錦戸亮が弁護士役で挑む――映画『ブルーボーイ事件』に見る尊厳と誇りの物語

■ 物語の背景――1960年代後期、高度経済成長期の日本

1960年代後半、日本は東京オリンピックや大阪万博で沸き、「国際化」という新たな時代に突入していました。その影響のひとつが、売春防止法の強化や、社会の「浄化」を目指した警察の取り締まりでした。ところが、「ブルーボーイ」と呼ばれた性別適合手術(当時の呼称は性転換手術)を受けた人々は、既存の法制度では取り締まりの対象にならず、その存在が警察や行政を悩ませることになります

この時代背景の下、警察は新たな方法で「ブルーボーイ」たちを一掃しようと動きました。それが、彼女たちに手術を施した医師を、当時の「優生保護法」(現在の母体保護法の前身)違反の疑いで逮捕し、裁判にかけるというものでした。実際の事件をもとに、人間の尊厳や社会の偏見、そして個々の誇りを問う法廷ドラマが生まれたのです。

■ 映画『ブルーボーイ事件』――キャスト・スタッフ

  • 監督:飯塚花笑
    独創的な視点でトランスジェンダー男性としてのアイデンティティを描いてきた監督であり、本作でも繊細かつ力強い筆致で登場人物たちの葛藤や希望を描きます。
  • 主演:中川未悠(なかがわ みゆ)
    実際に性別適合手術を経験し、ドキュメンタリー映画『女になる』にも出演した経験を持ちながら、本作で初めて演技に挑戦し、主人公・サチを演じています。
  • 弁護士 狩野役:錦戸亮
    物語のキーパーソンとなる弁護士を熱演。証人サチに出廷の依頼をする場面など、法廷での姿が話題となっています。
  • 医師 赤城役:山中崇(やまなか たかし)
  • サチの恋人 若村役:前原滉(まえはら こう)

■ あらすじ――ひとりの女性の勇気と人生の選択

舞台は1965年、オリンピック景気に沸く東京。主人公のサチ(中川未悠)は、街の喫茶店で働きながら恋人の若村(前原滉)とのささやかな幸せを感じていました。そんなある日、弁護士・狩野(錦戸亮)がサチのもとを訪れます――「証人として出廷してほしい」と依頼を受けるのです。サチは、違法とされた「性別適合手術」を施した医師・赤城(山中崇)の患者のひとりでした。

サチには、葛藤があります。自分の幸せと、過去、そして彼女と同じような立場にいる人々の未来。その裁判は、彼女自身の人生だけでなく、社会に生きる多くの人々の「尊厳」と「権利」を問いかけるものでした。そして――「今、幸せですか?」という裁判で問われる決定的な問いが、サチの心に深く突き刺さります。

■ 難しい時代に問われる“生き方”

当時、性別適合手術を受けた者たちは、法的にも社会的にも、極めて不安定な立場でした。戸籍上の性別は男性のまま、女性として社会で生きることを余儀なくされ、それもまた都市の近代化や「清潔さ」が強調される世論の中で、少数者として生きる過酷さがありました。

映画のなかでサチは、自らの尊厳を守るため、また過去の自分と向き合うために証言台に立ちます。「私は誰のために証言するのか」「本当に幸せになる権利が、私にもあるのか?」――そうした根本的な問いが、全編を通じて浮き彫りにされていくのです。

■ 証言台に立つ女性の姿――「尊厳」と「誇り」をかけて

本予告映像でも描かれているように、証言台に立つサチの姿が本作の大きな見どころのひとつです。抑圧や偏見、法の理不尽さに耐えながらも、「私は幸せになる」と自らの人生を生き抜こうとする強さ。それは同時に、観る人すべてに「自分の幸せとは何か?」を問いかけるものです。

■ 中川未悠さんの想い――初主演にかけるメッセージ

主演の中川未悠さんは、本作への出演についてこう語っています。

「初めてのお芝居、初めての映画出演、初めてお会いする人たちばかり。全てが私にとって初めてで、不安が大きかったですがキャストの皆さん、スタッフの皆さんに優しく接していただいたので凄く楽しい現場でした。サチを演じさせていただくからには、一人でも多くの人に希望をもって生きてもらいたい!と思いながらお芝居に取り組みました。ブルーボーイ事件は事実に基づいたお話しなので、より身近に感じていただきやすいストーリーになっています……私はこの作品を通じて誰もが幸せになる権利があることを伝えたいです。観て下さる方々も勇気や希望をもらえると思います。是非、映画館でご覧ください。」

■ 錦戸亮の弁護士役――法廷で描くもう一つの“尊厳”

本作で錦戸亮が演じるのは、実在の事件の流れを反映した敏腕弁護士・狩野。彼は、時代の壁や法の矛盾に挑みながら、サチや赤城医師とともに「人間の尊厳」を守るために奔走します。その姿は、問題を当事者だけに押しつけず、支える側の切実な想いも伝えるものとなっています

錦戸亮はこれまで数々の作品で異なる役柄を演じてきましたが、弁護士役として法廷で堂々と論陣を張る姿には、新たな一面が感じられ、観る者に強い印象を残します。サチとの対話を通じ、社会の常識や秩序を超えて「人間の幸せとは何か」に向き合う姿にも注目です。

■ なぜ今「ブルーボーイ事件」を映画化するのか?

本作が描くテーマ――「誰もが幸せになる権利」「自分らしく生きる尊厳」「時代に抗う勇気」は、過去だけでなく、現代を生きる私たちにも深く刺さる問題です。法律や社会通念が多数派の論理によって作られてきた中で、個々の存在や生き方がどう守られ、どう認められるべきなのかを問う本作は、多様性やジェンダーの問題がますます注目される現代において、大きな意義を持つと言えるでしょう。

■ 主な登場人物と関係図

  • サチ(中川未悠):性別適合手術を受けた女性で、事件の証人となる。
  • 狩野(錦戸亮):赤城医師の弁護を引き受けた弁護士。サチに証言を依頼する。
  • 赤城(山中崇):ブルーボーイたちに手術を施した医師。今回の事件で被告人となる。
  • 若村(前原滉):サチの恋人。サチの苦しみや選択を支える存在。

■ 「今、幸せですか」――現代への問いかけ

本作の本予告映像で最も印象に残るフレーズが、「今、幸せですか」という言葉です。これはサチだけでなく、登場人物全員、ひいては現代社会すべての人々への問いに通じています。
ブルーボーイ事件を通して描かれる「幸せであること」「自分らしくいること」への葛藤と願いは、50年以上の時を経てもなお、私たちの胸に問いを投げかけます。

■ まとめ――映画『ブルーボーイ事件』が伝えるもの

『ブルーボーイ事件』は、実在の裁判を題材に、個々の尊厳や幸せ、そして社会の在り方そのものを見つめ直す機会を与えてくれる作品です。主演の中川未悠、弁護士役の錦戸亮をはじめ、キャスト・スタッフ一同が真摯に紡いだ物語には、「誰もがありのままの自分で幸せをつかみ取る権利がある」という揺るぎないメッセージが込められています。
ぜひ、劇場でその想いに触れ、自分自身の「幸せ」について考えてみてください。

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