NHK「らじる★らじる」で楽しむ冬の夜――ロックと文芸が響き合う特集番組が話題に

インターネットラジオサービス「らじる★らじる」で配信されているNHKラジオの番組が、いま静かな注目を集めています。
とくに話題になっているのが、ロック音楽と聖書の関わりをたどるシリーズ「ロック史の中の聖書」と、名作文学を朗読で味わう「ラジオ文芸館」です。
どちらも、らじる★らじるの配信を通じて、忙しい日常の中でもじっくり楽しめる内容として支持を広げています。

「らじる★らじる」とは?――NHKラジオを気軽に聴ける公式サービス

まずは、今回のニュースのキーワードになっている「らじる★らじる」について、あらためて簡単に整理してみましょう。

  • NHKが提供する公式インターネットラジオサービスであること
  • パソコンやスマートフォンから、NHKラジオ第1・第2・NHK-FMなどの番組を聴取できること
  • 生放送だけでなく、一部番組は聞き逃し配信オンデマンド配信

ラジオを持っていなくても、インターネット環境があれば、通勤中や家事の合間、就寝前など、さまざまな場面で番組にふれることができます。
今回取り上げる「ロック史の中の聖書」「ラジオ文芸館」も、らじる★らじるを通じて多くの人に届き、SNSなどで話題が広がっています。

特集「ロック史の中の聖書」第1回――“生まれた時から生活をともにする聖書”

NHKラジオ第2の番組「カルチャーラジオ 芸術その魅力」では、2025年12月の特集として「ロック史の中の聖書」が取り上げられています。
洋楽の歌詞の“深い読み”に定評のある翻訳家・編集者の朝日順子さんが、ロックやポップスの中に現れる聖書のモチーフや言葉をひもといていく内容です。

第1回のテーマは、ニュース内容にもある「(1)生まれた時から生活をともにする聖書」
英米のミュージシャンの多くは、子どものころから家族とともに教会に通い、聖歌隊で歌うなど、日常的に聖書に触れて育ってきた背景があります。
そうした文化的・宗教的な土壌が、のちに彼らの作る楽曲の歌詞や世界観に、大きな影響を与えているという視点から番組は進められます。

第一回では、放送禁止を恐れながらも、「神」や「キリスト」といった言葉を歌詞に取り入れた時期の代表的な3曲が紹介されます。

  • ビーチ・ボーイズ「God Only Knows(神のみぞ知る)
  • ビートルズ「Eleanor Rigby
  • ドリー・パートン「Coat of Many Colors

それぞれの曲に込められた宗教的ニュアンスや、聖書の物語とのつながりを、朝日さんがじっくりと解説していきます。
リスナーは、ただ「名曲を聴く」という楽しみだけでなく、「なぜこの言葉が選ばれたのか」「背景にはどのような文化があるのか」といった、ひとつ踏み込んだ視点を得ることができます。

ビーチ・ボーイズ「God Only Knows」――“神のみぞ知る”というフレーズの重み

ビーチ・ボーイズの「God Only Knows」は、ロック史の中でも特に評価の高い名曲として知られています。
タイトルの「God Only Knows」は直訳すると「神にしかわからない」という意味で、日常会話でも使われる表現ではありますが、その背後には「すべてを知る神」という聖書的な神観がにじみます。

番組では、「神」という言葉をあえてポップソングのタイトルに冠したことのインパクトや、当時のアメリカ社会における宗教観、放送コードとの関係などにも触れながら、その歌詞の味わい方が紹介されます。
らじる★らじるで聴くことで、歌詞カードを眺めるだけでは気づきにくいニュアンスにも耳を傾けられるでしょう。

ビートルズ「Eleanor Rigby」――孤独と教会が交差する物語

ビートルズの「Eleanor Rigby」は、孤独な女性と牧師の姿を描くドラマティックな1曲です。
歌詞には「教会」「神父」といった言葉が登場し、現代社会における宗教と人間の孤独がテーマのひとつとして浮かび上がります。

「ロック史の中の聖書」では、この曲のストーリー性や、イギリス社会における教会の位置づけ、さらには聖書における「孤独」や「救済」といったキーワードとのつながりが丁寧に解説されます。
ビートルズを聴き慣れた人でも、新たな発見がある内容といえるでしょう。

ドリー・パートン「Coat of Many Colors」――旧約聖書の物語から生まれた歌

カントリー界の大スター、ドリー・パートンの「Coat of Many Colors」は、旧約聖書の「ヨセフの物語」を下敷きにした曲として知られています。
貧しいながらも、愛情をこめて「継ぎはぎの上着」を縫ってくれた母親と、その上着を誇りに思う娘の姿が歌われ、聖書の逸話と個人的な思い出が重ねられています。

番組では、聖書に登場する「多くの色の衣」と、ドリー・パートン自身の幼少期の体験がどのようにつながっているのか、そしてそれがアメリカの宗教文化の中でどのように受け止められてきたかが解説されます。
これまでなんとなく聴いていた人も、物語の背景を知ることで、曲への親しみがいっそう深まるはずです。

