義
12月31日に開催された歌舞伎座大晦日特別上映会には、主演の吉沢亮、横浜流星をはじめ、寺島しのぶ、見上愛、黒川想矢、田中泯、中村鴈治郎、そして李相日監督が出席しました。彼らはあでやかな和装で登壇し、鳥屋口から花道を通って登場するなど、歌舞伎座ならではの演出がなされました。
この上映会の模様は356館で同時生中継されるという、さらに異例の対応が取られました。これは『国宝』の社会的影響力の大きさを物語るとともに、全国の映画ファン、歌舞伎ファンに対する配慮でもあります。
李相日監督は登壇時に「大みそかにお集りいただき、ありがとうございます。思えば数年前には観客席に座って歌舞伎を見ながら『いつか歌舞伎の映画を撮りたい』と考えていました」と述べ、この夢が現実になったことへの感動を表現しました。また、「皆さんの『国宝』愛がここまで我々を押し上げてくださったのは間違いありません」とコメントし、観客のサポートを最大限に評価しました。
演出家たちが語った想い
出演者たちからも深い思いが語られました。吉沢亮は「『国宝』のおかげで、いろいろな経験をさせていただきました。はじめてカンヌの地にも行ったり、海外でのキャンペーンもやったり」と、この作品がもたらした貴重な経験に感謝を述べました。さらに「たくさんの方に観ていただき、僕自身もこの作品のおかげでたくさんのすばらしい景色を見させていただいた。本当に、特別な作品になりました」と改めて本作への思いを語りました。
寺島しのぶは、俊介の実の母親で、上方歌舞伎の名門を支える女房・幸子役を演じた経験から、「この東宝の映画が、まさか師走の31日に、松竹の管轄である場所で上映できる。この奇跡を体験できたことは、一生忘れないだろうなと思います」と、歴史的な瞬間への感動を表現しました。
映画業界全体へのポジティブな影響
李相日監督は、この作品の成功がもたらした業界全体への影響についても語りました。「劇場に足を運んでくださる方も、本当に多くて。コロナ禍以降、映画館に足を運ぶ方が少なくなっているなと感じていたんですが、少し希望を持てた。映画人としても、これから日本映画業界を発展させたいと、いち役者として責任感が強くなった年です」とコメントしており、『国宝』のヒットが映画業界全体に希望をもたらしたことを示唆しています。
これまで22年間破られなかった邦画実写興行収入の記録を塗り替えた『国宝』は、単に経済的な成功にとどまりません。歌舞伎という伝統芸能への新たな関心を生み出し、映画産業と伝統芸能産業の協力を深め、日本映画業界全体に活力をもたらしています。
今後への展開
『国宝』の成功は国内にとどまりません。2026年の北米公開も決定しており、世界に日本の伝統芸能とそれを映画化した作品の素晴らしさを発信する機会となるでしょう。
また、歌舞伎の名作を映画館で上映する「シネマ歌舞伎」が20周年を迎える2026年2月には、『二人藤娘/日本振袖始』が上映予定です。『国宝』による歌舞伎ブームの波に乗って、より多くの観客が伝統芸能に親しむ好機となることが期待されます。
2025年の大晦日、歌舞伎座で実現した東宝と松竹の異例の協力は、『国宝』がもたらした社会的インパクトの大きさを象徴する出来事です。この歴史的瞬間は、日本の映画業界と伝統芸能業界の新たな関係性を示唆するものとなるでしょう。



