徳之島で開催された特攻隊ミュージカルと樺島資彦さんをめぐる企画展 ― 平和への思いを未来へつなぐ特別な二日間

はじめに ― 戦後80年、徳之島が語る「流れる雲よ」

2025年9月13日と14日、鹿児島県徳之島の天城町防災センターで、特攻隊ミュージカル「流れる雲よ」の特別公演が開催されました。これは、戦後80年という大きな節目の年を迎えたことを機に、平和の尊さや命の大切さを徳之島のみなさんと分かち合うために企画されたものです。この舞台は、伊仙町出身の特攻隊員であり教師でもあった樺島資彦さんをモデルのひとりに取り入れた作品です。徳之島という故郷での上演は関係者や地元の皆さんにとって大きな意味を持つ出来事となりました。

特攻隊ミュージカル「流れる雲よ」とその歩み

「流れる雲よ」は、東京をはじめ全国各地で26年にわたり上演されてきた実績あるミュージカルです。第38回ギャラクシー賞奨励賞を受賞し、長年多くの観客に愛され続けてきました。舞台の舞台は太平洋戦争末期、特攻隊の若者たちが派遣された知覧飛行場です。主要なモチーフとなっているのが、未来からラジオ放送を耳にした隊員たちが自らの運命や故郷、そして命の意味について苦悩する姿――。観る者に戦争の悲劇や「なぜ命を投げ出すのか」といった問いを問いかけ、若者の死だけではなく、平和への希望と命の輝きを描いている点が高く評価されています。

徳之島公演の実現まで ― 発起人の熱い思いと地域の協力

この徳之島公演の発起人である俳優・池田恵理さんは、役作りのため徳之島を訪れ、樺島資彦さんの親族と交流しました。樺島さんの遺書の現物に触れることで、戦争を生き抜いた人びと、そして特攻という極限状況で命を全うした若者の意思を肌で感じたといいます。その思いを徳之島の皆さまと分かち合いたいと、公演の7年前から関係各所への働きかけをしてきました。その間、多くの地域住民が協力し、ついに戦後80年となる2025年に特別公演が実現したのです。

  • 主催:株式会社スマートリバー
  • 共催:天城町・天城町教育委員会
  • 後援:奄美新聞社・伊仙町・伊仙町教育委員会・MBC南日本放送・公益財団法人特攻隊戦没者慰霊顕彰会・東京奄美会・徳之島町・徳之島町教育委員会・南海日日新聞社・南日本新聞社
  • 場所:天城町防災センター(鹿児島県大島郡天城町天城427)
  • 入場料:1,000円(全席自由席)

圧巻の舞台と平和へのメッセージ ― 750人が共感

公演は2日間で合計750人が鑑賞しました。舞台では、知覧飛行場から出撃する隊員たちが、自らの死を目前に控えながらも未来への希望や家族、ふるさとへの思いに葛藤する様子が力強く演じられ、観客の心に深く訴えかけました。なかでも、樺島資彦さんをモデルにした隊長「後藤弘明」が、故郷を守る覚悟とともに出撃する姿は、若者の死の悲劇とともに、今を生きる私たちに命の尊さや平和の大切さを問いかけるものでした。

また、地元の島口ミュージカル「結シアター手舞」や、シンガーソングライターしずくさん、禎一馬さんらがコラボ出演。中学生2人による平和作文の朗読も舞台に彩りを添え、より多角的に平和への願いが表現されました。年齢や立場を超えて多くの人が共感し、涙を流しながら静かにステージを見守る姿も見られました。

樺島資彦さんをしのぶ展示・遺書と向き合う

公演とあわせて、樺島さんの遺書や遺品の展示が並行して実施されました。戦局が悪化する中、家族や教え子、地域への思いをつづった樺島さんの直筆遺書や愛用の品々は、観る者に戦争の現実とともに時代を超えた「人間として遺したかったもの」について考えさせました。実際に遺書を手に取って涙ぐむ来場者や、親子で熱心に説明を読み込む姿が印象的でした。

展示内容は、公演会場だけでなく、伊仙町歴史民俗資料館など地元の複数会場でも紹介され、徳之島の若者や子供たちに「過去を知る」機会として活かされました。展示会や公演を通じて、戦争によって失われた尊い命と平和の重みを「今」の私たちがどのように受け継ぐべきか、多くの問いを残しました。

トークイベント「特攻隊員の思いを考察」

公演翌日の9月15日には、伊仙町阿権の「前里屋敷」において、トークイベント「特攻隊員の思いを考察」が伊仙寺子屋塾主催で開かれました。樺島資彦さんの親族や地元の歴史研究者、地域住民らが集まり、特攻という極限状況で生きた若者の葛藤や思い、それを現代の我々がどのように受け止め、語り継ぐべきかについて語り合いました。

「個人の意思はどこまで尊重されたのか」「家族や地域社会が彼らの死をどのように受け止めてきたのか」など、参加者からは率直な意見や疑問が出され、会場は静かに真剣な対話の場となりました。平和教育に取り組む中学生や教員も参加し、若い世代の視点から「戦争体験の伝承」の大切さが改めて浮き彫りになりました。

地域と未来へ ― 平和の思いをどう伝えるか

今回の「流れる雲よ」徳之島公演や関連イベントは、戦争を知らない世代にとって貴重な学びと考えるきっかけを与えてくれました。関係者の努力、そして地域住民の支えがあったからこそ、単なる追悼イベントではなく、「過去と未来をつなぐ現在進行形の平和運動」としての意義が生まれました。

地元伊仙町などでは、この経験を契機に学校・地域での平和学習や、歴史の現場を訪ねるフィールドワークへの関心が高まりつつあります。「戦争は二度と繰り返さない」「命はなぜ大切なのか」――徳之島に暮らす人びと、また全国から集った観客・出演者の心の中に、新しい答えや問いが芽生えたことでしょう。

まとめ ― 徳之島から生まれる新たな「平和の物語」

2025年9月、徳之島天城町で公演された特攻隊ミュージカル「流れる雲よ」は、歴史的悲劇を単なる追憶ではなく、いまを生きる私たち一人ひとりが平和の意味を考える場として多くの人々に深い感動を与えました。モデルとなった樺島資彦さんや同世代の若者が遺した願いを胸に、徳之島の人びとはこれからも「戦争と平和」「命の重み」を世代を超えて語り伝えていくことでしょう。

地域の誇り、そして平和へのバトンはこれからも、歴史とともに未来へと繋がっていきます。

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