高野山 世界遺産がインバウンドを歓迎する理由 〜短パン・サンダルでも心で仏に向き合う新しい参拝のかたち〜
高野山は和歌山県に位置する日本仏教の聖地であり、長い歴史と深い宗教的意義を持つ世界遺産です。いま、高野山は「インバウンド(訪日外国人観光客)」の波に揺れ、伝統と新しさが交差しています。そんな中、短パンやサンダル姿の外国人観光客が多く訪れていますが、「彼らは日本人以上に仏さまに真剣に向き合っている」と話題になっています。なぜ、世界遺産・高野山はインバウンドを積極的に受け入れ、異文化の来訪者を歓迎するのでしょうか。その理由と現代の高野山のあり方について解説します。
高野山とは?〜弘法大師・空海が開いた聖地〜
高野山は今から約1200年前、弘法大師空海によって開かれた真言密教の聖地です。広大な山上の町には多くの寺院や堂宇が立ち並び、特に「壇上伽藍」や「奥之院」、そして真言宗の総本山である「金剛峯寺」は日本人・外国人問わず多くの参拝客が訪れます。2004年には「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部としてユネスコの世界遺産にも登録され、世界中から注目を集めています。
インバウンドで賑わう令和の高野山
近年、高野山は外国人観光客の急増で賑わいを見せています。例えば2025年現在、南海電鉄のなんば駅から高野山行きの電車やケーブルカーにはバックパックを背負った外国人が目立ち、駅からバスに乗って「大門」へと向かうと車内はほぼ外国人観光客で満席——そんな光景が日常になっています。その多くが日本文化や仏教、そして精神的な体験を求めてやってくるのです。
気になる「短パン・サンダル」の参拝スタイル
伝統的な日本の寺社仏閣では、敬意を示す意味で肌の露出を控えた服装が推奨されてきました。しかし、現代の高野山では「短パン・サンダルでも受け入れる」姿勢が強調されています。その理由について、現地関係者は
「形式よりも“心”で仏さまに向き合うことを重視している。訪れる外国人の中には、服装はカジュアルでも、仏教の教えや精神文化に真剣に向き合い、熱心に体験しようとする姿勢が日本人以上に強い方も少なくない」
と語っています。
実際、寺院の宿坊では英語や多言語での案内が徹底され、外国人宿泊者が大半となる日も珍しくありません。
なぜ高野山はインバウンドを歓迎するのか?
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グローバルな仏教文化の発信地
高野山は真言宗・密教の聖地として独自の宗教体験や精神文化を世界に発信できる場所です。世界遺産登録以降、その「精神的価値」は日本人だけでなく多様な文化・信仰を持つ外国人にも開かれました。異文化交流の中で互いの宗教理解や共感が生まれることは、現代社会にとって重要な役割となっています。 -
持続可能な地域振興
円安の影響もあり、地方観光地にとってインバウンドは地域経済・雇用の要となっています。高野山の多くの寺院も観光業や宿坊の運営を通じて安定的な収入を得ています。 -
伝統の“新陳代謝”と柔軟性
高野山は歴史的に「女人禁制」など厳しい伝統を持ってきましたが、明治以降は女性も参拝でき、近年は多様な来訪者に門戸を広げています。伝統を守りつつもグローバル社会に対応する柔軟性は、現代の日本の寺社の一つのあり方といえるでしょう。
高野山で外国人が体験できること
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宿坊体験
お寺に泊まり、精進料理や朝夕の勤行(読経・瞑想)を体験できます。50ヶ所以上の宿坊が外国人を受け入れており、予約・案内は多言語対応です。 -
護摩行・写経・座禅
護摩焚きや写経、座禅といった日本独自の精神修養体験は、国内外問わず非常に人気があります。 -
精進料理
肉や魚を使わない質素ながらも美しい料理は、健康志向の外国人にも好評です。 -
文化財巡り
壮大な「大門」や「壇上伽藍」、厳かな「奥之院」など、歴史的建造物や仏像を巡りながら日本の精神文化を体感できます。
観光地としての“多様性”が生む新しい価値観
かつては“日本人の聖地”だった高野山ですが、インバウンドを受け入れる中で「多様な宗教・文化の人々が平等に仏の教えに向き合う場」という新たな側面が生まれてきました。短パンやサンダルの姿でも、「心からの祈りや関心」を持つことで、その場にふさわしいと判断されています。
こうした取り組みは、単純に入場者数を増やすだけでなく、日本の宗教文化を世界に開くという大きな意義があります。そして、従来の“型”や“格式”へのとらわれを和らげることで、日本人自身にもものの見方や信仰を問い直すきっかけとなっています。
訪れてみたくなる、和やかで温かい高野山体験
高野山を訪れた日本人旅行者からも「外国人観光客の多さ」に驚きの声が上がっていますが、現地で働く人たちは非常に親切かつ温かい対応を心がけており、多言語スタッフの姿勢や案内の充実ぶりも印象的です。また、従来の“観光”だけでなく、「精神的な交流」や「異文化体験」として高野山を訪れる外国人も増え、夜には宿坊に英語が飛び交い、国際色豊かな雰囲気が広がっています。
今後の高野山〜日本人にとっても“新しい聖地”へ
最初は「ここは日本なのか」と思うほどのインバウンド熱ですが、今や高野山のこのグローバルな風景は「新しい日常」となっています。外国人が日本の文化・信仰に真剣に向き合う姿は、日本人自身にも新しい価値観や誇りをもたらしています。伝統を守りながらも多様性や開放性を受け入れる高野山は、今後も日本国内外から多くの人々を惹きつけ続けることでしょう。