坂本龍一の最期の日々を紡ぐ――映画『Ryuichi Sakamoto: Diaries』公開へ
伝説的音楽家・坂本龍一の軌跡を追う新たなドキュメンタリー
2023年3月、世界的音楽家として広く知られる坂本龍一さんがこの世を去りました。彼は音楽界に多大な影響を与えただけでなく、その思想や生き方で多くの人々の心に深い足跡を残しました。そして今、坂本龍一さんの最期の3年半の闘病と創作の日々を記録したドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto: Diaries』が、2025年11月28日(金)より全国公開されることが決定しました。監督は大森健生氏が務めます。
映画『Ryuichi Sakamoto: Diaries』――日記を軸にした新たな映像体験
この映画は、坂本氏自身がガンを患い亡くなるまでの3年半にわたる日々を克明に綴った「日記」を軸に、その軌跡を辿ります。坂本氏が感じたもの、聴いた音、考えたことが多様な方法で記録され、それらは映像として1本の映画に結実しました。この日記というプライベートな記録を柱にしながら、遺族の全面協力で集められた貴重な映像やポートレート、そして未発表の楽曲なども多数盛り込まれています。
また、本作は2024年にNHKで放送され反響を呼んだ「Last Days 坂本龍一 最期の日々」をベースに、映画オリジナルの未完成音楽や新たな映像も追加。より映画館の臨場感あふれる音響・空間ならではの体験として再構築されました。
「残さない音楽」――創作と死生観との対峙
映画の予告編やビジュアルで印象的なのが、「残さない音楽」という坂本氏の言葉。この言葉には、彼が生涯追い求めた「音」そのもの、そして芸術の本質や人生のはかなさが深く投影されています。坂本氏は日記に「死刑宣告だ」「どんな運命も受け入れる準備がある」といった極限の言葉を記し、病に苦しみながらも自身の死、そして音楽家として何を残すのかを静かに、しかし激しく思索し続けました。
- 終末期の創作活動や葛藤の瞬間など、これまで報じられることのなかった坂本氏の本音が描かれています。
- どんな人生の最期を迎えるのか、悩み苦しみながらも「理想の音」を追求し続けた姿が、観る者に深い問いと感動を残します。
田中泯による日記の朗読と、貴重な映像詩
本作で坂本氏の日記を朗読するのは、生前から親交の深かったダンサー・俳優の田中泯氏です。田中氏の静かで情熱的な朗読が、坂本氏の心の機微や苦悩を鮮やかに伝えます。
また映画では、ニューヨークの自宅、治療のため短期間過ごした東京、入院先の病室、そして最後のライブとなったスタジオでの記録が日記とともに丹念に紡がれています。坂本氏が最後まで見つめた自然――雨の音、雲の流れ、月の満ち欠けなどの美しい映像も挿入され、観客の心を静かに震わせます。
YMO・高橋幸宏との交流や、未発表曲の制作過程も
坂本氏とYMOで活動を共にした盟友・高橋幸宏氏との知られざる交流や、最晩年に生み出された未発表楽曲の制作過程も映し出されます。世界の第一線で戦い続けてきた坂本氏の音楽的探求、そして仲間たちとの絆も映画の大きな見どころ。彼自身が語る「音楽に残すもの・残さないもの」という深いテーマは、多くのクリエイターやファンに新たな刺激を与えるでしょう。
様々なメディア・ジャンルを横断した生涯
坂本龍一さんは、音楽家であるだけでなく、アート・映像・文学など多様な表現に挑み続けた表現者でもありました。その歩みは多くの人々に勇気と希望を届けてきました。2024年には東京都現代美術館で開催された展覧会「坂本龍一|音を視る 時を聴く」は34万人超を動員し、社会現象ともなりました。この展覧会では、坂本氏の多彩な業績が回顧されましたが、映画『Diaries』においては彼自身の目と耳、そして心で捉えた最後の3年半をより深く追体験できます。
今なお続く影響と普遍的なメッセージ
坂本龍一さんの晩年の記録は、その人生そのものが私たち一人ひとりに「どう生きるべきか?」という大きな問いを投げかけています。日々命と向き合い、限られた時間の中で何を残せるのか――本作が紡ぐメッセージは、世代や国境を超えて多くの人の心に届くでしょう。
- 映画『Ryuichi Sakamoto: Diaries』は、2025年11月28日からTOHOシネマズ シャンテほか全国公開。
- 日記の朗読:田中泯(ダンサー/俳優)
- 監督:大森健生
- 坂本龍一さんの創作・人生・死生観に迫る、必見のドキュメンタリーです。
観る人が自身に問いかける映画体験
この映画は、単にひとりの偉大な音楽家を讃える伝記映画ではありません。むしろ、「命」と「音楽」への飽くなきこだわりと葛藤、生きているからこその苦しみ、そして「何を残すのか」という問いが、普遍的な人間ドラマとして描かれています。そして、それは観る者自身にも生き方、人生の有限性についての深い問いを投げかけることでしょう。
- 「一音を大切にする」――坂本さんが残した音楽と言葉のひとつひとつは、今もそしてこれからも、私たちの心に響き続けます。
- その最後の3年半を映した『Diaries』は、時を超えて坂本龍一という存在に再び出会う機会を私たちに与えてくれます。




