百田尚樹代表、「NHKニュース7」の映像演出に疑問──“ダッチアングル”使用をめぐる議論と波紋
はじめに:ニュース映像と演出が呼び起こした大きな反響
2025年10月23日夜、NHKの報道番組「ニュース7」で放送された映像が、大きな話題となりました。報道対象は高市早苗首相の内閣本格始動に関するものでしたが、その中の映像演出に関して、日本保守党代表で作家の百田尚樹氏が疑問を呈し、SNSを中心に大きな反響が広がっています。特に映像の“斜め”になったカットについて「ダッチアングル」という映像手法が意図的に使われているのではないか、その演出意図や報道姿勢にまで多くの議論が及んでいます。
百田尚樹氏の指摘──「高市総理や議事堂が斜めになっている」
百田尚樹氏はX(旧Twitter)への投稿の中で、22日夜に放送された「ニュース7」において、高市首相や国会議事堂を映した際の映像が“斜め”になっていたことに気づいたとし、「これは『ダッチアングル』と呼ばれる手法で、見ている人に不安や緊張感を与える効果がある。意図的にやっているのは明らかで、極めて悪質な報道である」と述べました。
この投稿には視聴者や関係者から2500件を超えるコメントが寄せられ、「映像の使い方に悪意を感じる」「ニュースは客観性が大事」「報道は感情操作ではなく、事実を伝えるべき」などさまざまな意見が集まっています。評論家や放送作家も、報道映像における演出のあり方について議論を展開しています。
ダッチアングルとは何か?──基礎から解説
- ダッチアングル(Dutch Angle):カメラを意図的に左右どちらかに傾けて撮影する映像技法。別名で「ダッチチルト(Dutch Tilt)」「オブリークアングル(Oblique Angle)」「カントアングル(Canted Angle)」などとも呼ばれる。
- 通常、画面の水平線が地面や建物などのラインを揃えて水平になるように構図を取りますが、この手法では画面全体が斜めになります。
映画やテレビの演出でよく使われる手法であり、映像に不安定さ・緊張感・違和感を生み出すのが主な目的です。観る人は無意識のうちに「何かがおかしい」「普通ではない」といった感覚を覚えます。
ダッチアングルが与える主な効果
- 登場人物や状況に不安・緊張・混乱を与えることを強調
- 現実世界とは異なる異常・非現実な雰囲気の演出
- 権力関係や心理戦、社会的な揺らぎや圧力を示唆
- 物語や状況が通常とは異なる方向に向かっていることを視覚的に示す
例えばサスペンス、ホラー、SF、心理劇といったジャンルの映画で多用されてきました。視聴者が「この場面は何か特別な意味がある」と感じさせたい場合によく使われます。
過去の有名な“ダッチアングル”使用例
- 『第三の男』(1949年):戦後の不安定なウィーンを表現するために多用
- 『バットマン・フォーエヴァー』(1995年):登場人物の精神状態や異質性を強調
- 『マイティ・ソー』(2011年):宇宙的で異世界的な雰囲気演出のため頻繁に使用
映像制作の現場では角度の傾きは数度から最大45度ほどまでで、傾きが大きいほど不安定感が強調される傾向にあります。三脚ごとカメラを傾けて撮影する、あるいは編集段階で画像を回転させることで表現されます。
なぜニュース映像でダッチアングルが問題となったのか
映画やドラマと異なり、報道番組は「客観的で中立的な情報伝達」が前提とされています。映像演出によって視聴者の心理や印象が大きく左右されることがあるため、たとえば政治家の登場シーンや政府の意思決定が絡む場面でダッチアングルが用いられると、「意図的な印象操作」と受け止める人も少なくありません。
今回のNHK「ニュース7」では高市早苗首相および国会議事堂のシーンが斜めになっていたことから、一部視聴者や識者が「報道の公正さ」に強い疑念や違和感を持った形です。特に百田尚樹氏は「意図的な悪質演出」と主張していますが、「ちょっとした撮影ミスや偶然」とする冷静な意見も見られ、SNS上では賛否両論が続いています。
“映像の演出”と“報道倫理”──視聴者意識の高まり
- 放送局や番組制作サイドに「視聴者への説明責任」が求められる時代へ
- 映像演出と事実伝達のバランス、ニュースの中立性・客観性志向の再認識
- 簡単にSNSで声や反響が広がる現状で、演出効果へのリテラシーも重要視
放送作家、評論家、一般視聴者それぞれの立場から、「映像の意図」「その影響」をどうとらえるかという問いかけがされた今回の騒動。メディアリテラシーが問われるなか、「なぜその画角なのか」という点への説明や説得力が、より一層社会から求められるようになっています。
NHK側の対応と社会的議論――今後の課題は?
現時点(2025年10月24日午前)で、NHK自体は公式な説明や謝罪は出していません。しかし、今回の一件は今後のニュース映像制作・放送時のガイドラインやガバナンス、さらには社会的なメディアの説明責任のあり方を見直す契機となる可能性をはらんでいます。
また、映像表現の多様性と、報道に不可欠な客観中立性とのバランスについて、放送業界全体で議論が続くことが予想されます。
まとめ──「NHKニュース7」“ダッチアングル”騒動から私たちが学ぶこと
今回の騒動は、ニュース番組における演出手法がいかに視聴者の受け止め方や“信頼”に影響を与えるか、そのダイナミズムを示しました。映像表現の意味、ニュース制作の在り方、そして我々視聴者のリテラシーや批判的視点の大切さ。報道やメディアの可視性が高まり、意見のやり取りが容易になった現代において、「映像の中身」だけでなく「映像の見せ方」にも十分な注意と対話が必要だと言えるでしょう。