講師・朝日順子さんの視点――“歌詞の深読み”がロックをさらに面白くする

今回の特集を担当する朝日順子さんは、翻訳家・編集者として洋楽歌詞の解説などを多数手がけてきた人物です。
NHK文化センターでは、同名の講座「ロック史のなかの聖書」も担当しており、ロックと聖書の関係をわかりやすく紹介する取り組みを続けています。

英米の多くのミュージシャンが、幼いころから家庭や教会を通じて聖書に親しんでいたという事実は、日本ではなかなか実感しにくいかもしれません。
しかし、その文化的背景を知ることで、歌詞に出てくる言葉の選び方や、メロディに込められた感情の方向性が、よりクリアに見えてきます。

朝日さんの解説は、専門的な知識をかみ砕きながら、「聖書を知らなくても楽しめるけれど、知っているともっと面白い」という距離感を大切にしている点が特徴的です。
らじる★らじるを通じて、音楽ファンだけでなく、聖書や宗教文化に関心のある人にとっても、学びと発見のある番組となっています。

「ラジオ文芸館」で味わう山本周五郎「鼓くらべ」――朗読の力でよみがえる名作

一方、同じくらじる★らじるで話題を集めているのが、「ラジオ文芸館」で放送された山本周五郎 作「鼓くらべ」です。
朗読をつとめるのは、アナウンサーの上田早苗さん。
滑らかな語り口と情感豊かな声によって、時代小説の世界が耳の中に立ち上がってくるようだと評判です。

山本周五郎は、人情味あふれる時代小説で多くの読者に愛されてきた作家です。
「鼓くらべ」は、その代表作群のひとつとして知られ、登場人物の心の揺れや、ささやかな誇り、葛藤などが繊細に描かれています。
文章として読むときとはまた違い、朗読というかたちで耳から物語に触れることで、登場人物たちの息遣いや、場面の空気感をよりリアルに感じることができます。

上田早苗アナウンサーの朗読が生む“聞く読書”の魅力

朗読を担当する上田早苗さんは、原作の持つ品格とあたたかさを大切にしながら、登場人物ごとの声色や語りのテンポを繊細に変化させています。
静かな場面では息をひそめたような語りで、緊迫した場面では少し速めのリズムで、といった具合に、声だけで物語の“カメラワーク”を表現しているのが印象的です。

読書をする時間はなかなか取れないという人でも、らじる★らじるを使えば、通勤中や家事の合間に「聞く読書」を楽しむことができます。
文字を追う読書が苦手な人にとっても、朗読は物語の世界に入る優しい入り口となってくれるでしょう。

「ロック史の中の聖書」と「ラジオ文芸館」――異なるジャンルをつなぐ“物語”という共通点

一見すると、ロック音楽と時代小説、宗教文化と文芸朗読は、かなり離れたジャンルに思えるかもしれません。
しかし、今回らじる★らじるで話題となっている「ロック史の中の聖書」「ラジオ文芸館」山本周五郎「鼓くらべ」には、いくつかの共通点があります。

  • どちらも物語性が強いこと
  • 「人はなぜ生きるのか」「何を大切にするのか」といった普遍的なテーマを扱っていること
  • 耳で聴くことで、自分なりの情景や登場人物の姿を想像できること

ロックの歌詞に潜む聖書のイメージも、山本周五郎の小説に描かれる人情も、根底にあるのは人間の喜びや悲しみ、葛藤、希望といった普遍的な感情です。
音楽や言葉を耳で聴き、自分の中でイメージをふくらませるという点で、両方の番組はどこか通じ合っているといえるでしょう。

らじる★らじるで広がる“ながら教養”――日常のすき間時間で楽しむ文化体験

インターネットラジオのらじる★らじるを通じて、こうした質の高い教養番組や朗読番組を、場所や時間を選ばずに楽しめるようになったことは、大きな変化です。
少し前までは、「教養講座」や「文芸番組」と聞くと、決まった時間にラジオの前に座って耳を澄ませる必要がありました。
しかし現在は、スマートフォンひとつあれば、日常の中に自然なかたちで文化的な時間を取り入れられます。

とくに、音楽の背景を知りたい人や、名作文学に触れてみたいけれど本を開く時間がなかなか取れない人にとって、らじる★らじるはとても心強い存在です。
なにかをしながらでも耳だけは自由である、という現代の生活スタイルと、ラジオというメディアの相性のよさを、あらためて感じさせてくれます。

今回の「ロック史の中の聖書」第1回と、「ラジオ文芸館」山本周五郎「鼓くらべ」は、その象徴的な例といえるでしょう。
ロックの名曲と聖書、時代小説と朗読という、一見すると難しそうなテーマも、やさしい解説と心地よい語りによって、多くのリスナーに開かれたものへと変わっています。

らじる★らじるを入り口に、音楽や文学の世界へ一歩踏み出してみることで、日々の景色が少しだけ豊かに見えてくるかもしれません。

参考元