リチャード・リンクレイターが『Nouvelle Vague』でフランス・ヌーヴェルヴァーグを現代によみがえらせた

アメリカの巨匠映画監督リチャード・リンクレイターが、フランス映画史上最も重要な映画運動であるヌーヴェルヴァーグに敬意を払う新作『Nouvelle Vague』を完成させました。本作は2025年5月17日の第78回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で初上映され、約11分間のスタンディングオベーションを受けた話題作となっています。

『Nouvelle Vague』は、伝説的なフランス映画監督ジャン=リュック・ゴダールが1959年のパリで長編デビュー作『勝手にしやがれ』を撮影する20日間を追ったドラマです。リンクレイター監督にとってカンヌ国際映画祭コンペティション部門への選出は、2006年の『ファーストフード・ネイション』以来2度目となります。

ゴダールの映画製作スタイルをスクリーンに

本作の大きな特徴は、ゴダールの大胆で自由奔放な映画制作プロセスをリアルに描いている点です。作品を貫く重要なギャグの一つは、ゴダール自身の即興的な撮影傾向を映画化したこと。朝に書かれたその日の脚本、声による芸術的演出、ファルセットやシームレスな編集の軽視、1テイクにおける自然さを追求する姿勢が細かく描かれています。

興味深いエピソードとしては、初日のゴダールがわずか2時間で撮影を終えてしまい、撮影監督が「もう一回やる?」と尋ねたのに対し、ゴダールが「いや」と答えるシーンが紹介されています。このような創作現場の瞬間性と意外性への究極の追求が、本作の見どころとなっています。

リンクレイター監督は『スラッカー』『デイズド・アンド・コンフューズド』『ビフォア・サンセット』などの作品で知られており、ゴダールの自由なアプローチに特別な共鳴を感じていると述べられています。

歴史的な映画運動の再現

『Nouvelle Vague』は単なるメタ的な教訓映画ではなく、1950年代から60年代のフランス映画界の狂気的なエネルギーと知的で文化的な活気を伝えることに重点を置いた作品として評価されています。

ヌーヴェルヴァーグは、フランスの映画批評誌『カイエ・デュ・シネマ』がほぼ10年間にわたり、ある特定の映画制作の考え方を擁護してきた中から生まれた運動です。トリュフォー、シャブロル、リヴェット、ロメール、ロジエ、レネ、ヴァルダ、ドゥミといった新世代の映画作家たちが、ロッセリーニの自由なトーンとイメージに触発されて台頭してきた時代を背景としています。

本作では、エレガントなモノクロ撮影と1960年代の再現により、その時代の雰囲気が見事に表現されています。また、登場人物がいかにもその時代の象徴的人物に似ていることから選ばれたキャストが出演しており、クロード・シャブロル、ジャック・リヴェット、エリック・ロメールなどの著名な人物が登場するたびに正面ショットが一瞬映され、画面下には名前が表示される演出がされています。

ゾーイ・ドゥイッチ、ジーン・セバーグ役への想い

本作でアメリカ人女優ジーン・セバーグを演じるのは、ゾーイ・ドゥイッチです。ゾーイは、このような歴史的に重要な女優の役を演じるにあたり、「この素晴らしい女性に対して、できるだけ多くの愛と光を与え、敬意を払いたかった」とインタビューで語っています。

興味深いエピソードとして、アメリカ人のゾーイ・ドゥイッチは、コインをひっくり返してどのキャラクターが最初にカメラに映るかを決めるというゴダールのアイデアに慣れていなかったと描かれています。これはゴダールの即興的で自由な映画制作方法の典型を示すものとなっています。

煙草とニヒリズム——2025年秋のリンクレイター作品群

興味深いことに、『Nouvelle Vague』は、リンクレイター監督が2025年秋に発表した別の長編映画『Blue Moon』と共通のテーマを持っています。『Blue Moon』は、悲劇的な作詞家ロレンツ・ハートを描いた作品で、リンクレイター監督はこれまでメジャー作品とインディー作品を交互に制作する独特なキャリアパスを歩んできました。

両作品にはボガートの引用が登場し、いずれも煙草を燻らせながら、偉大な歌詞や記憶に残る曲、永遠に残る映画とは何かを思索するという共通の美学が貫かれています。この「煙草とニヒリズム」という底流が流れる作品群は、2025年秋のリンクレイター監督の創作の本質を示しています。

公開と配信情報

『Nouvelle Vague』は2025年秋に劇場公開され、11月14日からNetflixで配信されました。フランスでは2025年10月8日に映画館での公開が予定されていました。本作は、リチャード・リンクレイター監督にとって通算24作目の長編映画となります。

カンヌでの11分間のスタンディングオベーションを受けたことで、パルムドール受賞への期待も高まっています。これは、アメリカの独立系映画監督からフランスの映画史上最重要の映画運動へ捧げられた、一種の映画愛の宣言となっているのです。

映画批評としての価値

『Nouvelle Vague』は、単なるゴダール伝ではなく、リンクレイター監督からヌーヴェルヴァーグへの完璧なラブレターとして機能しています。映画の常識を大胆に無視するゴダールの姿勢が、なぜこれほどまでに重要なのか、そしてその自由な精神がいかに後世の映画制作に影響を与えたのかを、リンクレイター監督特有の暖かく人間的な眼差しで描き出しています。

本作は、映画史に名高い『勝手にしやがれ』の舞台裏を描くだけでなく、映画制作とは何か、映画史とは何かについての深い思索を提示する作品となっており、映画ファンはもちろん、創作者たちにとって必見の作品として位置づけられています。

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