中国の若者に急増中の「ソウル病」――韓国旅行後に募る郷愁、その実態とは
1. はじめに――今、中国で注目を集める「ソウル病」とは
2025年現在、中国の若者の間で「ソウル病(ソウルびょう)」という新しい現象が大きな話題となっています。韓国旅行、特に首都ソウルを訪れた後、自国に戻ってからも強い郷愁や喪失感に苛まれるこの感情は、「ソウル病」と呼ばれ、多くの若年層の心を捉えて離しません。SNSでもこの言葉は急速に拡散し、今や現代アジアを象徴する心理現象として世界的な関心を集めています。
2. 「ソウル病」拡大の背景――SNS時代が生んだ共感と連帯
- 中国版TikTok「抖音(ドウイン)」やインスタグラム風SNS「小紅書(RED)」など、映像や写真中心のSNSが普及する中で、ソウル旅行の思い出を共有する若者が増加。
- 「道に迷ったときに韓国人の中年女性に助けられた」「人生で最も幸せで輝いていた旅行だった」「写真を見るだけで涙が出る」といった投稿が多くの同世代から共感や「いいね」を集める。
- 旅行からの帰国後、仁川空港行きの列車で「涙が止まらなかった」というエモーショナルな体験談が話題となり、共感の輪が急拡大しています。
3. なぜこれほどまでに心を打つ?――ソウルの魅力と「ソウル病」の根本理由
韓国は長らくK-POPや韓流ドラマ、ファッション、グルメなどを主要な観光資源として国際的な人気を博してきました。中国の若年層、特にMZ世代(1990年代以降生まれ:ミレニアルズとZ世代)は、SNSを通じてこれら韓国文化に幼少期から親しんできた層です。
- 韓国の高い生活利便性(キャッシュレス社会、交通インフラ、都市機能の充実)を体験し、「ユートピア」と評する人も多い。
- 街の「タバコの匂いがない」「クラクションがなく静か」「道端のカフェや屋台の雰囲気が新鮮」など、細やかな日常的な魅力に惹かれる声も。
- 「韓国人の親切さやホスピタリティ」を強調する声も増加し、国際的な印象改善にもつながっています。
これらの体験が帰国後の「現実」に戻ると、「非日常の終わり」「現実社会への再順応の困難さ」として顕在化し、「ソウル病」を発症する心理的背景となっていると見られます。
4. 具体的な症状とエピソード――「写真だけでも涙」中国若者の生の声
- 「ソウルでの毎瞬間を思い出すだけで幸せな気分」
- 「旅行から帰国して数日、ずっと憂鬱な気分が続いた」
- 「小紅書に #ソウル病 タグで体験談を投稿するのが癒やし」
- あるSNSユーザーは「現実から解放され、自由を感じた自分自身を忘れがたい」と語っています。
このように「ソウル病」は、単なる旅行ロスやノスタルジーに留まらず、異文化体験による心理的な反動や郷愁、さらには日常生活への違和感や空虚感と結びついています。場合によっては日常適応障害のような状態になる例も報告されています。
5. 「ソウル病」が社会にもたらす影響――韓国観光業と中韓関係
- 2025年上半期、韓国を訪れた中国人観光客は約252万7,000人となり、前年同期比14%増という顕著な伸びを見せています。
- 韓国観光公社のデータによれば、エンデミック後の2022年以降、中国人の訪韓需要は着実に回復しており、2023年の約200万人から2024年には約460万人へと倍増。
- 2025年9月29日からは、中国人団体観光客に対する無ビザ入国の一時的解禁(1グループ3人以上、最大15日間)も実施予定であり、今後さらに中国人観光客の増加が見込まれます。
- この現象は韓国観光業だけでなく、現地経済や文化交流、中韓関係全体にも波及効果をもたらしていると見られています。
6. 韓国コンテンツの魅力と「非日常」の演出力
中国の若者たちにとって、韓国旅行は「普段体験できない新しい自分」を発見する機会であり、K-POPライブへの参加やカフェ巡り、街歩き、屋台グルメ、そして偶然の出会いなどが「唯一無二の思い出」として強い印象を残します。韓国の都市文化や「推し活(*ペン活*)」も相まって、その余韻が現実に戻ったあとも強烈に残りやすい構造です。
7. 「ソウル病」の今後――心理的アプローチと社会的対応
- 「ソウル病」はSNS上の共感と体験共有が爆発的に拡大したことで加速していますが、一方で、現実逃避や依存症的傾向、心の空白などの問題も指摘されています。
- 専門家の中には、「海外旅行による開放感や幸福感は一時的なものだが、日常に戻った後のアフターケアが重要」とする意見も。
- これを受け、旅行会社や観光地、各種SNSプラットフォームも、「体験の消化をサポートし、ポジティブな郷愁へと転換させる工夫」が求められ始めています。
韓国政府や観光業界においても、「ソウル病」現象を単なる流行語にとどめず、中韓相互交流の新たな契機としようという積極的な動きが見られます。
8. おわりに――「ソウル病」が教えてくれる現代アジアの姿
「ソウル病」は、単に韓国旅行の人気や現地のホスピタリティの高さに起因する現象ではありません。SNS時代のグローバル化する若年層の心の在り方、異文化体験がもたらす心理的インパクト、そして「現実と理想」「日常と非日常」の間で揺れる繊細な人間の心情を映し出しています。
今後、「ソウル病」という言葉は、韓国旅行の枠にとどまらず、グローバルな観光コミュニティ全体の共通現象となるかもしれません。それだけに、「ソウル病」をどう受け止め、どのように前向きな経験へと昇華していくか――現代アジアの新しい課題と言えるでしょう。
■ 韓国旅行に興味がある読者へ――体験をより良い思い出へ
- 旅行後の「ソウル病」を感じた場合には、SNSで他の旅行者と語り合うのもひとつの方法。
- 韓国の空気や思い出を日常に取り入れたり、「なぜ惹かれたか」を自身で分析してみるのもおすすめです。
- 現地での体験が心の成長のきっかけになるよう、前向きに受け止めてみてください。