メルボルンで体験する学者の日常と国際研究交流――ワルチング・マチルダの旅に寄せて
はじめに:平凡な学者の“非日常”ツアー
2025年秋、オーストラリアのメルボルンをはじめゴールドコースト、シドニーを巡る「ワルチング・マチルダ~学者の平凡な日常」シリーズが話題となっています。この連載は、新型コロナウイルス研究者が多忙な業務の合間を縫って体験する、思いがけない出会いや現地での出来事、研究交流の現場に密着しながら、等身大の生活や学問の現場を綴っています。
メルボルン国際学会での出会いと発見
新型コロナウイルスがもたらしたパンデミック以降、国際的な学術交流はリモートが主流となっていましたが、2025年には徐々にリアルの開催も増加しています。今回の渡豪は「BIOMOLECULAR HORIZONS 2024」という生命科学国際学会への招待講演ツアーでした。学会には世界中から1,500名を超える研究者が集い、この分野の最新の研究動向や今後の方向性について熱い議論が交わされました。
基調講演(Keynote Lecture)を任された筆者は、最新の新型コロナウイルス変異株や社会へのインパクトについてまとめ、その内容に多くの参加者が耳を傾けました。この地で出会ったさまざまな研究者や、バーネット研究所での追加講演、さらに現地のSNSフォロワーとのカフェミーティングなど、メルボルンは研究と人間関係、異文化交流の交差点として強く印象に残ったといいます。
国際共同研究が進むメルボルン――北海道大学との連携
メルボルンは国際的な学術都市としても知られており、2025年度には北海道大学とメルボルン大学の共同研究ワークショップなど、日豪間の枠組みを越えた協働も本格化しています。医学やウイルス学を中心に多様な分野でのプロジェクトが採択されており、参加者には新型コロナウイルス感染症による渡航規制時でも柔軟に対応できる制度設計がなされています。これにより、遠隔でも研究を止めることなく、より長期かつ持続的な国際協力が実現しつつあります。
今回の“非日常”旅――都市ごとの日常と思い出
- メルボルンでは、歴史とモダンが織り交ざる街並みと、豊かなカフェ文化に触れました。ヤラ川河畔でのコーヒーブレイクは現地ならではの贅沢なひとときであり、SNSを通じた「フォロワー」と初めてリアルで出会う新鮮な体験もありました。「次のパンデミックは?」といった現実的な話題も気楽な会話の中で交わされ、学者としての緊張感と人間らしさのバランスが感じられる場面でした。
- ゴールドコーストでは、抜けるような青空と海の風景が広がり、学会後のリフレッシュには最適です。短い滞在の中でも、現地研究者や医療関係者とのネットワーキングが進みました。
- シドニーでは、都市の持つ活力と独自文化に刺激を受けつつ、会合やシンポジウムなどでの交流もさかんです。パンデミック以降、持続的な予防策や医療対応の知見を共有する国際フォーラムも開催されており、強い連帯感と今後への決意が感じられました。
リアルな学者生活と家族の時間
メルボルンの大学院医学部で学ぶ古川拓先生(集中治療科)は、研究活動の合間に家族との時間を大切に過ごしています。研究所では羊の人工心肺や敗血症モデルを用いて腎障害・脳障害の解明、新規治療法の開発に取り組みつつ、査読論文執筆や国際学会での発表、新たな挑戦として学生委員のシンポジウム企画運営など多面的な活躍を見せています。家族と外国生活を満喫しながら、子どもたちが異文化の中でどう成長していくのかを見守る日々も、また“小さな非日常”といえるのかもしれません。
メルボルンを中心とした国際的な研究最前線
オーストラリア国内でも新型コロナウイルスやその変異株に関する最先端研究が強化されています。2025年8月にはメルボルンで国際コロナウイルス研究会議が開催される予定など、巨視的観点からもメルボルンが科学交流のハブ都市であり続けていることが分かります。
また、長期的な変異株の予測や、ニューノーマル時代のリスク管理、医療体制の強化についても多様な議論がなされており、日本を含むアジア太平洋地域と欧米の架け橋としての役割が期待されています。
おわりに:日常と非日常が交差するメルボルン体験
「ワルチング・マチルダ」の旅を通じて、学者の日常と非日常――厳しい研究現場の緊張と、現地での温かい交流や家族とのリラックスした時間――が融合していることが伝わります。パンデミックを経た今、知識や経験のグローバル共有はより価値を増し、メルボルンのような国際都市が重要な役割を果たしています。現地の温かな交流、そして日常に潜む学問の小さな発見こそが、これからの時代をつなぐ鍵であることを改めて実感する旅となりました。



